3話 お昼ご飯は屋上で
翌日の昼、俺は屋上へと向かった。
「ホントに居るのかなぁ」
正直、めっちゃ不安だった。
だって会って2日間で絶世の美少女にお弁当を作って貰う影に潜んでる平凡男子高校生って普通に考えて漫画でもない限りないよなぁ。
チラッ、チラッと周りを確認。
普通、学校の屋上は封鎖されており、先生にでも見つかれば即説教だ。
更に、俺には前話した通りストーカーが着いているかもしれない。
今の状況は何としてでもバレたくない。
念の為、もう一度チラッと確認。
よし!
覚悟を決めた後、一気に階段を駆け登る。
そして、ドアを開け……られなかった。
「ぐあっ!」
全速力で走った勢いでドアにぶつかった。
「……ふふ」
見られてた。
「普通、こっちの窓から入りますよ。」
窓から俺の顔を覗き込んでいたのは、金髪ポニテの美少女だった。
……だが。
「そ、そうだよな。あはは……。」
何か雰囲気が違う。
東さんだと思われる女の子は手招きしている。
「こっちよ。」
「あ、あぁ。」
俺はよっこらせと起き上がり、窓の下に置いてある踏み台を使って外に出た。
「……っ」
そこには淡い紫色の花が沢山咲いていた。
「なんで?」
ここは屋上のはずだ。なのになんで……
「夢よ。」
「……え?」
「ここはあなたがいつか見たはずの……」
「夢」
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「はぁぅ!?」
ゆ、夢だった。
最近よく見ていた夢とは少し違う。
女の子も成長していた。というか、東さんになっていた。
でもあの景色、どこかで…
「……はぁ……はぁ。」
「どうした。やけに息切れしているぞ。」
額に汗をかき、息を切らしている俺に、蒼弥先輩は心配そうに言葉をかけてくる。
「いや、嫌な夢を見ていただけ…ってあんたは何着とんじゃい!」
朝起き、顔をあげた瞬間イケメンが裸エプロンしていた。
「何と言われても、裸エプロンだがな。」
「それは見ればわかりますよ!問題はなんで着てるかですよ!」
そう言うと蒼弥先輩は少し考える動作をし…
「時に人は、自分のアナルを他人に見せたくなるものなんだよ莉久。」
「……先輩」
「なんだ?」
「誰もあなたのアナルには興味ありません。」
「んなっ!?」
そう言うと先輩は少し落ち込んだかと思いきやまた顔を上げた。
「んじゃ乳首見るか?」
「場所の問題じゃねー!!」
いつも通りの朝を迎えながら部屋の窓に目をやる。
うん。今日もいい天気だ。
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昼休み。
「ホントに居るのかなぁ」
正直めっちゃ不安だった。
ただ……
「あの夢が本当なら、鍵は閉まっていて、窓から屋上に出れるはずだ。」
でもあの淡い紫色の花が沢山咲いているというのは現実的ではない。
取り敢えず、チラッと周りを確認して即座に階段を駆け登る。
なんか行けないことをしているようで、少し楽しくなってきた。
「…っと」
ドアの前に来た。
隣の窓にはやはり、東さんが覗き込んでいた。
「おっ!来たねー。さぁさぁこっちだよ!」
「う、うん。」
言われるがままに踏み台を使って外に出た。
「……っ」
風が強くて、目を開くのもままならなかった。
でもそこから見た景色はとても……
「……綺麗だ。」
「でっしょー?私も来るの久しぶりだけどさ、たまにきたくなっちゃうんだー。」
こんな広い空の海に2人だけ取り残されているような感覚に襲われた。
それと同時に、懐かしいような……
ん?懐かしい?
俺と東さんが出会ったのは一昨日のはずなのに?
