10話 部活プロジェクト!?5
「……莉久」
……ビリッ。
「おい起きろ莉久」
ビリッ。
……?ビリッ?
「いったぁぁーー!」
「やっと起きたか。莉久。」
蒼弥先輩はしゃがんでニヤニヤしてこっちを見ている。
「先輩!一体なんなんですかこれ!」
俺の両腕には吸盤が付けられている。その吸盤からは線が出ており、機械につなげられている。
「見ての通り、疲労回復装置だ。」
先輩はすんげー自慢そうに語りかけてくる。
疲労回復装置?こんな痛いのに?
「なんかすんげー痛いんですけど…」
「あぁ、すまん。電力を最大級に設定してしまっていた。」
そう言って先輩は機械をいじくりだす。
そして、満足した顔でこっちに顔を向けてくる。
「これでどうだ?」
確かに気持ちいい。
体から要らない力が抜けていく感覚だ。
「気持ちいいです。」
「そうか……莉久はドMだったんだな……」
「どういうことですか!?」
「だって今の出力はたった1段階下げただけで、普通初見だったら失神するような電流だ。」
じゃあなんで俺に対してそれより強い電流流したんだこのひと!?
「ちなみに莉久に流した最大級の出力を俺が興味本位で自分に流したら、いつの間にか半日立っていたぞ。」
「そんな機械捨てちまえ!」
でも、ちょっと気持ち良かったから今度から密かに使おう。
「ま、どうでもいいから夕食食いに行くぞ。」
蒼弥先輩がすっと立ち上がる。
そうか。俺2時間くらい爆睡してたのか。
「は、はい。」
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俺、花宮莉久は寮内生活において大体の時間は奈津高校のプリンス、田嶋蒼弥先輩と共にいる。
ご飯を食べる時も、お風呂に入る時も、部屋にいる時も。まるで夫婦のように共にいる。
先輩と俺が出会ったのは約半年前。
先輩と一緒に生活する前まで俺は結構遠い家から電車で通っていた。
この一般寮に天草先生から誘われた時ちょうど俺は親父と喧嘩をして家に帰りたくない気分だった。
親父には『今日から寮生活になる。』とだけ言って出て行ってしまった。そこからは疎遠だ。
俺は1人部屋だと思っていたのだが、会って早々エアコンを破壊するような愉快な先輩がルームメイトになった。
今もその愉快な先輩が隣を歩いている。
「莉久。お前、好きなことかは居ないのか?」
先輩が俺をからかう時はいっつも楽しそうだ。
「な、なんですか急に?」
この人はろくなことをしないのだが、めっちゃイケメンなゆえ女子がへばりついている。
今だって、『きゃぁー!今日も蒼弥様カッコイイー!』とか『莉久ー!俺はお前を掘りたい!』とか……ってえ?後の声誰だよ!聞き間違いかな。
「夏だからだ!」
先輩はぐっとガッツポーズをこちらに向けて来る。飛びっきりの笑顔だ。
「どういうことですか……」
呆れたように俺は言う。
「だって夏は燃えるだろ!」
またガッツポーズを取っている。
「は、はぁ。」
食堂につき、各自お盆を取る。
この寮の食堂はバイキング制だが、全ての料理を手に取らないといけないというルールがある。
「お!今日はカレーか!」
先輩は嬉しそうだ。
「あれ?カレー好きでしたっけ?」
「いや、あまり好きじゃないぞ。」
なんで嬉しそうなんだこの人。
「逆に考えれば、苦手克服のチャンスだろ!」
「ポジティブ過ぎません!?」
この話を聞いていたギャラリーは『きゃぁー!ポジティブ蒼弥様カッコイイ!』とか『きゃぁー!あの莉久犯してー!』とかってえ?聞き間違いかな。
「何事もポジティブに考えれば、人生楽しくなるものだぞ!」
またまたガッツポーズ。いいな、この人は。なんでもいい方向に考えられて、輝いて眩しすぎて同じ高校生じゃないみたいだ。
「とか言って福神漬けは取らないんですね。」
「こ、これは…苦手なんだ。」
呆れた俺に対して先輩は前言撤回をせずにしぶしぶと言った感じですこーしだけ福神漬けを取って席に座った。
俺も隣に座る。
静かにむしゃむしゃと咀嚼音だけ立てて俺と先輩はカレーを食べた。
「……なぁ。莉久。」
「なんですか?」
先輩はスプーンをカチャリと置いてこちらに体を向ける。
「最近、部活を始めようとしてるらしいな。」
「ぶぅっ!……なんで知ってるんですか?」
その事はあまり触れたくなかったので、いきなり聞かれて思わず吹いてしまった。
「いや、2年の西織とかいうやつに部活をやらないかって誘われてな。でも俺はもう3年だし、俺の後輩も県予選まであと少しだし、積極的にアドバイスしてやろうと思って断ったのだがな。」
日向……あいつめ。
「それでもグイグイ迫ってくるから、どんな部活でどんな人達の集まりなんだ?って聞いたら『友達作り』の一点張りでな。」
失礼極まりない親友でごめんなさい。
「呆れた俺は部活に顔を出そうと思ったのだが、いきなり『莉久のためなんです!』って言い出してな。莉久に友達なんでいたんだなと思って振り返って話を聞いてみたところ」
なんか軽くディスられてね俺。
「東桔梗が関係してるらしいじゃないか。」
「……」
そこまで話すなんて俺の親友はなんて無能なんだ。
でもいつかは先輩にも言わなければいけないと思っていたことだ。
でも緊張感がすごい。
「ま、俺もあんなに言っててなんだが、当分あいつのことは大丈夫だろうから、応援してるぞ。」
