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30年前

「すいませんねえ、突然。どうしてもお話をお聞きしたかったもので」


 僕達は伊達と言う刑事に連れられて、町の喫茶店に来ていた。

 刑事さんとこんな形で話すのは初めてなので、僕も含めてみんな緊張していた。


「みなさんそんな固くならないでください。フランクに話しましょう。そうだ! ジュース飲みます? 店員さ〜ん、この子達にオレンジジュース持ってきて〜!」


「話ってなんなんですか?」


 警戒するように茜が言った。


「あーすいません。それじゃ本題に入りましょう。あなた方に聞きたいことなんですが......最近、村の人達の様子がおかしいと思うことはないですか?」


 ドキっとした。なんでこの刑事は村の大人達のことを知ってるんだ?

 もしかしてこの人なら、大人達が豹変した理由を知ってるのかもしれない。


「それなら......」


「全然おかしくありません。いつもと変わらないです。なんでですか?」


 僕の話を遮って、茜が質問に答えた。

 なんでだ。なんでウソをつくんだ。


「そうですか。それじゃあ私の見当違いかな」


「け、刑事さんは村の大人の様子が変だって思うんですかぁ?」


 遥が緊張した声で言った。


「いえいえ。そういうわけじゃないんですよ。実際私は町の方に住んでいるので、村の人達の様子を見分けることなんてできません。ただ、私の予想が当たっていればもうそろそろ村人の様子がおかしくなるはずなんですよ」


「予想? おっちゃんは何を予想してるって言うんだよ!」


 少し強い口調で真沙斗が返した。


「おっちゃんとは......私はまだ28なんですけどね。厳しいな。あ! 予想ですよね。ところで、私の予想を言う前に、みなさんに聞いておいてもらいたいことがあるんです。それは、獣ヶ山で起きた事件のことなんですが......」


「「「「事件!?」」」」


 みんなの顔が驚きの表情になる。

 無理もない。あんな平和な村で事件があったなんて、聞いたこともない。


「そうです。あなた方が知らないのも当然です。なにせ、30年前に起きた事件ですから」


 体に電気が走ったような気がした。

 30年前。今、刑事が言ったその言葉を僕達は知ってる。


「な、何があったんですか? もったいぶらないで話してください!」


「すいません。実は30年前、獣ヶ山では中学2年生の男女4人が殺される事件が起こっているんです。犯人は獣ヶ山にすむ22歳の男性。村人の証言によると、その男性、ちょっと精神病の疑いがあったらしいんです」


「精神病?」


「そう。村の人達が言うには、事件の起こる一週間前から大声で神獣様がどうのこうの言いながら、村中を走り回っていたらしいんです。その姿があまりにも奇怪で、村の人達も怖がっていたらしいです」


「神獣様って、さっきの伝承に出てきたあの神獣様ですか?」


「そのとおり。そして事件当日。獣ヶ山に30年に1度の大雪が降った夜でした。先程言った、中学2年生の子供達4人が忽然と姿を消したそうです。外は大雪が降っていて危険な状態だったので、すぐに捜索隊を組んで探したらしいのですが。なにせ猛吹雪で、探している村人も危険な状況だったので捜索は中断してしまったらしいです。子供達が見つかったのは、それから3日後。雪がやんで解け始めた頃でした。行方不明になった子供達4人、それぞれが別の場所で遺体になって発見されたんです。司法解剖の結果、死因は4人共、鎌やなたなどの農具で滅多刺しにされて死んでいたそうです」


「そ、そんな......あたし達、そんな事件があったなんて聞いたこともないですよ。それにその犯人の男はどうなったんですか?」


 茜が話を遮って質問した。

 動揺からか、声が震えている。


「犯人の男なんですが、死体が見つかった途端に警察署に自主してきました。その時の事情聴取の記録が残っているのですが、これがまた興味深い内容なんですよ」


「興味深い? どういうことだよっ!」


「男が言うには、「俺は村人の代表だ、村の人間の考えを形にしただけだ。」の一点張りだったらしいんです」


「村人の代表って......」


「そうなんです。犯行自体はその男単体によるものですが、その裏には村人が介入している恐れがあります」


 村ぐるみでその子供達を殺したってことか。


「でも、でもその人は精神病だったって......」


「事情聴取の際には、彼が精神病だと言う記録は残っていません。立ち振る舞いや言動も全て正常だったと聞いています。しかし、短期的にはわからないこともありますし、警察では様子を見ることになっていたのですが......」


