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新事実

「 うわっ!」


 雪に足を取られ、その場に倒れこんだ。


「......いててて」


 雪がクッションになり、どこもケガをせずに済んだ。

 しかし、もうこんなに雪が積もっているのか......



 僕は家を出て山の方にある秘密基地へと山道を歩いていた。

 家を出る時に傘ではなく雨合羽を選んでいて本当に良かった。これなら防寒性もいいし、両手が自由に使える。

 しかし気になるのは足元だ。道に積もった雪に足を奪われ、なかなか前に進むことができない。履いてきたスニーカーも雪に濡れたせいで重いし、冷たくて足の感覚がマヒしてる。


 降る雪はだんだんと強さを増していく。これが吹雪って言うやつなのか。

 まさか雪のせいでこんなに前が見えなくなるなんて......下手をすれば遭難するレベルだ。




「冬夜くん!」


 足が止まる。それと同時に緊張が僕を襲った。

 声は後ろからだ。まさか村人に見つかったのか!?

 いや、そんなはずはない。秘密基地へ集合する事を知ってるのは僕達4人だけだ。

 それに、母さん達が気づいて動き出すには早すぎる。

 恐る恐る後ろを振り向き、声のした方を懐中電灯で照らす。


「は、遥?」


 僕を呼び止めたのは、黄色い雨合羽を着た遥だった。

 両手で鎌を握りしめている。


「良かった! 本当に冬夜くんだ!」


 僕の声を聞き、遥が近づいてきた。


「僕も良かったよ。遥の家に電話したんだけど、誰も出なくて......もしかしたらって考えてたんだ」


「ハルのこと心配してくれてたんだね。嬉しい!」


「それはそうと、なんで懐中電灯も持たずに来たの?」


「ハル、この山道に詳しいから明かりがなくても大丈夫だと思って出てきたの。でも、この吹雪と下に雪が積もってたせいでなかなか前に進めなくて......道に迷いそうになってたら冬夜くんを見つけたんだよ」


「そうだったんだ。僕もおんなじ感じだけど......遥と一緒ならなんとか秘密基地にたどり着けるかもしれない!」


「そうだね! 2人で助けあえばぜ〜ったい大丈夫だよ。懐中電灯があるなら、あんまり雪があたらない秘密基地までの近道があるんだけど行ってみない?」


「近道? そんな道があるんだ! うん、行こう!」


 遥と僕は、山道をそれて山の中へと入って行った。



 ****



「ここが......近道?」


 遥が近道だと言って連れてきたのは、山の斜面にぽっかりと空いた不気味なトンネルだった。


「うんっ! ここなら雪もあたらないし、普通に山道を行くよりも早くつくよ!」


 そう言って遥は、僕の手を引いて中へ入って行く。



 ーー中は暗く、ジメジメとしていた。

 壁はどうやら土でできていて、いつ崩れてもおかしくない。

 遥は僕の手を握ったまま、どんどんトンネルの奥へ進んでいく。

 でも、確かにここなら雪の影響を受けないし、外よりも若干暖かいけど......


「ねえ遥? この道、どうして今まで教えてくれなかったの?」


 この村に来てもう1ヶ月経つが、真沙斗も茜もこんな道教えてくれなかった。


「ん〜、実は、ハルも初めてこの道知ったんだよ」


「え? 初めてって? じゃあこの道は真沙斗や茜も知らない道なの?」


「うん。そうだと思う。ハルも知らなかったから。でも、なんか通ったことがある気がするの」


「通ったことがある気がするって......初めての道なんだよね?」


「そう。でも、なんか昔、ここを通って秘密基地の近くにに行った記憶があるの。なんかおかしいよね? 今日初めて知った道なのに」


 昔? 記憶? なんなんだ。

 一体遥はなぜこの道を知ってるんだ?


「急にこの道があるって思い出したの?」


「うん。なんかね、さっき雪道を歩いてたら、ふと思い出したの」


「そ、そうなんだ......」


 疑問が残る。そんなに都合良くこんな近道を思いつくだろうか?

 それに、真沙斗や茜さえ知らないなんて。

 もしかして......遥は村人の仲間?


「冬夜くんどうしたの? なんか考え事?」


「え!? いや、ちょっとね」


「ふ〜ん。でもそろそろ外に出るよ」


「外?」


 前を見るとすでにトンネルの出口に差し掛かっていた。


 いかんいかん。なんで遥を疑わないといけないんだ。

 彼女もまた、僕と一緒で村人から追われる身なんだ。こんな状況で仲間を疑うなんて、どうかしてる......


