8話 部活プロジェクト!?3
「そう言えば、連絡先知らなかったな…」
授業が終わって寮に戻ろうとしていた時、ふと俺は思った。
日向のLINEは知ってるけど、東さんのLINEはまだ知らない。まぁ出会ってそんな経っていないから普通ではあるのだが。
「なに?私の連絡先が欲しいって?」
「うわぁ!?」
声の聞こえた方に振り向くと、俺が求めていた東さんではなく、ワクワクというかニヤニヤというか、そんな表情の…栞であった。
「ど、どうしてここにいるんだ?」
「いやー、急にあんたのLINEが欲しくなったもんでねー。」
「え?!」
え?え?そんなことある!?
「……まぁ嘘だけど。」
ですよねー。
「で、誰の連絡先が欲しいの?」
聞こえてたのか。
またニヤニヤした栞が首をかしげながら聞いてくる。
「……関係ないだろ。」
「なるほど、思春期ですか。」
「思春期ちゃうわ!」
「じゃあ言ってみ!」
どうやら栞はニヤニヤワクワクが止まらないようだ。
「はぁ、東 桔梗。2のAの女子だ。」
俺は仕方なく、ぶっきらぼうに言った。
「……え?!」
思ったより驚いているようだ。
「そんなに驚くか?」
なんか驚き方がふざけてる気がするんだが、気のせいか。
「……思春期じゃん。」
「思春期ちゃうわ!」
予想通りからかったな。
「てか栞……」
まだ名前で呼び捨てはちょっと照れるな。
自分でも顔が赤くなっているのがわかった。
「お?なになに?」
栞はちょっと意外そうに目を丸くしていた。でもなんか嬉しそうだ。
「東さんのこと知らないのか?」
何気知名度高いと思っていたのだが、クラス上位の陽キャは結構知らない感じをかもし出している。
「うーん、あんま分かんないけど、可愛いって誰かが言ってた気がする。」
「そうか。」
そう言うと、栞は頭の上の電球が光ったように口を開いた。
「あー、莉久くんはその東さんにアプローチをしたいと言うことですか。」
「しないってば!」
栞のニヤニヤは止まらない。
「東さんって、結構尻軽らしいよー。」
「うっそ!マジか!?」
それはちょいと、いやかなりショッキング。
「いや……信じると思わなかった。」
嘘だったんかい。
栞は何気に引いてる。
「はぁ。楽しいか?」
心底呆れたように俺は言う。
「うん、ちょっとね……」
なんか栞が急にしんみりした雰囲気になった。
「どうかしたのか?」
「うん……いや、呼び方って莉久くんで良かったのかなぁ、なんて。」
栞はいまさっきみたいなニヤニヤじゃなく、今度は苦笑いのような表情をした。
でも、なんか問いただすのも悪い気がした。俺はあの時で学んだんだ。
「あ、あぁ。なんでもいいぞ。」
「じゃあ、莉久でいいや。」
「うん。」
いきなり廊下にしん、とした空気が流れた。今の廊下は俺たち2人だけの世界のようだ。
でもその世界は誰かが階段を降りてくる音で崩れた。
「はっけーん!りくくーん!」
「どわあっ!?」
目の前に例の女の子がスライディングしてきた。というか、目の前でこけた。
こいつってこんなキャラだったっけ?
「何やってんだ?お前。」
若干引き気味で俺は言った。
「いやー、急に莉久くんのLINEが欲しくなったもんでねー。」
東さんは汚れたところを立ち上がりながら手でパタパタと叩いた。
「いや、嘘だろ?」
「な、なんでわかった!?」
変なポーズを取りながらめっちゃ驚いている。
こいつってこんなキャラだったっけ?
「デジャブった。」
「で、でじゃぶ?」
どうやら言葉の意味がわかんないようだ。
「……ふふっ。」
ふと笑い声が聞こえた。
声の主は東さんではなく、栞だった。
「なんで笑ってんだ?」
「いや、二人共、仲がいいんだなって。あなたが東さんなんでしょ?」
「うん、そうだよ。てか莉久くんに友達なんていたんだね!」
「めっちゃいるわ!」
「「え?」」
……
「少しいるわ!」
「「うん。」」
みんな納得したようだ。
「成長したね、莉久くん……ぐずっ。」
え?こいつってこんなキャラ(ry
東さんはハンカチを噛んで、涙ぐんでいる。
どこから出てきたそのハンカチと涙!