「結局どっちだったんだよ! なんで結果を濁すんだ!」


「すいません。ですが、未だにそれはわからないんです。いや、わからなくなってしまったと言うのが正しいのだと思います。なぜなら彼は、裁判を待つ段階で保釈されたのですが、その保釈中に死亡してしまったからなんです」


「死んだ!? その男に何があったんですか!?」


「記録の通りだと、その男は保釈中に行方不明になり、発見された時には既に死亡していたらしいです。しかし、その死体がまた奇怪なんですよ。男の死体は所々噛みちぎられたようになっており、内臓は綺麗になくなっていたそうです。これは、大型の獣に襲われた時にはよくあることらしいんですが......」


「け、けものに!? だって、冬じゃなかったんですか!?」


「事件の日から少し日数が経っていたので、早起きの熊の仕業だと言う結論がでています。しかし、おかしいと思いませんか? 保釈中に獣に襲われて死亡するなんて、奇跡としか言いようがありません。これはあくまで私の予想ですが、男は獣に食べられる前に何者かによって口封じのために殺されたのではないかと考えています」


「何者かって......」


「そこは、あなた達のご想像にお任せします」


 なんて刑事だ。想像に任せるだって?

 話しの流れからして、犯人はわかりきってるじゃないか!

 この刑事は、獣ヶ山村の人達を疑っている。


「私が伝えたかったのはここまでです。なにかご質問はありませんか?」


「......あの」


 口を開いたのは遥だった。


「刑事さんの話からすると、もしかして今年の雪の降る日に殺人事件が起こるって言いたいんですか?」


「その可能性があると言うお話をしたつもりです。あなた達は全員中学2年生ですよね。この話を聞く権利があると思ったからお話したんです」


「おいおい! あんたの話は30年前に終わった話だろ? 今年も雪が降るなんて決まったわけじゃねえし」


「いえ、私は憶測だけで今年も事件が起こると言っている訳ではありません。なぜなら、獣ヶ山では30年周期で雪が降り、その時必ず事件が起こって被害者が出ているんです」


「え? てことは、60年前も殺人事件があったってこと?」


「その通りです。古い事件で記録もあまり残っていませんが、その時の被害者もあなた方のような14歳の少年少女なんです」


「そ、そんな......でも待って、やっぱりあたし、なんか信じられないんですけど」


「そうですねえ、いきなり信じろというのも無理があるかもしれませんね......でも、信じていただかないとあなた達が危なんです。他に説得力のあることといえば......あ! あなた! 火村さんと言いましたっけ?」


「は、はい。僕ですけど」


「あなたは最近転校してきたばかりと聞いています。それなら、薄々感じていると思いますが。30代より上の村人の方達は、あなたにやけにそっけない態度で接していませんでしたか?」


「そ、それは......」


「そうでしょう。理由をお教えします。村人の中でも先ほどお話した事件を知っているのは、30年前のことを体験された方達なんです。びっくりしたでしょうね。まさか30年に1度の雪の降る年に、まるで運命に導かれるように14歳の少年少女が4人揃ってしまった。これは神獣様のお導きだ......とでも思っていることと思います」


「待てよおっちゃん! どういうことだよ!」


「いえ、さすがに獣信仰の強い村人の方でも普段から仲良く接している子供達を生け贄に捧げるのは辛いのではないかと言う、私の推理ですよ」


「「「「........................」」」」


 刑事の話を聞き、みんな黙り込んでしまった。

 なんてことだ。まさか、僕を嫌う世代の人達にそんな共通点や考えがあったなんて......

 それに、生け贄に捧げるのが辛いからあえて引き離すようなマネをしてるって? きよしさんや他の村人の反応もそれで全部説明がつくじゃないか!


