1.5(宇津井君の場合)
宇津井くん目線です
春日がどうしてもしたいと手をついて頼もうとしたのは、初詣だった。
女の子の癖に土下座をさらっとするなよ、という突っ込みは心の中だけにしまったけど。
初詣でくらい、僕も最初から予定に入れていたし・・・。
「宇津井くーん。おまたせー」
待ち合わせ場所は目的の神社近くにある交番前にしている。
春日は中身はともかく、見た目はちょっとみないくらいの美少女だ。
そのくせ本人は自覚がないのか、寄ってくる人間に警戒心がなく、30分以上も前から待ち合わせ場所にいて絡まれている。
だから、待ち合わせ場所は絡みにくいような場所を選んでいるわけだ。
そもそも、なぜ30分も待とうとするのが謎だ。律儀とはまた違うだろうということは、なんとなくわかるけど。
「ちょ、走らなくてよかったのに。それに待ち合わせまでまだ時間ある」
目が合うやいなや、飼い主を見つけた迷子犬みたいに一目散にかけてくる。
ひざ丈のスカートを履いているくせに、短距離スプリンターみたいに駆けてくる。
おいおいおいおい、勘弁!
注目を集めて走り寄ってくるなよ。
あと、スカートなんだから気にしてくれよ。
それでも、僕を見て嬉しそうにされるとこっちも嬉しい。
「あけましておめでとう、春日」
春日はうんうんと頷く。
「集合時間はまだでしょ。待たせないための時間設定なんだからね」
春日は真剣な顔でまたも頷いている。
「聞いてる?僕の話」
「うん、うん」
「聞いてないな」
「走るなってことだよね!」
本当に全然聞いて無い。
いつもみたいに自分の世界に入っていたんだろう。
おもわずため息がでた。
「その後だよ」
春日はじっと僕のことを見つめた。たぶん何か考えているんだ。
春日と僕はそんなに身長差がない。
だから、自然と春日との距離はいつも近い。
その綺麗な目でみつめられるとそわそわするんだけど。
こんな野外で彼女に見つめられてソワソワしてるカップルっぽい所を誰かに見られるのは恥ずかしい。
「もういいよ、行くよ」
細い背中をそっと押すと、春日は僕の手をそっとつないだ。
身長は同じぐらいでも春日の手は小さくてやわらかい。
かっと顔が熱くなった。
なのに春日は照れもせずにこにこと笑う。
「ふふふ、初詣楽しみ~がんばっておしゃれしちゃったよ」
春日はまぁ・・かわいいんだけど、こういう所なんとかしてほしい。
スカートはもちろんだし、普段はしない化粧がやけに大人っぽい。
姉さんや母さんがあれこれ着飾るのをなんとも思わないけど、
彼女が自分のためにとなると、やけに心がソワソワする。
気恥ずかしくなって、思わず早歩きになった。
いつも思う。
春日は僕よりずっと素直に好意を伝えてくる。
僕は思春期らしく、そういうことは大いに照れるし
女の子にデレデレしてるのを人に知られるのは気恥ずかしい。
まして、誰にも言わないけど春日は僕の初恋みたいなやつだ。
まさかの、女の子の土下座から恋が始まるなんて思ってもみなかったけど。
春日といると時々素直になってみようと思う。
「にあってる」
春日の顔も見れず、ぽつりと零れ落ちるように出た。
うわ、カッコ悪い。
「う、嬉しい!」
それでも春日はぶんぶん繋いだ手を振り回しながら笑う。
なんだかそういうところがたまらない。
でもそれもなんだか気恥ずかしいし悔しい。
「声、大きい。聞こえてるよ」
「うん!うん!あ、忘れてた。あけましておめでとう!」
「それをさっき言ったんだけど?」
やっぱり聞いてなかったみたいだ。
ほっと息を吐き出す。
春日は一気に顔色をなくした。
「あ、あああああ」
「なんでそんな真っ青な顔してるの?」
「初あけましておめでとうが・・・」
「あぁなんだ。そんなこと」
「宇津井君。なんとことじゃありません。ねぇもう1回」
「はいはい」
「うう・・宇津井くんの・・はじめて」
無意識に大きくなる春日の声にはっとする。
春日は恋愛に積極的であれこれイベントはしたがるくせに、その先にはどうも疎い。
僕も経験豊富ってわけじゃないけど、春日は無意識に変な発言するから困る。
っていうかどれだけ自分が注目されてるか気づいて。
今もたくさんの人が春日を振り返ってまで見てるから。
「ちょっと、変な言い回しはしないで」
顔に熱があがる。
「宇津井くん!今年もよろしくね」
「・・・うん。よろしく」
本当に春日というと調子が狂う。
僕が受け付けないなと思っていたことばかり、起こる。
それが嫌じゃない自分って本当に頭をやれれてる。