 近道のトンネルから出た僕と遥は、そのまま秘密基地の方へと歩いた。



 ****



「どうしよう?」


「ぼ、僕が開けるよ」


 秘密基地についたはいいものの、僕達は玄関の前で立ち止まっていた。

 玄関は木でできたスライド式の木戸だ。もしも、中に先回りした村人がいた場合、開けた瞬間に襲われる可能性がある。


「......いくよ」


「......うん」


 僕は木戸の取っ手に指をかけた。

 遥は鎌を握りしめて、いつでも振れるように構える。


「「........................」」


 緊張が走る。

 遥の心臓の音まで聞こえてきそうだ。

 震える指をしっかりと固定して、木戸を一気にスライドさせた。



 ザザっ



「冬夜!」


 木戸が砂利を噛む音と同時に、真沙斗の声が聞こえた。


「ま、真沙斗?」


 真っ暗な秘密基地の中から、懐中電灯の明かりが見えた。


「いいから、早く中に入ってドアを閉めてくれよ!」


「う、うん!」


 急いで中に入り、木戸を閉めた。


「遥は?」


 もう一つ、懐中電灯が点いた。

 茜もいるようだ。


「茜ちゃん!」


 遥は僕の体を横切って、暗闇から姿を現した茜に飛びついた。


「お前ら遅かったじゃねえか!」


 警戒が解けたのか、真沙斗が懐中電灯を照らしたまま僕に近づいてきた。


「いや〜、途中雪が酷くなってきちゃって」


「雪が降り始めたら集合って言っただろ? 電話してもでねえし」


「電話!? 僕の家に?」


 初耳だ。


「そうだよ! 3コールぐらいしたらすぐに切られて、誰もでねえんだよ」


「多分、母さんか父さんだ......」


「そ、そうだったのか。それじゃあやっぱり親父達も俺らのことを......」


「......うん」


 真沙斗は下をうつむいていた。

 一番信頼できる親からも、命を狙われていることがショックなのだろう。


「あのさ。今どんな状況なのかをおさらいしてみない? 家に帰ってからここに来るまでにどんなことがあったとか、どんなことを聞いたとか」


 遥と抱き合っていた茜が提案した。


「そ、そうだね」


「ハルも確認したい......」


「よし! 決まりだね」


 僕達は流星群を見るときに使ったストーブをつけて、その周りに座った。

 いざストーブを囲むと恐怖が少し薄らいだ。しかし、命を狙われているのは変わらない。

 一時の間、全員がストーブの火を見つめていた。

 沈黙を破ったのは茜だった。


「それじゃあ情報交換だ。まずはあたしから。あたしは雪が降ってすぐにここに来たんだけど、来る途中に消防団の人達が見回りしてるのを見た。なんか、普段の見回りよりも人数が多くて、みんななんだか物騒なものを持ち歩いてたよ」


「物騒なもの?」


「うん。ナタとか鎌とか。普通の見回りぐらいでそんな武器みたいなもの持ち歩いてるわけないよね」


「茜ちゃんやめてよ〜、ハル......怖い」


「仕方ないよ。あたしもそれを見るまではあの刑事の話信じてなかったけど、信じざるおえないよね。あちらさんも本気を出してきたってことだよ」


「おい待てよ! 雪が降ったから見回りしてただけだろ!? それだけじゃまだ俺らを狙ってるとは言えねえじゃねえか!」


 真沙斗は声を大きくして言った。


「しーっ! あんたバカじゃないの? 声はできるだけ小さく! 見つかったら生け贄にされるかもしんないんだよ?」


「だってよぉ......」


 真沙斗は、珍しく茜の注意を受け入れた。


「実はハルもね。来る途中に村の人が話してるの聞いちゃったんだけど......」


「なに?」


「茜と真沙斗がいなくなった。また神獣様の生け贄になっちまったって......」


「「「え?」」」


 なんだ? 遥は何を言ってるんだ?


「だって遥! 僕とここに来るときは何も言ってなかったじゃないか!」


「ごめんね。冬夜くんを怖がらせたくなくて......」


「ちょ、ちょっと待てよ! なんで俺と茜がいなくなったのが、神獣様のせいなんだよ! 村の奴らから狙われてるんじゃなかったのかよ!」


「ハルにはわかんないよ......」


「なんなの? もうあたしも意味がわかんない。武器を持ってあたし達を探してんのに、神獣様のせいでいなくなったって言ってるワケ?」


「と、冬夜はどう思うんだよ!」


「ぼ、僕?」


 混乱していた。意味がわからない。

 遥の話が本当なら、犯人は村人じゃなくて神獣様?

 そもそも、神獣様に生け贄を捧げるために、村人が僕達を殺すと言う刑事の推理は、最初から間違っていたという事か?

 そんなバカな。神獣様なんているはずがない。

 仮に神獣様のせいだとして、村の連中の態度が急に変わったのはなぜだ?

 あれは確実に、僕達に神獣様の話を隠して、雪の降る日に僕達を生け贄に捧げるための作戦じゃなかったのか?

 それに、母さんや父さんが悲しんでいたのはなぜだ?

『もうすぐ』とか『今の状況』とか言ってたじゃないか!

 あれは全て、空想上の生物である神獣様を怖がってたってことなのか? ありえない......

 でも遥が聞いたのもウソだとは考えにくいし......


 ダメだ。考えれば考えるほど深みにハマっていく。

 一体僕達は何に狙われてるんだ?


「僕も......わからない......」


「「「...................」」」


 誰も喋らなくなった。

 みんなそれぞれに考えていることはあるのだろうが、それの答えがでない今となっては話しても無駄だと思い始めたのだろう。


「ねえ? なんか今、窓の外で明かりが見えたような......」


「「「え?」」」


 みんな窓を見た。

 窓の外からは確かに小さな明かりが遠くからこちらに近づいてくるのが見えた。


「や、やべえ。村の奴だ。ストーブ消せ!」


「どうしようどうしよう。冬夜くん、怖い」


「だ、大丈夫だよ。静かにしてれば見つからないはず」


「しーっ。もう近いよ。窓から死角になる位置に行って伏せときな」


 僕達は息を潜めて、身を丸くした。

 秘密基地の薄い壁の外からは、雪を踏みながら歩く足音がよく聞こえた......

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