7話 部活プロジェクト!?2
「暑いな。」
「そうですね。」
最近は雨がちょくちょく降ったりしていたせいか、気温が30度を下回っていた時が多かったけど、今日の暑さはこれぞ真夏日って感じだ。ムシムシした寮室に加えて窓から照らし出される灼熱の日差しが俺と先輩の体を焼き尽くす。
「これ、直んないんですかね?」
俺は天井近くの、真っ二つに亀裂が入ったエアコンを見る。
「……すまない。」
そう。
それは俺と先輩が一緒に生活することになって、俺が挨拶しに部屋を訪れた時。俺が来ると知った先輩は俺を歓迎しようとしてでかいクラッカーを用意していたんだが、俺が少し早く訪れてしまったので、先輩は慌てて撃ってしまってエアコンをぶっ飛ばしたという事だ。
改めて考えると、馬鹿だよなーこの人。
「まぁ、悪気はなかったんですし……そんなことより学校行く準備しましょう!」
「あぁ。」
先輩は本当に申し訳なさそうにそう頷いた。
でも、ふと何かに気づいたように俺に視線を向けた。
「お前、なにか俺に隠してないか?」
「え」
確かに俺は東さんに再び会い、部活を始めようとしていることは蒼弥先輩に言っていない。
「お前……」
先輩の顔は怒りに満ちている。
言った方がいいだろうか。でも蒼弥先輩にこれ以上心配はかけたくないし、かといって、東さんの件も調べてみたい。
そんなことを考えてるうちに先輩の口が開いた。
「昨日俺のプリン食ったろ!!」
「は?」
先輩は予想外のことでキレていた。
「いや、食べてないですけど……?」
「別に怒らないから言ってみろ!」
もう既に怒ってるような気がするんだが……
「ほんとですって!」
プリンは寮室にある冷蔵庫に入っていたのを昨日確認はしたのだが、俺は覚えている限り食べていないはず。
ふと、東さんの件を思い出す。
もしかしたら俺も気づいていないうちにプリンを冷蔵庫から出して食べたりしてしまったのだろうか。背筋に寒気が走った。
「ふむ。さては俺が食べたのか?」
「なんで覚えてないんだよ!?」
そう言うとはっと何かに気づいたように先輩は眉間に人差し指を当てる。
「今日、夜中になにかカサカサっていう音がしなかったか?」
これも覚えている限り聞こえなかった。
「じ、Gですかね?」
まぁいてもおかしくはないだろう。
「いや、レジ袋を擦るような音だったんだが。」
「わかんないですね。」
「俺のプリンはレジ袋の中に入れて、冷蔵庫にしまったんだ。でもここの部屋のドアはオートロックで誰かが入ってきて取る、なんてことは考えにくいんだよな。」
「そうですよね。」
ここの一般寮は建ってから30年は経っているはずなのだがドアだけは以上に高性能で、もうよく分からない。
「それにしてもほんとに暑いな。ここ。窓が空いてない限り全然生活出来ないぞ。」
「そうですね……あ」
「どうした?」
俺は視線をさっきまで見ていたドアの方から反対側の窓の方に移して、指をさした。
「……空いてます。」
「……空いてるな。」
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「よう莉久ー!」
昼休み。まだジリジリと日差しが痛い屋上で美少女とふたりきり。
の、はずだったのだが。
「……なんでお前がいんだよ。」
そこに居たのは紛れもない、俺の幼なじみ日向だった。
「私もいるよ!」
東さんがひょっこり日向の後ろから出てきた。
可愛い。
「いやー、莉久が部活始めるって聞いて思わず飛んできちまったよ。」
「……お前、部活に入る気か?」
「うん、吹部辞めてきたわ。」
「は!?」
馬鹿かこいつは。
「だってよ。俺は莉久の親友だぜ?親友とはいつまでもそばにいたいってもんだろ!」
「そ、そうなのか?」
なんか親友親友とか言われるとちょっと照れるな。
「でもどうすんだ?まだなんも決まってないのにお前が部活やめちゃったら吹部も人手不足だろうし、てかよく天草先生許したな。」
「あぁ、ごめん。辞めたのは嘘だ。」
どっちだよ。
「まぁ普通に天草先生が許してくれなくて、今んとこは休部って感じになってる。」
「はぁ、そうか。ちょっと東さん?」
俺は奥にいる女子に目を向けた。
「……はい!」
いきなり名前を呼ばれた東さんがびっくりしながら返事をした。
「お前が求人したのか?」
「いや、どこから聞いたか分からないけど、いまさっきいきなり屋上に来て『俺も部活入れさせてくれ』って。」
「おいマジかよ」
俺は再び日向の方を見て言った。
「まじだ。」
自信ありげにえっへん、としている。てかどっから情報仕入れたんだ?
