冒険者の街 コトー
俺達はレベルアップを果たすと、その勢いのまま、安全地帯である街の中に飛び込んだ。
「中央都市、コトーへようこそ! 冒険者の方々、どうぞお楽しみください!」
街の前にいるNPCの女性が笑顔を浮かべながら、誘導していた。
「これも、現実にある建物なんだよな?」
「そうだよ。新京都駅をモチーフにできているんだ」
そうサキは答える。これは、俺の住む新京都市限定の街であるが、他の都道府県にも主要の建物がモチーフになった街があるらしい。それをその地区の中心部とし、それの周りに点在する形で、小さな街が存在しているのだ。
「まず、何する?」
俺はゲーム上級者のサキに尋ねる。
「休もう!」
「お前に聞いていない」
リュートを無視し、再度サキに尋ねる。
「とりあえず、冒険者ギルドに行こー。そこで、今後の予定とか体力回復すればいいと思う」
「わかった」
「よかった。休めるのか」
俺達は、コトーの中心部に向かい、歩き始めた。
「なあ、一つ気になったんだが、聞いていいか?」
「うん、何?」
「この俺達の会話してる声って、現実でも聞こえているのか?」
「ううん、聞こえてないよ」
「確か読唇術で認識するだったか?」
「そうそう、リュートよく知ってるね」
「まあ、それなりに調べたからな」
「口の動きをTHWが認識して、脳内のイメージと複合して、他者のTHWに直接伝えているの。だから、現実世界では声は聞こえてないけど、ずっと口だけが動いてる、なんとも微妙な感じになってるわけ」
「うわっ、なんかそれ嫌だな」
奏功している内に、ギルドコトーが見えてきた。巨大な木製の時計を囲むように、ギルド職員のNPC達が座っている。周辺には、ショップや銀行も点在していた。
「受付で、パーティ登録しよう」
そのサキの掛け声で、俺達三人は受付に向かう。
「ギルドコトーへようこそ! 冒険者の方々ですね。私、担当の泉です。ご用件はなんでしょうか?」
黒髪ロングの美女NPCが尋ねてきた。何処と無く、古風な雰囲気と名前である。
「あのパーティの正式登録をしたいのですが?」
「かしこまりました。パーティの方々は、そちらのお二人でよろしいでしょうか?」
「はい。その通りです」
「THW確認しました。サキ様、ミル様、リュート様ですね。正式パーティの結成を承りました。では、パーティの代表をお決めください」
「じゃあ、ミルで」
「おいっ、勝手に決めるな」
「俺はそれでいいぞ」
「私もミルがいいと思う」
「面倒くさいんだが」
苦笑いを浮かべて、二人に訴える。
「まあ、上辺だけのリーダーだから、いいでしょ。大変だったら、私がやるから」
「まあ、それならいいか」
渋々了承すると、泉が頷きを見せる。
「かしこまりました。それでは、ミル様がパーティの代表ということで、登録いたします。パーティ名はどういたしますか?」
「ええっと」
「ワンアイズで」
「俺も同じだ」
サキとリュートが食い気味にそう答えた。
「それって、俺のこの目からインスパイアしたのか?」
「うん」
「右に同じだ」
「なんで俺をそんなに全面に押し出すんだよ!」
「パーティ名、ワンアイズで登録しました。これからは、パーティ内で所持金や武器等の共有が可能になります」
「ええっ、もう決まっちゃったのかよ」
俺の訴えを遮るように、泉が承認してしまった。もう後には引けそうもない。
「その設定は、各自のTHWで行なってください。また、パーティの更新・脱退をしたい場合は、ここを含めた各地のギルドで可能ですので、その場合はギルドにお越しください」
「はっ、はあ」
「わっかりました」
「了解した」
三者三様の返事と共に、ギルドでの登録は終わりを迎えた。
「で、これからどうする?」
俺は正式にパーティとなった二人に問いかける。
「やっぱり、所持金集めとゲームに慣れることを優先して、どこかのダンジョンに向かった方がいいかな?」
「また、戦うのか?」
サキの提案に、リュートが怯えの色を見せる。
「この辺で、どこかいいところあるか?」
「近くだと、『イーストウィッシュ寺院』かな? まだレベルは低いから、どうせ高レベルモンスターは現れないし、敷地も広くて戦いやすいから、いいはずだよ」
「よし、その寺院とやらに行ってみるか?」
「りょーかいです!」
「行かなきゃダメなのか?」
「リーダーの命令だ。おとなしく従え!」
「ぐぬぬ…」
俺は、リュートを無理やり説得させ、少し休憩を取ると、『イーストウィッシュ寺院』に向かい、歩み始めた。