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不気味な疑問

 ーー話を戻そう。

 いつも通りクラスメイトが揃い、仲良く学校までの道のりを歩いていた時のことだった。


「お! 見てみろよ冬夜! 消防団の人達がはっ水してるぜ! お〜い!」


 通学路が川の近くに差し掛かった所で、真沙斗が大声で消防団の人達を呼んだ。

 見ると、青い服を着た男の人達が集まっており、1人がこちらに手を振ってくれた。

 近くには消防車があり、川から水を引いて消防車から噴射している。


「消防団? 消防士じゃなくて?」


 初めて聞いた単語だった。


「あ! そっか! 都会は消防団なんてないんだっけ? 消防団っていうのは、火事とか地震とかいろんな災害が起こった時に助けてくれる人達のことだよ。消防士との違いは、あのおっちゃん達が普段は普通の会社員だったり、農家のせがれだったりすることかな」


 僕の疑問に茜が説明してくれた。


「へえー。知らなかったな。消防士はこの村には来ないの?」


「来る来る! でも町から来るから、ちょっと遠いんだよね。だから、この村の若い人達が先に駆けつけて、小さい火事なら消しちゃったりするんだよ」


「おー! かっこいいな。正義の味方みたいで」


「ちなみにうちのお父さんも消防団なんだ」


 誇らしげに茜は言った。


「ハルの家もだよぉ! でもお父さんめんどくさがってあんまり行きたがらないんだー」


 すかさず遥も話に入ってきた。


「へー。そういうものなんだな」


「へへ、他人事じゃないぜ! 冬夜も高校卒業したらすぐにお誘いがくるんだからよ!」


 ポンと僕の背中を叩きながら、イタズラっぽく真沙斗が言い始めた。


「え? そんな! 僕は無理だよぉ〜」


「そういう人が多いってことだわさ。消防団長がこの前嘆いてたよ。ははは」


「いや、その、その通りです」


 茜に痛いところを突かれて何も言えなくなった。

 ヤバイ。気弱でダルがりなのがバレたかな。


「ほらほら、こんな話してたらスカウトがお出ましだよ」


 茜のその言葉通り、河原で作業していた10人ぐらいの男の人達がこちらへ向かって歩いてきた。

 その中でも、さっき真沙斗に手を振った若いメガネの男性が僕達の前に立った。


「おはよう! 学生達!」


「押忍!」


「グッモーニン!」


「わあ! おはよぉ!」


「お、おはようございます!」


 すると、メガネの男性は僕の方を見て喋り始めた。


「あれ? 君は新しく引っ越してきた火村さんちの? 」


「は、はい。そうです。よ、よろしくお願いします」


 メガネの男性の目が、一瞬キラーンと光ったように見えた。


「獣ヶ山村へようこそ! そしてこちらこそよろしく、火村君! いや、将来の同志よ。この村を守ってみたくはないかい?」


 サッと僕の前に立ち、ガシッと両肩に手をホールドさせてきた。

 まるで逃さないとでも言っているようだ。


「え? その、あの......」


 返答に困っていると、横にいた真沙斗がため息をついて喋り始めた。


「ホンっと、きよし兄ちゃんもめげないよな。俺たちはまだ中学生だぜ? そんな先の事今決めれるハズないって!」


「いや、若い内からこうやってツバをつけとけば、将来断りきれなくなって入ってくれるもんなんだよ! 思えば僕も8年前にこうやって無理矢理約束を取り付けられて......」


