剣と魔法の誘い
「ARゲーム?」
美咲の言った意味がわからず、思わず聞き返してしまった。
「そう。今年の夏に発売だって。私が予約しとくから、3人でやろうよー」
話を理解していない美咲に、龍斗が突っ込みを入れる。
「そういうことじゃない。まず、ARゲームとは何か、と聞いている」
「そうだ、それを教えてくれ」
美咲は、どこか可哀想な目をして答える。
「2人とも知らないのー。時代遅れだよー」
こいつの顔面を凹ましてやろうか。
「ARって、まずわかる?」
舐めたような口調で聞いてきた。
俺が答えるより前に、龍斗が答えた。
「Augmented Realityのことだろう」
「何だそれ?」
思わずそう答えてしまった。
「充、本当にテスト大丈夫なのか?」
溜息を一つつき、続ける。
「直訳すると、拡張現実。元々ある景色とかを、映像でより迫力あるものに見せる技術だ。何十年も前に開発された技術だが、それが今頃になってなぜ登場してくる?」
美咲は、ニヤニヤしながら答えた。
「そ・れ・は・ね。THWに関係するんだ」
「THWに?」
「THWは、私達の脳内から、五感を強化している。それによって、空中に画面を映したりしてるでしょ」
「ああ」
「その機能が、ARを生かすのにぴったりだったってわけ」
「そうか、五感を強化するTHWと景色を強化するARの相性がいいのは、確かに理解できる」
そう言った龍斗の言葉で、俺も納得することができた。
「この融合は一昔前に流行った、VRを超えるものになると思うよ。だからやってみない? 売り出すのは夏だから、夏休みにやろうよー」
「う〜ん、どうする充?」
「俺はどっちでもいいが、あんまりゲームしないからな」
「俺もだ」
悩んでいると、ニヤニヤしながら美咲が提案してきた。
「そんなお二人には、この映像を見てもらわないとねー」
「シンク!」
「シンク!」
「シンク」
「じゃあ、映像渡すから、コネクトして」
「面倒くさいなぁ」
俺はだらけてそう言う。
「まあまあ、美咲に付き合ってやろう」
「しゃーねーな。コネクト」
「コネクト!」
俺達が、美咲の顔を見てそう言うと、脳内で声が響く。
「対象者を確認しました。情報の共有をします」
その言葉が聞こえると、俺の画面に美咲の情報が入ってくる。
数秒後、動画再生の画面が出てくる。
「じゃあ、楽しんでねー。私は、サンドウィッチ食べてるからー」
俺はその言葉を聞くと、強く左目を瞑った。
景色以上に食べ物は、不快感があるからだ。
一度見たことのある食べ物の姿は、小さなカプセルだった。食べれば、食感も味も満足感もあるのに、見た目だけはどう見てもカプセルなのだ。
あの光景を見てから、食事中は一切左目を開かないようにしている。
「充。再生するぞ」
「ああ、わかった」
龍斗が画面に触れると同時に俺の動画も再生される。
「The Sparkle Story(ザ スパークル ストーリー)。
皆さんは、戦いたいと思いますか。魔法を使いたいと思いますか。もし、その願望がほんの少しでもあるのなら、今すぐ私達の世界に来てください。
THWとARの融合によって誕生したこの物語は、きっと貴方の願いを叶えることでしょう。
操作は簡単。付属のスティックで見つけたモンスターを叩くだけ。
対人戦もあり、オンラインスポットであれば、全国の人々とも対人戦が可能になります。ランキングで上位を目指してはいかがでしょうか?
さあ、貴方の輝く物語はすぐそばにあります。貴方もこれを手に入れ、輝かしい一ページを刻んでください。
2055年夏発売。制作フラワーファンタジア」
「おお、なんか凄そうだな」
「でしょでしょ」
「確かに、面白そうではあるが、う〜ん」
少し怒った表情で美咲が訴える。
「とりあえず、やって見てから決めよ。面白くなかったら、やめればいい。でも、私が保証する。絶対面白いから。だから、やってみよー」
素の表情で俺は答えた。
「まあ、夏休みにやることもあんまなさそうだし、俺はやってみようかな」
「ホント?」
「充がそう言うなら、やってみるとするか」
「そうこなくっちゃ!」
美咲は心底嬉しそうな表情を浮かべる。
かくして、俺達3人は夏休みにARゲームをすることとなった。
期待と不安が入り混じる中、ゆっくりと季節は移ろっていった。