「まだ会って1週間も経ってないだろうがァ!」
「ははっ。ほんと仲良いね。」
栞はちょっと涙を浮かべながらまだ笑っている。いつもはこんなんじゃないんだけど。
「で、結局2人とも、なんのようなんだ?」
「「LINE交換」」
即答だった。
正直めっちゃ嬉しい。
美少女に、それも2人にLINE交換を迫られる平凡男子。うん、いい。
「は、はい。」
俺はなくなく、という感じの演技をしてスマホを取り出した。
「これでOKだね。」
「完了っと。」
これで友達登録完了。俺の友達一覧の合計が2つ増えた。
「こ、こほん。気を取り直して、今日の成果はあったか?」
無論、部員集めのことだ。
「いやー、それが極度の人見知りでして……ん?あれ?」
「ど、どうした?」
俺も栞も心配そうに東さんを見つめる。
まさか。
俺は東の耳元で語りかけた。
「お前、覚えてないのか?」
「……うん。」
「!?」
「確か、ね。クラスの人に喋りかけたんだけど、それからがね。」
あの現象が起きた、ということか。今度はクラスの人との会話の全てを忘れてしまったわけか。
「……そうか。」
なんかしんみりしてしまった。
結構栞も心配そうにしてるし、なにか会話を繋げないと。
「ぁ、そうだ!栞は部活に興味無いか?」
「え?!部活?」
栞はいきなり質問を投げつけられて困惑している。
「そうだ。実は俺たち部活を作ろうとしてるんだ。俺たちの他にもう1人男子がいるんだけどさ、まだ人数が2人足んないんだ。だから……」
「うん、いいよ。」
「え?」
意外とすんなりOKがでた。
「で?その部活は何をするの?」
「あ、あぁ。友達を作る部活、らしい。」
言ってて馬鹿らしくなってきた。
「ま、いいんじゃない?」
「ほ、ほんとか?」
「ほんとほんと!……まぁ、その申請が通ればだけど。」
ぐさり。
「そうだな。」
「まぁ、ちょうど私もバイトクビになって暇してるとこだし。」
バイトクビになるって何やらかしたんだよ。
「だってよ。良かったな東さん。」
まだ東さんは深刻な表情を浮かべている。
「ねぇ、さっきからどうしちゃったのかしら。」
栞は東さんの記憶が飛んでるとこなんて、まだ知ることではないだろうからなにか適当に辻褄合わせないと。
「ほ、ほら。東さんはAコースで天才だろ?だから今宿題の難問を頭で解いてるとこなんだよ。な?東さん!」
「へ?あぁ、うん。」
曖昧というか、話を聞いてなかったのか、東さんの口からは変な声が出た。
「あー、なるほど。」
自分で言ってて情けないと思ったが、栞は案外間に受けてくれた。
何とかやり過ごせた。
「はぁ、帰るか。」
「そうだね。」
「……うん。」
俺の声に続いて、3人で昇降口に向かって歩き出す。
「そう言えば、俺は寮生活だけど、2人はどこで寝泊まりしてるんだ?」
単純に気になったのと、なんか重い空気を少し和ませるために質問してみた。
「私も一緒。家が結構遠いからね。」
茶髪をクルクルも指で巻きながら栞はそう言った。
「東さんは?」
「……」
「おーい。」
おでこにデコピンしてみる。
「あいた!何すんのよ急に!」
ガツンと俺は膝に蹴りを入れられた。
「……った!」
なんか雰囲気が最初に会った東さんに戻っている感じがする。
「てか、女の子に家の住所教えろ!とかありえないと思うんだけど。」
東さんはジト目でこっちを見つめてくる。
なんか微妙に、というかかなりニュアンスが違う気がするんだけど。
「そんなこと聞いてないわ!寮か家かって聞いたんですけど!?」
「はぁ、てか莉久くん。そ、その……」
「?なんだ?」
東さんは恐る恐る俺の耳に口を近づけてこういった。
「社会の窓、空いてる。」
「あ!うそ!?」
まじかー。たまにというか結構な頻度でトイレ行ったあとに空いちゃってるけど、女子に指摘されるのは結構な恥ずさだ。
すっと何事も無かったように、手で髪をいじるろうとする瞬間に上へ窓を引き上げた。
「やるじゃない。」
俺の凄技にちょっと関心している東さん。
そして話についていけず、動揺している栞。
そんなこんなで昇降口に着いた。
ロッカーから靴を取り出して、3人で校門を潜る。
会話は『ここのパンケーキ屋さん今度行ってみない?』とか、『あの俳優かっこいいよね!?』ぐらいのくだらない会話だったが、なんか勝手に笑顔になれた。
と、なんやかんやで寮に着いた訳だが。
「東さん。あなた寮住みだったんですか?」
「違うわ。」
「じゃあなんでここに居るんですか?」
「なんでって。莉久くん、あなた天草先生に話聞いてないの?」
なんだよ話って。
なんか不吉な予感がするんだけど。
「私は今日からここに、莉久くんの部屋に泊まるわ。」
「は?」
「え?」
俺と栞はポカーンとしながら東さんを見続けた。
「聞き間違いかもしれない。もう一度言ってみてくれないか?」
「あーもう!いいわね!心して聞きなさいよ!」
「はい。」
「私は今日からあなたの部屋に同棲させてもらうのぉ!」
読んでいただき、ありがとうございます。
次話投稿、楽しみにしていてください!