CASE:1 白石陽 1/2
お待たせいたしました、木丘柊遠です。
CASE1〜5はメイン主人公達のストーリーになります。
大話31の構成です。
完結を目標に頑張っていきます。
生まれた時、彼は死んでいた。
息は止まっており、心臓も動かない。
誰もが何かの拍子で窒息したんだ。そう考えた。
母親は、泣き噦り、この子を助けてください、助けてください。そう叫んだ。
その声に応えたのは、医者でも、父親でもなかった。
「母よ、その子を生かしたいのか?」
厳とした雰囲気のある女の声。
「ーーはい。この子は私の希望です」
「……わかった。私の力なら、この子を生かすことができる」
その言葉に、母は声音は嬉しそうになった。
「本当……本当ですか!?お願いします……我が子を……!」
「だけど、ひとつだけ条件をつけよう」
懇願の声を遮り、女は告げた。
「私をこの子の中で『生かして』欲しい。なに、私は半死半生の身でね、『完全に生き、完全に死んでみたい』だけなんだ。殺しはしない。この子が全てを見終えた時、私はこの子と共に帰るよ」
母は沈黙した。
我が子を生かしたい。しかし、その中に我が子ではない何かが入る。
それを母は許せるのか。
「わかりました。背に腹は変えられません」
母は我が子が生きることこそ喜びだ、そう言ってこの言葉を告げた。
「しかし、我が子の意志を強くしてください。あなたがもし我が子の体を使って表面に出るときはあっても、我が子が体の基本を操る事を、約束してください」
母の願いを女は、
「聞き入れよう。汝との誓いは破らない」
そう言って。死んでいる体に女と、女が持っている玉と共に入ろうとする。
「待ってください!せめてーーせめて、名前を聞かせて頂けませんか?」
「私の名前かい?ーー『ヘル』。もしくは『ハリファ』と呼ばれるな。君の命も、彼の命も、私の元に連れて行こう。私はこの子が気に入ったよ」
母は、寝たまま、深く礼をした。
「次に会うときは、『大いなる地の底、さらに奥深く』でだ。また会おう」
その後子は息を吹き返した。
奇跡と称される、再誕劇として、語られることになった。
彼の父親は、すぐに離婚した。
生き返った子を、子として認識しない。
そう言って母と別れた。
母は、少し経つと、家からいなくなった。
仕送りが来ている以上、彼の生活に負担はない。
彼のーー『白石陽』と名付けられた少年は、一軒家で一人、少し質素な生活を送っていた。
彼はほとほと「不運」だった。多くの出来事が悪い方に転がり、自分か、それとも他人に災難が及ぶ。
それを誰のせいにもせず、全てを受け入れる姿勢は、彼の感情から怒りを消した。
怒ることをせず、「それは成長への道だ」と解釈する。それが生き方なんだ、そう思った。
結構小分割して行こうと思います。
現在は書き溜めを毎週投稿する形で、その間に書き溜めを作っていく……というイメージです。