「え?」
先輩は少し強ばっていた顔をやんわりさせて、予想外の言葉を放った。
あいつ、とはきっと東さんのことだろう。
「俺からもあいつに注意をしておいた。」
やっぱりだ。前から思っていたが、先輩は東さんを知っているような口ぶりだ。
「先輩。」
「なんだ?」
「前から思っていた事なんですけど、なんで先輩は東さんを知っているんですか。」
俺は真剣な表情を見せて言った。
すると先輩は『とうとう聞かれちまったかー』という仕草をしてこう答えた。
「うーん、なんて言うか昔から知り合いなんだ。」
「知り合い?どんなきっかけで知り合ったんですか?」
俺は先輩としっかり向き合う。
そして今度は俺が問い詰める。
「……今は知らなくていい。」
「なんでですか。」
俺は知りたい。
「今知ったら、思い出してしまうだろ。」
「……。」
あまりに先輩から悲痛な感情が溢れ出ていて、思わず何も言えなくなる。
「まだ、まだだ。……もぐもぐ」
先輩は目線を俺から残ったカレーに戻し、がっついた。
つられて俺もカレーにがっつく。
「「ご馳走様!」」
その後俺と先輩は一言も喋らずお風呂に入って部屋に帰り、寝た。
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『まだ、まだだ。』
なんで先輩はあんなに勿体ぶるのだろうか。
それにあれだけ声を荒らげていた東さんの件についてもなんかもうどうでもいい感じだし。
煮えきらなくて、早く学校に着いてしまった。
「分からない。」
何だか俺だけ取り残されている感覚に襲われた。
どさっ。
何かが肩に当たった。
「あぁ、ごめんなさい。」
誰かとぶつかってしまったようだ。
でも当たった方からは謝るどころか声を出す気配もない。
それどころか、倒れている。
「お、おい。大丈夫か!?」
俺は思わず声をあげる。
倒れている男子を起きあげようとすると体がその男子を通り抜けた。
「は!?」
というか俺に手が、体がないことに今気づく。
「おいおいどういうことだよ!?」
早く来てしまったので学校には人の気配がない。
よって助けは来ない。
いや待てよ。
なんで人の気配がないのに俺はこの男子とぶつかったんだ?
よくよく考えればおかしいことに気づく。
この人は……誰だ?
「……ひゃう!?」
急に視界が眩み、自分が宙に浮いた感覚に襲われた。
気がつけば俺は地面に転がっていた。
「なんだったんだ?今の。」
俺は体を起こした。
怖い。
またこの感情が湧き上がってきた。
気持ちを落ち着かせよう。
「……すぅ……はぁ」
深呼吸を何回かして改めて考える。
周りを見渡しても誰も倒れていない。
つまり……
「あれは、俺!?」
じゃあ見ていた俺の意識は!?
まさか、幽体離脱!?
「んなわけ。」
「ねー。大丈夫?君。さっきからずっと独り言言ってるけど。」
「ん?……わぁお!?」
考え込んでいた俺にいきなり俺以外の声が聞こえたもんで、すこぶる驚いた。
そこに居たのは灰色の髪に少し垂れ目でおっとりした、女の子のような男の子だった。男子用学生服を見るまで男か女か分からないほど上品だった。
「君。2のCだよね。確か名前は花園くん。」
「いや、花宮だ。」
「あぁ、ごめんね。花本くん。僕は2Fの沢田准だよ。隣の隣だね。」
「いや、花宮なんだが。」
「あぁ、そうだった。はなぞねすくん。」
喧嘩売ってんのかこいつ。
「だから、花宮だ!」
「え?うん。花くんだっけ?」
なんで『宮』が出てこないんだこの子……
それにしてもすごい特徴的な喋り方だ。こう、文節で切ってるような。
「お、おう。なんで俺の事知ってるんだ。」
こんな陰キャくそ童貞のことを知っているとはなんかミステリアスでもある。
「君。案外有名だよ。田嶋蒼弥先輩の奴隷だって。」
「いや、違うんだけど。」
「じゃあ、肉奴隷?」
「もっと違うんだけど。」
「じゃあ、肉便器?」
「それあかんやつや!」
可愛い顔してどえらいこと言いよるぞこやつ。
「君。なんか面白いね。もっと面白いことして?」
えへえへと子供のように笑っている。
もっと面白いことと言われても俺の頭に浮かんでくるわけがない。
そうだ。この流れで行けば。
「じゃあ、面白い部活があるんだ。」
「え?!何それ!?はいる!」
食い付きと決断はや!
「まだ何も言ってないぞ。」
「そうだったね。」
冷静になるのもはやい。
「その部活は友達を作るための部活だ。俺が部長で、その他に2年が3人いるんだが。」
「部員があと一人足りないね。」
「その通りだ。だから今探しているんだ。」
そう言うと、沢くんは目をキラキラさせていた。
入る気満々らしい。
「その、僕、入ってもいいかな。」
モジモジさせて沢くんが言う。
女子か。
「いいとも。」
「あ、ありがとうございます。花くん。」
感謝されるってのも悪くない。
「じゃあ、今日から沢くんは『楽部』の部員だ!」
「いやった!」
グーとグーの拳を合わせる。
自然と笑顔になれた。
自然とLINE交換もできた。
うん、慣れてきたな。
でもまだ部活は認められてない。
「人も集まったし、来週には出しに行くか。」
「もう結婚するの!?」
「婚姻届じゃないわ!」
俺の周りにまた変人が増えた気がした。
やっと10話です。これからも末永くお楽しみください。