「どうしたの?」
「い、いや、別に。」
「べ、別に無理して食べなくてもいいから、ね?」
「?…何をだ?」
「はぁ。あなたって本当忘れん坊よね。あの時もさー……弁当!お弁当よ!」
あの時?あぁ、鼻血の件か。
それよりも、弁当を作ってきてもらっていたんだった。
「いや、あまりに綺麗でさぁ。」
「……えっ!?いや、そ、そんな急に言われても……」
「いいよなーここの景色って。」
「…え?そ、そう、だよね。いいよねーここの景色!」
「あぁ。…ん?どうした?」
どこか様子がおかしいな。もじもじというかモゾモゾというか。
「と、トイレか?…ぐへっ!?」
急にすねを蹴られた。
「っ……いったぁ。何すんだよ急に。」
「……あなたが悪いんだから!」
今の俺が悪かったか!?
東さんはぷっいっと目を背けてしまった。なんか昨日と雰囲気違うけど、可愛い。
「まぁいいわ。さっさと食べなさいよ。」
なぜ怒っているのかは分からないが、ちょっと可愛い。
どさり、と置かれたお弁当箱をゆっくり開けていく…
「…おぉーー!」
それは見るだけで美味い、と言わざるを得ないような、おかずと白米が敷き詰められたお弁当だった。
「……ど、どうよ。」
ちょっと照れくさそうに東さんがこっちをチラチラ見てくる。可愛い。
「これ本当に東さんが作ったのか?!」
「何よ人聞きの悪い。」
「あぁごめん、かなり完成度高いなと思ってさ。」
お世辞ではなく本音だ。
「そ、そう。なら…良かったわ。」
またまた照れくさそうに、腰を下ろして自分の弁当をそそくさと開けていく。
ペアルックお弁当だ。
「「いただきます。」」
2人はドア近くの壁に腰をかけて黙々と食べ続けた。
「……」
「……」
俺は既に半分食べ終わったが、東さんは3分の1も食べ終わっていない。
そして彼女はどこか虚ろな目で空を見ていた。
「どうしたんだ?体調悪いのか?」
「……えっ!?…いや、ううん。私はだいじょぶだよ。」
「ならいいんだけど。」
また、黙々と食べ続ける。
「……」
「……」
なんか気まずい。
普段は東さんから声を掛けてくれるから返すことは出来るが、こうも相手が話さなくなると話題を振れない自分がいる。
「……美味いな。」
こんな言葉が精一杯だ。
「……うん。ありが……と…ぅ…ぐっ……ぇっく…」
「は?……えっ?」
東さんが、泣いた。
急な出来事に俺も動揺を隠せない。
「いや、どうしたんだよ急に?…やっぱりお腹痛かったとかか?」
「……ちが…うの……ただ……ただ…ぁあ……ひっく…」
東さんの涙は止まらない。
「ほ、保険室行くか?」
馬鹿か俺は!?お腹も痛くないし、体調も悪くないって言ってただろ東さんは!
「……いや、もう、大丈夫…」
「……え?」
急に泣き止んだ。
まるで、お母さんに抱かれて急にほっとする赤ちゃんのように。
「わ、私、取り乱しちゃったね!ご、ごめんね!急に泣いちゃったりして。」
「……」
何も言えなかった。というか、今目の前で起きた出来事が頭で整理できなかった。
「……」
東さんはちょっと困ったような、やるせない表情で、何かを言おうとしてはやめ、というのを繰り返していた。
「何か、あるのか?あるんだったら後悔する前にハッキリいった方が俺はいいと思う。」
何故だろう。
そんなこと言う柄ではないのに、自然と言葉が出てきた。
「……そう、だよね。言った方が…いい…かも、ね。……あのね!」
これまでにないような強さの風が2人の間をよぎる。
東さんの髪の毛は風に揺れる稲穂のように舞い、こっちに振り向く。
「……私、ね…ずっと………とお……たんだけ……ね…」
ん?なんだ?風のせいか、霞んで聞こえる。
でも、これだけははっきり聞こえた。
「人殺しなの」
読んでいただき、ありがとうございます!
次話投稿楽しみにしていてください!!