「それでは、今日は私はこの辺で失礼します。もし、村の人達になにかしらの変化があった場合は早急に私に連絡してください。あなた達のためなんです。いいですね?」


 伊達は僕達に念を押して帰って行った。

 残された僕達は、数分の間誰も口を開く事はなくそのまま店を後にした。



 ****



「なんかぁ、大変なこと聞いちゃったね」


 獣ヶ山までの帰り道を歩きながら、遥が困ったような笑いを浮かべた。


「本当だよ! 急にあんなこと言われても信じられないって」


「それにしても、なんで茜はあの時ウソついたんだ?」


 気になっていた事を聞いてみた。


「ああ、あれ? なんか怪しい人みたいだったし、刑事ってなんかウソつきなイメージあるんだよね。あたし達から情報を聞き出すための作り話とか話してそうで。それなら、こっちの情報は出さずに相手に話させるだけ話してもらおうと思って!」


 すごいな。なんて頭の回る奴なんだ。


「でもよお、俺はウソには聞こえなかったんだよな」


 真沙斗が遠くを見ながら呟いた。


「............実は......ハルも」


「何々? みんなあんな話でビビっちゃったワケ? もーう、しっかりしてよ! ねえ冬夜?」


「え? う、うん......」


「ちょっと待ってよ! 冬夜まであんな話信じてるの?」


「うーん、でもさあ。あの刑事が言ってたことが本当だとしたら、村の大人達がおかしくなった説明がつくよね」


「それってよお、あの集会の時に30年前の話を大人達が聞いて、おかしくなり始めたってことか?」


「うん。そうじゃないと、今までの大人達の行動に説明がつかないと思う」


「でもそれって......大人の人達がハル達を生け贄にしようと思ってるってことだよね......」


「............うん」


 みんな無言になった。

 当たり前だ。村の人たちに命を狙われてるのだ。

 明るく冗談を言う気分になんてなれない。


「もうみんなシャキッとしてよ! 子供じゃないんだから」


「だってぇ......」


「そもそも冬夜は、あの刑事の話が本当だとしたらって言う前提で話してるだけだよ。大丈夫だって......」


 ずっと否定を続ける茜も、だんだんと自信がなくなっているらしい。


「おし! わかった!」


 急に真沙斗が声を張り上げた。


「なによ!」


「どうしたのぉ?」


「どうしんだよ真沙斗」


「こんなに不安になるぐらいならさ、いっそのこと俺らも動いてみねえか?」


「「「動く?」」」


「そうだよ! もし刑事の話が本当だとしてだな、俺らがなにもしなければそのまま殺されるだけだろ? それなら、雪が降ったら逃げ込める、緊急避難所を作っとけばよくないか?」


「なによそれ。緊急避難所に逃げ込んだあとどーすんのよ!」


「真沙斗ぉ! ふざけないでよぉ!」


「い、いや、その案結構いいんじゃないかな?」


「「え?」」


 遥と茜が驚きの表情を浮かべる。


「だってさ、雪を降らなくさせるために僕達を殺すんだよ。もしも僕達が死んでないのに、雪がやんじゃったら生け贄を捧げる意味がなくなると思わない? だからさ、雪がやむまで僕達がどこかに隠れていられれば、村人が僕達を殺す理由がなくなるんだよ!」


「あ! そうか!」


「冬夜君すごーい!」


 我ながらいい考えだ。言い出したのは真沙斗だけど。


「決まりだな。それじゃあ今のうちにいろいろと決めとこうぜ! 雪が降ったらどこに集合する?」


「秘密基地とかいいんじゃない? あそこだったら誰も近寄らないし」


「おお! 茜もたまにはいいこと言うな!」


「あんたには言われたくないわよ!」


「武器とか......持って行った方がいいんじゃないかなぁ?」


「武器かぁ......僕の家には包丁とかしかないかもしれない」


「俺はバットだな」


「あたしはくわとか?」


「あー! ハルは鎌とーった!」



 こうして、僕達は緊急時の避難場所を決めた。

 もしも刑事の言っていることが真実だとしたら、これで充分対処できるはずだ。ウソだとしても、いい思い出になるだろう。

 どうして現代まで生け贄を捧げると言う迷信的な文化が続いているのかわからない。でも、大人達の不気味な変わり様も、雪の日で全て終わって、またいつも通りの楽しい日常に戻れるならやるしかない。

 たくさんの不安と少しのワクワクする気持ちを抱えたまま、僕達はそれぞれ帰路についた。













 ーーーー雪が降り出したのは、その日の夜だった......

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