パレットの美学
カンバスに塗られた絵の具は輝きをおびて、
一個の芸術として、永遠にのこる。
描かれた作品を、
人は見、讃え、批評する。
シュールであれ、ダダであれ、
芸術作品を人は観る。
パレットにのこった絵の具は輝きを持たず、
こびりついた汚れとして、少しのあいだのこる。
多くの場合、見向きもされず、
誰からもサインなどもらえず、
落とされる……
上塗りされたカンバス、
再利用された木材、
それらでさえ、一個の作品へと落ち着く。
パレットはとどまらず、流され、
塗られた絵の具は輝かぬままに、あとかたもなく消えていく。
汚れては戻り、戻っては汚れ……
もっともらしいことを語らず、
何者にも染まるが、主張はしない。
その一生にテーマを持たず、
輝きの成分を汚れと称し、
堂々たる面持ちで絵の具に染まるパレットは、
節操もなければ意味もない、
単なる実用の道具、
そうかもしれない……
***
作品になりえない、
作品のようなものがある。
かたちを持たず、輝きを見せず、
たゆたい、汚れ……
それをいま、わたしは、
パレットの美学と名づけた。