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朝重幽子は異世界にて背後霊的な『なにか』をやりとげました。

作者: motto

一応、転生憑依物になるのか?ご一読いただければありがたいです。

やあ、諸君、私は朝重幽子というものだ。

神が居て、ドラゴンが居て、精霊が居る、そして剣と魔法が闊歩するファンタジーな異世界へようこそっ!

まぁ、私は転生してこの世界に来たのだけど、こういうはじまりの場面ではまず前世から転生した時のエピソードでも話すのが良いのかな?

・・・だけどあえてそれを断ろう。

怒らないでくれ、

なにせ私は、いままさにこの人生のフィナーレを迎えようとしているのだからね。

病気か?事件か?絶体絶命か?って、

いやいや、この世界での平均寿命を軽く越えての老衰による大往生さ、

アーティー・オリエンは子どもに、孫に、ひ孫に、玄孫に囲まれて、ついでに近所の奥さんから友人、知人まで合わせて、とにかく多くの人々に囲まれ、想われ、惜しまれて安らかに息を引き取る所なんだよ。


ん?お前は冒頭で朝重なんちゃらとかいう奴だとか言ってなかったかって?


そうだね、最後にアーティー・オリエンと朝重幽子の関係、それを今から説明しよう。


最初、この世界におぎゃあと生れた私の隣にはアーティーが寝ていたんだ。

転生したことを実感していた私は、その時『あぁ、この子は私と双子なのね』なんて呑気に思っていたよ。

しかしそれもつかの間で、すぐに違和感を憶えた。

『誰も私を見ていない』ってことに気付いたからね。

隣のアーティーが泣けば母親が来るし、兄らしき男の子もあやしてもくれるのに、叫んでも暴れても私には誰一人として、そう視線すら合わせてくれなかったのだ・・・。

最初はこの世界独特の双子にまつわる何かのしきたりかとも思ったけれども、その誤解は直ぐに解けた。

父親がひょいっとアーティーを持ち上げたら、私も吊られるように空中に浮いたのだ・・・それはもう、ふよふよとね。

そして私はまじまじと自分自身の体を『視て』みたんだ。・・・それは『感じた』というよりも『知覚』したというのがより正確だね。

だって私には手も足も視えない、そもそも視る為の眼も、話すための口すらない・・・・・でも私の身体がある事は感じる。

そしてその体の一部は確かにアーティーと繋がっていることも感じたのだ。

これまで経験したこともないも不思議な感覚をその時、初めて知った。

私はアーティーからはみ出た幽霊的な存在が自分自身である事を『知覚』したのだ。


それからいろいろ試してはみたが、霊体のような体で繋がってはいるもののアーティーとは別個の意識を持っているようで、まったくアーティーの考えは読み取れず、そして私という別個の意識の存在にもアーティーは全く気付くことはなかった。


会ったわけでも無いが、転生に関わった神様がいると仮定して『ふざけんなぁっ!』と当時の私は叫んだものだよ。


それからしばらくして、さらに大きな違和感に私は気が付いた。


成長していたのだ。


赤ん坊だから成長するのは当然だろうって?

それは確かだが、私の成長はそんな遅々としたものではなくとんでもないスピードだった。

具体的にはアーティーが寝て朝起きるとなぜか私の体積は前の日に比べて二倍程大きくなっていたのだ。

その次の朝はさらに二倍、その次の朝も二倍、さらにその次の朝も・・・という具合にすさまじい速さで、でかくなっていったのだ。


朝を重ねると大きくなる幽霊みたいな女の子・・・・・・それを略して朝重幽子と呼ぶ。


朝重幽子って前世の名前じゃなかったのかよっ!と突っ込みが聴こえるが私にだって言い分がある。

『せっかく転生したんだから、せめて名前くらい好きに変えさせろ!』だ、命名は私、使うのは私のみっ!私は誰にも認識されない為、『朝重幽子』は今日に至るまで誰にも呼ばれたこともないという、不憫な曰くのある名前だったりするのだがな。