 そう言うと、きよし兄ちゃんと呼ばれる男性は嘘泣きを始めた。


「はいはい。さっさと作業に戻りなよ、きよしおじさん。全く、いっつもワンパターンなんだよねこの人」


 腕を組みながら茜が毒付く。


「何を! 僕は確かに君のおじさんだけど、まだ22歳だ! おじさんと呼ばれるにはまだ早いんだよ! わかったかね、茜ちゃん!」


 なんだか面白い人だ。それに茜の親戚だったらしい。


「ふ......ぷははは」


 茜ときよしさんのやり取りを聞いていた遥が軽く吹き出した。が、きよしさんを気にしてか、すぐに手で口をふさいだ。


「こらこら遥ちゃんも僕がおじさんだと思うのかい? ショックだなあ」


「あーもーわかったから。うちら学校に遅れるからもうサヨナラだよ、きよしおじさん」


「また君は! まあ、いいや。」


 いいんだ! そこは許してくれるらしい。

 気を取り直したきよしさんは、もう一度僕の方を向いた。


「そうだ! 消防団に入団するのはまだ先だけど、君を歓迎する気持ちは本当だよ、火村君。これからもよろしくね」


「あ、はい! ありがとうございます!」


 やっぱり、この村の人達は暖かい。

 初めて会ったよそ者の僕に、こんなに優しく接してくれる。


「おい! きよし! 何してんだ! はやくこんかい!」


 きよしさんが油を売っているのを見かねた年配のおじさんが、わざわざ呼びに来たらしい。


「わかってますよ! 大吾郎さん! 今戻ろうと思ったところなんです! あ! そうだ! この子、新しく引っ越してきた火村さん家の息子さんですよ! 名前は、えっと......」


「冬夜です。火村冬夜って言います。よ、よろしくお願いします」


「そうそう! 冬夜君ですよ! 歳は茜ちゃんと一緒だったよね。大五郎さん、彼はいい消防団になりますよ」


 ちょっとちょっと! この人はどうしても僕を消防団に入れたいらしい。




「あ? 茜ちゃんと......? ケッ、行くぞ、きよし! 」




 まただ。




「え? 大五郎さん? 彼は引っ越してきたばっかりで......」


「いいから行くぞ! おら!」


 そう言うと、年配のおじさんに引きずられて、きよしさんは消防団の作業に戻って行った。


「なんだよ、大五郎のおっちゃん! 感じ悪ぃな」


「あれー? 大五郎さんなんであんなに機嫌悪いんだろ? いつもはあんな人じゃないんだけどねー」


 真沙斗や茜がフォローを入れてくれる。


「気にしないでね。いつもの大五郎さんはもっと優しくていい人なんだよ」


「う、うん......」


 僕の制服のすそを引っ張りながら、遥も慰めてくれる。


「気を取り直して! 学校にGO!」


「そうだぜ! ちょっとシカトされたからってクヨクヨしてたらいかんぜ!」


「元気! 元気だよ! 冬夜君!」


「う、うん。大丈夫。気にしてないよ」


 こうして、僕たちはまた学校に向かって歩き始めた。



 ****



 ーーもう何度目だ。

 ーー絶対におかしい。


 僕がこの村に来てから3週間。こう言うことが多々ある。

 最初は、「閉鎖的な村民もいるんだな」としか思っていなかった。しかし、どうやらそう言う訳でもないらしいのだ。

 茜や真沙斗や遥は決まって、あの人は本当は悪い人じゃないと言う。

 別に疑ってはいないし、彼らの言う事は正しいのだと思う。現に、この村に悪い人はいないのではないかと言うぐらいみんな温厚で明るく、そして気さくな人達ばかりだ。


 ーー若い人間だけは......


 そうなのだ。それが僕の疑問だ。

 3週間でわかったこと。それは村民の中でも、大体30代半ばから上の世代に、異常に嫌われているということだ。

 逆に、それよりも下の世代には、その愛情がはっきりと感じ取れるほど歓迎されている。


 例えば登校中。すれ違った人に朝の挨拶をする。すると、若い世代の人達は挨拶を返してくれる。しかし、中年から年配の層の人達は、まるで僕だけがいないもののように接してくるのだ。

 そして、僕のことを嫌っている人達は決まってヒソヒソと何か話をしている。

 一度、聞き耳を立ててみたことがあるのだが、よく聞こえなかった。かろうじて聞き取れたことと言えば、「また」、「30年前」、「4人」と言う意味のわからない単語だけだ。しかもその単語は、聞き耳を立てた時には必ずと言っていいほど話されている。


 意味がわからない。一体なんなんだ。

 閉鎖的な村だとしても、ここまでハッキリと嫌われる世代が分かれるものだろうか?

 いや、それはないだろう。

 だとすると、なんで中年から上の世代の人達は、こうも僕を目の敵のように接するのか。

 何度考えてもわからない。むしろ、その徹底した嫌い方も不気味だ。


 しかし、この時の僕はその疑問を解決しようとはしなかった。クラスメイト達と楽しく生活できればそれでいい、すべては時間が解決してくれるだろうと甘く考えていた。

 あの日までは......

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