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The Higher World 〜ARゲームの隻眼勇者〜  作者: 松風京四郎
第一章 TSS (The Sparkle Story)編
2/10

俺だけが見える世界

「ここの範囲は、中間テストの範囲だからな。しっかり覚えとけよ」


先生がテストの範囲をコピーし、俺達に送信する。

「ポンッ」という音ともに、クラスメート全員にデータが届けられる。


「うわ、証明問題あるじゃん。せんせー、もっと簡単にしてよー」


一人の男子生徒が、訴えている。


「ちゃんと聞いてたらできることだ。お前、俺の話聞いてなかったのか?」


「いやー、それはー、その、ね、勘弁してくださいよー」


「バカか!」


『ハハハハッ』


クラス全員がその掛け合いに笑いを起こす。


「まあ、頑張ってやれ! ちなみに赤点だと補習確定だからな」


『えええ〜』


クラス全員が悲しそうな表情を浮かべる。


「では、これで今日の授業を終える。起立!」


ぞろぞろと立ち上がる。

俺もそれに倣って、立ち上がる。


「礼!」

『ありがとうございました!』


全員が張り切って答える中、口パクで済ます。

先生が教室を出ていくと、一人の灰色の髪の少年が話しかけてくる。


「おいっ! 充、ちゃんと勉強をしているのか?」

「ああ、それなりにな」


全くもって嘘だ。俺はさっきの授業中、窓の外をボォーッと眺めていただけだ。


「本当に大丈夫か?」


やけに俺に世話を焼くこいつは、古くからの友人、篝龍斗(かがりりゅうと)だ。こいつは、長身でなかなかのイケメンで、その上クラストップの秀才だ。

女子にも結構モテるらしい。


「ああ、大丈夫だ。龍斗みたいに頭良く無いから、徹夜で勉強するよ」


龍斗は呆れた表情を浮かべる。


「充。日々の勉強というものが……」

「ああ、もういいから」


無理やり話の腰を折る。


「そういえば、目は大丈夫か?」

「ああ、病院にも行ったし、問題も無いって。とりあえず、目を開けると痛むから、左目は閉じておくよ」

「そうか、それなら良かった」


また嘘をついてしまった。

本当は重大な問題があった。


「龍斗、突然だが、あれ何に見える?」


窓の外にはっきりと見える、紅白の塔を指す。


「何って、新京都タワーじゃないのか?」

「そう……だよな」

「………?」


龍斗は訝しげな表情を浮かべる。


俺の問題は、どうやっても他の人には伝えられない。

左目から見える景色が、荒廃した街並みだからだ。

そう、俺。新京都学園一年一組の大空充(おおぞらみつる)は、他の人と少し違う。

右目からは美しい街並みが、左目からは荒廃した街並みが見えている。


これは一体、何なんだ?




この症状が現れ始めたのは、俺が中学生の頃だ。

季節は忘れたが、ある時から、片目片目で違う景色が見えるようになった。


最初のうちは、荒廃した街並みに驚き、症状を友人や両親、医師にも訴えた。

しかし、誰も理解してくれるものはいなかった。

そこで、俺は理解したのだ。誰にも伝わらないことだと。


そう諦めた俺は、その頃から嘘をつき続けることを決めた。

左目を開けていると目が痛くなるということにし、瞼を閉じて生活してきた。

それと同時に、荒廃した世界のことは、誰にも話さなくなり、皆が見ている世界の範囲だけで会話を続けてきた。


俺は騙し続けた。

友人を。

家族を。

他人を。

そして、自分を。


その嘘の生活にも慣れてきた。

たまに間違って左目を開けるとナーバスな気持ちにもなるのだが。

未だにこの謎の症状の原因は分かっていない。

探す気もなくなってきたのだが。




「おっす。来たよー」


高校の屋上で、龍斗と待っていると、幼なじみの涼風美咲(すずかぜみさき)がやって来た。

美咲は、俺と龍斗の幼なじみで幼少期から仲良くしている。

黒髪、メガネで、小さめの胸をしている美咲は、一部の男子からは人気が高いらしい。


「何、買って来たんだ?」


俺があまり興味なさそうに尋ねる。


「サンドウィッチだよー。手軽く食べられるものじゃないと、昼休みにゲームできないからね」


そう。彼女は容姿に見合わず、かなりのゲーマーだ。

これは、幼い時からの彼女の趣味だから、俺も龍斗も普通に理解している。

どちらも、あまりゲームをしないのだが。


「美咲。ゲームをするのは構わんが、勉強は大丈夫なのか?」

「ああ。ええと。それなりに…」


龍斗は呆れた表情を浮かべる。


「全く大丈夫じゃなさそうじゃないか。俺のプリントをやるから、ちゃんとしろよ。シンク!」


そう言って、龍斗は空中で手を動かす。

彼が行なっているのは、THWを使った通信機能だ。

「シンク!」という掛け声を言うと、自分にだけ見える電子的な画面が視界に表示される。

それを使うと、SNSや電話などが容易にできる。

この機能のおかげで、スマホは姿を消しつつある。

空中の画面を滑らせる様な動きをする。


「ほら、できたぞ」


そう言うと、美咲が「サンキュー!」と言う。

送られたメールは、AIが判断して、当人にだけ聞こえる音で知らせる。


「シンク!」


画面を開き、送られたメールを彼女は確認する。


「龍斗くん。いつも、ありがとね」

「自分でしっかり勉強しろ」

「はぁーい」


生返事を確認すると、俺は話し始める。


「それにしても、THWで何でもできる様になったなー」

「確かにな。授業も、先生からプリントの資料を受信するだけで済むし、仮にプリントを無くしても、容易に復元もできる。本当に助かるな」


龍斗が感心する様に答える。


「アップデートすれば、やれることも増えるし、楽しいよねー」


美咲もとても楽しそうに言っている。

彼らの言う通り、THWは生活全てを変えた。

しかも、年に何度かあるアップデートで、できることも増えている。

俺の謎の症状もTHWのおかげで、紛らわすことができている。全くTHWさまさまだ。


「それで、知ってる? 新しいゲームの話」

唐突に美咲が話し始めた。

「何のことだ?」

「確かに」


俺と龍斗が訝しげな表情を浮かべると、自慢するように美咲が答えてきた。


「ついに、このTHWを利用したARゲームが出るんだって!」


そう言った時の彼女の表情は、キラキラと輝いていた。

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