「お前、自分が何しようとしてるのか分かるのか?俺は中学からだけど、お前は小3から吹奏楽やってきてるんだぞ?」
俺は至って真面目に心配をした。
「あぁ、でもお前も一緒だ。」
日向はへらへら笑いながら指を刺してくる
「……うん。」
それを言われたら何も言えない。トランペットしか取り柄のない俺はそれすらも諦めた。日向よりずっと早く。
「もういいかな。もう日向くんは部員になる気満々みたいだよ?」
ちょっと呆れたように東さんが言った。
「まじでやるみたいだな。」
「マジでやるで!」
「それじゃ頑張ろー!」
東さんも超やる気だ。
まぁ俺が言い出しっぺなんだけど。
「「「おー!」」」
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「……あづい。」
持ってきたお弁当を片付けながら、とろけそうな顔で東さんが言った。
てか弁当食べるの前より全然早いな。
もちろん俺も貰っている。てか食い切った。案の定日向がうるさかったが、お弁当をシェアしたら静かになった。
「日陰に移動しようぜ。莉久。」
「そうだな。」
今日は真夏日。最近は聞こえなかった蝉の声も久しぶりに聞こえる。
俺達3人でなんかよくわからんタンクの小さい影に身を縮める。
「……で、何部にすんだ?」
「……隣人 ーー
「ダメだ!」
「なんでよ?」
東さんがめっちゃ不思議そうに覗き込んできて可愛いがダメなものはダメだ。
「そもそも何やりたいんだよ。」
日向から率直な疑問が飛んでくる。
「東さんは友達を作りたいわけだ。でもコミュ力がないらしいのか出来ないんだ。そこで部活を作って友達を強制的に増やしたい。こんなとこだ。」
「ちょっとなんか人聞き悪くない?気のせいかな?」
ちょっとキレてる東さん可愛い。
「でも普通に見えるけどなー。」
確かに俺も思っていたことだ。
こんなふうに普通に会話出来て、普通に可愛いんだから普通に友達が出来ないのがおかしい。
でも俺はこいつの秘密を暴きたいからそのことはあんま触れないでおこう。
「まぁ、色々あるんだよ東さんにも。」
「そうかなぁ。」
日向はまだ腑に落ちないのか首を捻っている。
「じゃあ何部にするか決めるか。」
「おー!」
東さんはめっちゃ元気に返事をする。なんか初めてあった時とは違う印象だ。今はどこか、子供っぽいような……
「『友達部』ってのはどうかな?」
「発想が小学生か!?」
「じゃあ『楽部』ってのはどうだ?」
今度は日向が口を挟む。
「どういう意味だ?」
「楽しい、楽、元吹奏楽部が二人いる。の3つの『楽』が揃って『楽部』だ!」
「おー、最後のはちょっとおかしくないか。」
「いーねーそれ!『楽部』に決まりだね!」
「だろだろ?!」
「え、えー。」
なんか決まるの適当過ぎないか?もっとこう、試行錯誤して決めるもんじゃないのか?
でもなんかふたりとも意気投合してるし、めっちゃ輝かせた目でこっちに訴えかけてくる。
「ま、まぁいいんじゃないか?」
「「いーやったぁーー!!」」
そう言いながら2人はハイタッチした。
仲良すぎだろ!
「じゃあ莉久くんが部長で私が副部長やる!」
「ちょっ、おい」
「さんせーい!」
「えーー……」
なんか勝手にどんどん決まってしまう。いや、俺部長!?無理無理無理。
「俺には部長は無理だ。」
「なんでよ。言い出しっぺー。」
「そうだ。そうだ。」
あー、出ました言いだしっぺは責任を負うっていう謎のしきたり。でもこれ結構合理的に解決されるパターンなんだよな。
「わ、分かったよ!やればいいんだろ!」
「「いーやったぁーー!!」」
またまたハイタッチ。
俺の青春ってこんな感じでいいんだろうか。
まぁ、ちょっと楽しんでる自分もいるがな。
「じゃあ莉久くんが部活申請書出しといてねー。」
「は?」
「部長!」
「……はい。」
部長って大変だな。
ほんとに俺はこいつらをまとめられるのだろうか。てかまだこいつらって言っても俺合わせて3人か。後2人足りないな。
「じゃ、じゃあさ。申請書出しとくから早速部長命令だしていいか?」
「「ドンと来い!」」
仲いいな。今日会ったばっかだろ。
「すぅ……来週の終わりまでに、部員を後2人連れてきてください!」
「「ラジャー!」」
なんか楽しそうだな。
ぶっちゃけ俺も楽しい。
「頼んだぞ!」
数十分ジリジリと俺達の体を焼き付けた日は、いっそう強くなっている気がした。
『キーンコーンカーンコーン……』
俺達の頭上を鐘の音が通り越していく。
?鐘の音?
「「「授業始まる!?」」」
だだだっと俺達は階段を駆け下りて行った。
何だか青春してるって感じがする。
読んでいただきありがとうございます!
次話投稿、楽しみにしていてください!