イーストウィッシュ寺院
俺達は、レベルアップと資金集めのため、ダンジョンの一つである『イーストウィッシュ寺院』へ向かった。
そのダンジョンは、コトーからも近く、歩いてモンスターを倒しながら、ダンジョンにたどり着いた。
「くっ、ダンジョンに入る前からこんなんでいいのか?」
「まあ、最初の内は仕方ないんじゃない」
「帰りたい」
俺達は、道中のモンスターの戦いでかなり体力を減らしていた。『三本の矢』という話で、一人じゃ出来なくても、三人なら出来るというものがあるが、今の俺達の実情は、それを完全否定している。
一体のモンスターに三人で挑んでいるのにも関わらず、連携が取れず、同士討ち。その内に懐に入られ、攻撃される。それを先程まで何回も繰り返していた。
だから、毛利元就に言いたい。
「バランスが取れなかったら、三本も一本も大して変わらない」と。
「なんか、思った以上に不気味なところだな」
「まあ、ダンジョンだからね」
目の前に見えるダンジョンは、人気のない廃れた西洋の寺院を模していた。
「まあ、死んだら死んだだ。やるだけやってみよう」
「オー!」
「帰りたい」
俺は入り口の壊れた鉄柵の間を通り、中に飛び込んだ。
中には、見慣れてきたゴブリン、白いウサギにツノが生えたアルミラージ、ゴブリンより大きな図体で、のっそのっそと歩く、コボルトがいた。
「これ、やばいんじゃないか?」
「確かにきついかも」
「やめておこう」
俺達は、その大量のモンスターの群れに、少し怯んでしまった。
「レベルを上げたら、すぐ逃げればいい」
「そうだね。やってみよ」
「はあ、仕方ないな」
すぐに怯みを払拭し、武器を構えた。
まず、俺達に気づいたのはゴブリンだった。三匹の群れをなして、勢いよく襲いかかってくる。
「三匹、くるよ」
サキが敵の接近を促す。
「ブルン、ブルン!」
リュートが槍を振り回し、ゴブリン達の注意を引く。
「ナイスだ、リュート。俺が側面から行く」
俺は引きつけられているゴブリン達に向かって駆け出す。
右手に持った刃を地面に向け、振り上げるようにゴブリンの一角を斬りつける。
一撃で体力ゲージをゼロにして、一体を戦闘不能にする。
「やっぱり、人が少ないのは動きやすいな」
さっきから、一回も警告音がならない。敷地が広いところに作られるダンジョンは、街中よりかなり戦いやすい。
「よし、俺もやるぞ」
リュートは、俺の攻撃で気が緩んだゴブリンの一匹を槍で抉り、貫く。
「よいしょっと」
そう言って、放たれたサキの矢が残りの一匹を駆逐した。
「おお〜、うまくいったな」
「やっぱり広いと戦いやすいね」
「ああ、今のはよく出来た気がする」
賛辞をお互いに送っていると、他のモンスターも気づき、俺達の元へ襲撃してきた。
「また、きたよ」
「ああ」
俺達は、アルミラージとコボルトも同様に駆逐していった。
敷地の広いところで、縦横無尽に動き回って戦う。これが、本来のゲームの楽しみ方だろう。
「おっ、やっと済んだか」
「これで終わりなのか?」
「多分そうだよ。結構ポイントも貯まったはず」
「ホントだ。レベル15になってる」
「俺は13だ」
「私は16だよ」
このダンジョンに来て、簡単にレベルと所持金が上がった。
そのおかげで、このゲームの新しい魅力が姿を現した。
「あっ、魔法を覚えてる。やったね!」
「俺はスキルを覚えたみたいだ」
「俺も同じだ」
「これ、どうやって使うんだ?」
俺は、サキに尋ねる。
「THWでスキルを登録して、それに伴った動きをするだけだよ」
「ほ〜、楽しそうだな。因みに魔法は、どうなんだ?」
「呪文を唱えて、スティックについたボタンを押すことで、発動できるよ」
「これがあれば、少しは戦闘が楽になるのか?」
初心者のリュートが尋ねる。
「使い方によるね。調子に乗りすぎて、スキルとか魔法を使いすぎると、MPがすぐに無くなって、隙ができるから注意が必要だよ」
「なるほどな」
「まあ、レベルもお金も上がったことだし、そろそろ帰るか」
「そうね。ミルの言う通りだと思う。リュートもいいよね?」
「ああ、正直怖いから一刻も早く抜け出したい」
皆に確認を取り、ダンジョンを後にしようとするが、そのまま乗り切れるほど人生甘くはなかった。
「ウォゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
凄まじい唸り声がダンジョン内に、大きくこだました。