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伝承

「おいおい、早く調べないと日が暮れちまうぜ。なんだか雪も降りそうだし」


「そんなに口ばっかり動かしてないで手を動かしなさいよ! ほんとに口だけなんだから」


「はは。茜ちゃんと真沙斗はほんとに仲いいねっ! 」


「「そんなんじゃない!」」


「3人とも! 静かにしないと怒られるって!」


 真沙斗は既に本や新聞を調べることに飽きているようだ。


 キラーン


 ん? 何か視線を感じる。

 恐る恐るカウンターの方を見ると、眼鏡をかけたおじさんがこっちを睨んでいた。


「す、すいません! 静かにしますから!」


 おじさんはうんと頷くと、せっせと業務に戻った。

 ふう、ちょっと焦った。



 僕達は真沙斗の提案で図書館に来ていた。

 大人達が隠していることを解き明かすためだ。

 茜や僕が聞いた断片的な言葉から察するに、獣ヶ山村では30年前に何か起きていたと思われる。それも『しんじゅう』と言う単語に関することだ。

 何が起きたのか分かれば、親達の隠し事がわかるかもしれない。それに、少し怖いがなんだか探偵になったみたいでワクワクしていた。


「みんなぁ、これ見て!」


 古い本を調べていた遥が、なにか見つけたようだ。

 僕達は遥の周りに集まった。


「この本、獣ヶ山村の古い伝承が書いてある本なんだけど」


「古い伝承? 獣ヶ山村の昔話ってことか?」


「うん。そうだと思う。それでね、この本にさっき茜ちゃんが言ってた単語がでてくるんだよお」


 昔話に? 確かに30年前って単語もあったけど、伝承っていうのはそんなに新しい話じゃないはずだ。


「それで、どんな話なの? 遥は読んだんでしょ?」


「......うん。なんかね、ハル達が住んでる獣ヶ山村は昔から獣信仰が盛んだったみたい」


「獣信仰?」


「宗教のことだよ」


 真沙斗の疑問に僕が答えた。


「あ〜あ! 確かにうちの仏壇にもライオンみたいな絵が描いてある掛け軸があるね」


「俺んちもあるぜ! 小さい頃は怖かったな」


 なんなんだそれ。

 獣を信仰する人なんて見たことない。

 かなり特殊な宗教のようだ。


「それでね、昔々のある冬に、獣ヶ山村に今まで体験したことのない大雪が降ったらしいの。みんなも分かると思うけど、この地域は雪が降るなんて滅多にない。だから、村人達は初めての大雪に戸惑っていたみたい。大雪はその後もずっと降り続けて、凍死する人や雪山で事故に遭う人が多発したらしいの」


 確かに、この土地では何年かに一度積もらないぐらいの雪が降ればいいほうだ。今だって大雪なんて降ったらさすがに凍死はしないものの、雪山での事故は避けられない。


「その時の村の人達は、この大雪が降ったのは神獣様が怒ってるからだって思ったらしいの」


「神獣様!?」


 大声がでていた。

 今まで僕が『心中』だと思っていた言葉は、実は『神獣』だったということか!

 でも、なんだかファンタジーな話になってきたな。

 それに母さんはなんであの時、神獣のことを言おうとしたんだ?


「そこで、村の長老は神獣様に怒りをしずめてもらうために、村の若い男女を生贄に捧げたらしいの。その生け贄っていうのが、ハル達と同じ4人の14歳の子供だったって書いてある......」


「生け贄って、そんなばかな。まあ、昔々の頭のおかしい宗教の考えそうなことだよな」


「ありえないよね。そんなんで雪が降らなくなるはずない」


 茜や真沙斗は口々にそう言った。

 その通りだ。ありえない。

 さすが昔話である。そんな子供を躾けようとして話す怖い話なら、全国にいくらでもあるだろう。

 確かに聞いたことのある単語は出てきたが、全部ではないし全く信じられない話だ。


「なんか拍子抜けしたな。茜が聞いた話は昔話だったってわけか。怖がって損したぜ」


「あちゃー、なんか悪いね。あたしの早とちりだったのかも。でも、きよしおじさん達が変わったのはなんで?」


「そんなの簡単だろ? 集会で昔話をを聞いて、いつ大雪が降ってもいいように準備してるから、忙しくてイライラしてたんだよ」


「えー? それで機嫌が悪いってこと? まさかー!」


「でもいいじゃん! 茜ちゃんが聞いたのが昔話って分かっただけでもハルは満足なのです。ね? 冬夜君?」


「え? う、うん。そうだね」


 なんだか納得いかない。

 母さんや父さんの態度。村人の豹変。そのどれもが、集会で昔話を聞いたからこうなったって?

 違う。全く確証はないけど、そんな単純な理由じゃない気がする。それに、まだ出てきてない単語がある。

 本当に重要なのは、そっちじゃないのか?


「納得いかないって顔してますね?」


「え?」


 隣に座っていた若い男の人から話しかけられた。

 キリっとした顔立ちで眼光が強く、少し怖い印象だ。


「あーすいません。君達の話を盗み聞きするつもりはなかったんですけど、ちょっと興味のあるはなしだったんでついね」


「はあ」


 思ったより優しい口調に驚いた。


「その昔話なんですが、続きがあるのはご存知ですか?」


「続き、ですか?」


 男の口から予想外の言葉が飛び出した。

 遥達も興味がわいたらしく、僕と男の話に耳を傾けている。


「そう。昔話のその後と言うか。その村人達、また大雪が降ったらどうすると思います?」


「え?」


 答えはすぐにわかった。

 簡単だ。また生け贄を捧げる、だろう。

 しかし、この男は何が言いたいんだ?


「ご名答です」


 僕は何も言っていないが、表情で答えを察したらしい。


「大雪が降るたびに人を生贄にするなんて、異常としか思えないですよね。昔の人は怖いなあ。しかしですね、もしもそれが現代まで続いている儀式だとしたら、怖いと思いませんか?」


 この男は獣ヶ山の人達が今でも、雪が降ったら生け贄を捧げるとでも思っているのか!?

 そんなこと、できるはずがない。

 だって、今はちゃんと警察もいるんだし。


「はは、そんなことできるはずがないじゃないですか。今はそんな時代じゃないですよ。はは」


 否定した。

 この男の予想が本当にあるとすれば、あの村人達の豹変もわからなくもない。

 しかし、僕達を生け贄にするなんて考えられない。


「そうですよねえ。変な事言ってすいませんねえ。申し遅れました。私はこういうものです」


 男は机に名刺を置くと、僕の前までスーッとスライドささた。



『M県M市警察署 刑事課 伊達裕二』



「け、刑事さん、ですか?」


「はい〜。そうなんですよ。ちょっと今日は、あなた方にお話を聞きたくてね〜」


 その伊達と言う刑事は、目の笑っていない優しい笑顔で僕達を見つめた。

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