6話 部活プロジェクト!?
『私、好きよ。あなたの肌がーー』
まだ頭の中をその言葉がこだましている。
何かが引っかかっている。でもそれが何かがいつまで経っても分からなくて、もどかしい。
頑張ってその何かを思い出そうとしても、何かにたどり着く前に何かが足りなくて、永遠のように思考がループしている。
既に中明さん……いや、栞…さん?はしっかり1時間サボってから次の授業に戻ってしまった。
ただ1人、保健室のベッドに座り、ポツリと取り残されてしまった。
「……はぁ。」
最近色々な事がありすぎて、頭がパンクしそうだった。やっと一人の時間が作れた。
と、思っていた。
「また~。ため息ついちゃって」
何故か後ろの方から女の人の声が聞こえた。
「うわあっ!?」
そこに居たのは東 桔梗、間違いなく東さんだった。
でもここにいる東さんはあの虚ろな目をしている今日会った東さんではなく、初めて顔を合わせた時のような温かい目をしている東さんだった。
「どこから入ってきたんだ!?」
ずっと1人だったはずなのにいつの間にか彼女はいた。
「いや普通にドア開けて入ってきたんだけど……」
彼女は苦笑いをしながらちょっと困るような仕草をしていった。
俺はどんだけ自分の世界に入って閉まっていたのだろう。
「そうか。……で、何の用だ?」
でも今日あったことを忘れてはならない。蒼弥先輩があんな必死になってたのもあるし、少し距離を置きぶっきらぼうに俺は言った。
「ん?なんか…怒ってる?」
彼女は俺の表情を伺って、まるで今日あったことを忘れてしまったかのようにキョトンとしている。
「驚かせちゃったかな。ごめんごめん。」
「べ、別に怒ってはいない。」
「……そう。」
彼女は頷き、また金色のポニーテールを揺らしながらベッドに座り、こっちへ寄ってくる。
でもやっぱり俺は仰け反ってしまう。
「やっぱりなんか怒ってない?」
何かがおかしい。なんだ、この違和感。
「いや、怒っていいのは東さんの方だと俺は思うんだが。」
そうだ。
俺は少なからずとも東さんに罵声を浴びせてしまった。そのあと色々あった訳だが……
「?あー、あれのこと?私の作ったお弁当を最後まで食べれなかったこと?」
ん?本当に忘れているのか?
確かに最後まで食べれなかったのは悪いと思ってるが。
「ダメだよー。女子が作ってくれたお弁当を最後まで食べないって、私も実はまあまあ傷ついてるんだからね!」
ちょいと頬を膨らまして指を突き出すその仕草は、いつも通り可愛かった。
「ご、ごめん。」
やっぱりおかしい。あの喧嘩したあとの気まずさみたいなものが全く感じられない。
「お前、忘れちまったのか?」
俺は何をとは言わず、少し真剣な顔つきで単刀直入に聞いた。
「……?…?」
彼女は俺が何を言っているのか全く分からないようで、頭を抱えてうーん、うーんと唸っている。
「あのことだよ。昼休みの。」
そう俺が言うと彼女はまた何かを思い出そうとして唸りながら声を絞り出す。
「あれ?全然、思い出せない……」
「……っ!?」
どういうことだ?これはドジというレベルでは無い。今日、しかも2時間ほど前の出来事を思い出せない。そんなことがあるのか?もしかしたら……
「また、からかっているのか?」
「嫌だなー。私、別に莉久くんをからかったことなんてないよ?」
何を言い出すんだこの人は。あんなに言い合ったのに、一切覚えてる様子がない。
「か、顔が怖いよ。莉久くん?」
「あぁ、ごめん。」
自分の顔が険しくなっているのに気づく。でもおかしいじゃないか。
「もう少し、思い出せないか?」
「うーん。私、莉久くんとを屋上で待ってて、景色が綺麗だって話をして、お弁当を取り出して、それから……それから、思い出せないわ。な、なんでだろう。」
その表情は冗談を言っている感じではなかった。
「うそ、だろ?」
まるっきり俺と言い合った部分だけ覚えていない、ということか。まじでどうなってんだ?
「……で、気づいたら莉久くんはいつの間にかいなくなってて、お弁当だけ食べ残されてて、なんかちょっと…寂しかったかな。」
少し恥ずかしそうに彼女は言った。
「そう、か。」
東さんには何か秘密がある。確実にこれだけは言える。今の東さんではない東さんがいるのかもしれない。
俺はそれを知りたいと思ってしまった。
だから言ってしまった。
「なぁ、一緒に何かやってみないか?」
「……え?」
彼女は急に投げかけられた質問に戸惑っていた。
俺も驚いた。こんなことを言う柄ではないのだが、何としてでも東さんの謎を知りたかった。
「一緒にって、何をよ」
純粋な質問だった。
「特に考えてないけど、なんでもいい。全力で出来るものがいいかな。」
東さんはうーんと頭に手を当てて、絵に書いたように手のひらにぐーの拳をぽんと叩いた。
なにか閃いたようだ。
「部活だ!」
「……あ、うん。部活、ね。」
正直、自分から一緒になにかやろうと聞いといてあまり乗り気になれない提案だった。
「だめ、かな?」
まぁ、一緒に居られればいいんだ。そうすればなにか手がかりを掴めるかもしれない。
「うん、いいんじゃないか?」
そう言うと、東さんは安心したように胸をなでおろした。
「じゃあ、私が部長ね。」
「お、おう。大丈夫か?」
随分とやる気になっているようだ。
「大丈夫だよ。もしも莉久くんが部長になったらそれこそ危ない部活になると思うよ。」
腰に手を当てて彼女は言った。
「危ないってなんだよ。」
「どうせ学園ハーレム部活でも築くつもりなんでしょ?」
学園ハーレム。そんな言葉高校生活では無縁だと思っていたが、それもいいな。
やべ、考えただけで鼻血出てきそう。
「ンなことあるわけない……だろ」
「あー、莉久くん今イケないこと考えてるでしょ。莉久くんは変態ロリコンだったとは……」
「なんでいつの間にかロリコンになってんだ俺は!?」
あ、ついいつもの癖で突っ込んでしまった。女子とこんな会話をするなんて思ってもいなかったからなんか新鮮でもあるな。
そんな俺とは裏腹に東さんは『おー。ツッコミのセンスがあったのね。』と感心している。
なんか恥ずかしい。
「こ、こほん。で、何をしたいんだ?」
すると、迷わずに真っ直ぐ俺を見つめて彼女は言った。
「友達作りたい!!」
その目はキラキラしていて、小さい子供のようだった。
てかこの展開どこかで見たことあるぞ。確か題名が変な略し方して、隣人部とかいう部活を作るライトノベル…考えちゃ行けない気がした。
でも普通に考えたら……
「そんな部活認められなくね?」
率直な疑問をぶつけてみた。
「確かに。」
納得してしまった。
「でも私にかかれば何がなんでも部活を立ち上げられるわ!」
あぁ、忘れてたけどそう言えばこの人裏生徒会長だったな。
あれ?これもなんかライトノベルで見た展開……
「まぁ、とりあえず部活をするには明日から人数を募集しないといけないから、明日昼休み屋上にでも集合するか。」
「分かった。遅れないでよね。」
「あぁ。そう言えば、お前なんでここに居るんだ?もうすぐ終わるけど、まだ授業中だろ?」
東さんは俺に聞かれてはっと何かに気づいたように、保健室の出入口を指さした。
「気づいたら、いたのよ。」
何から何まで、不思議な女の子だ。