まぁ、私はぐんぐんと成長してすぐに兄の大きさを越え、父を越え、部屋を越え、家を越えた。


ちなみに私の身体は幽霊みたいなものだからか壁やら屋根やら床やらは普通に透過したよ。


とにかく私は新しい朝が来るたびに村を、街を、国を、大陸を越えて、最終的には世界を包むようにしてぐんぐんぐんぐんと馬鹿みたいに成長していくこととなる。


その中でエルフやドワーフ、幽霊、精霊、ドラゴン、神様なんかにも触れて知覚する機会はあったけれど、だーれも私を認識出来やしなかった。


『知覚』といえば最初の頃はものすごく嫌だったなー、なにせ感覚だけは知ることが出来たのだけどそれは半ば不随意的、強制的なものだったからね。

想像して欲しい、体の中で勝手に蠢き這い回る無数の人や家畜や虫、そして魔物や精霊とかいう未知の生き物達、それらが勝手に便を垂れ、食事をして、殺し合い、性欲を晴らすのだ。

その様を全身で感じるというのはまさに拷問、最悪な気分だった。


だがそんな私にも大砂漠の中で水一滴、それでもオアシスと呼べるものがあった。


『アーティー』である。


アーティーと朝重幽子は別の意識を持った同一人物でもある。

だからなのかアーティーを感じて入れば不思議と不快な気分にならなくて済んだのだ。

これには助かった。

まさに神様、女神様、アーティー様である。

しかもアーティー様の恵みはそれだけではない。

なんとアーティーの成長に合わせて、はみ出し霊体である私にもできる事が増えていったのだ。

例えばアーティーが初めて積み木を3段積み上げられたときには私は象に似た3t位の魔物を持ち上げられるようになっていた。

アーティーが立つことができるようになった時には、私は山よりも高く背を伸ばす事ができるようになっていた。

そしてアーティーがしっかり走れるようになった時には世界一周位は身体を伸ばす事ができるようになったという具合である。

そしてアーティーが無事成長して大人の女性になった時には、この国で、いや世界で私が干渉できないものはなくなっていた。


アーティーが居なかったら私の自我は崩壊していたかもしれないね。

アーティーには感謝してもしきれないよ。

まじアーティー様LOVEである。


そして私はこの世界に多少干渉できるようになった頃から、自分自身に一つの役目を持たせる事にしていた。


それは私にとって唯一のオアシスと言っても良いアーティーの背後霊となることだ。

背後霊としてアーティーを護り、背後霊としてその願いは必ず叶えるということを信条とした。


なにかそれって危ない考えではないかって?


そうそう、核爆弾よりも性質の悪い存在の力のカギを無自覚な人間が持つのだ、危なくないわけがないよね。


正常とは言えないな・・・いや、とっくの昔に朝重幽子は狂っていたよ。


自分自身があるとは言えず、だれにも認識もされない孤独な世界で正常であれとは酷じゃないか。


アーティーだけが・・・そうアーティーだけが私の私たる確たるものだった。


だからその選択で世界が滅びようとアーティーが願うならそれで良い。

アーティーの願いに反する物なんて無くなればいい、全て叩き潰せる力があるのだから。

アーティーが幸せであればそれで正解、不幸を感じる事が間違えなのだ。

そんな考えに私は至った。

それが朝重幽子の孤独を癒す幸せの形であった。


だから、この世界が今なお継続しているのはアーティーがある意味で平凡、そしてとても良い子だったということがあるのだろうね。


私を認識しないアーティーが口に出す願いなんて滅多になく、そこらの使えない神に祈るときぐらいなものだった。


例えば「病気が早く治りますように」とか「野菜が無事に育つように」とか、「明日天気になりますように」とかね、なんでも望みが叶うのに、そんな望みしか口にしなかった。


ちなみに前述の病気はアーティーの「子どもの風邪」、私が護るアーティーは病気も怪我もしたことないからね。その子どもにも私が特効薬を密かに服用させて無事完治させましたとも。

野菜も私がきっちり管理しているので無農薬なのに病気も害虫も被害ゼロで大豊作!

天気なんかは最初大変だったけど、私が十分成長したら造作もなく変えることができるようになったよ。


すこし願いが少なくて残念ではあったけどアーティーは基本的に村娘としての平凡な人生と慎ましやかな生活に満足していた。

過剰な大金持つことや権力持つことには興味がなく、色恋沙汰も特になかったから、親の勧めた男と抵抗もなくさっさと結婚したし・・・。

田舎でいやに現実主義な環境なところもあってか、自分でも叶わないと思うような願いは滅多に口に出さなかったのもある。


「平和で平凡が一番よね」


ちなみに、これがアーティーの良く言った願い事。

よーするに、このちっぽけな村の片隅で平和で安穏とした今の生活が続けばアーティーは幸せだったのだ。



まぁ、時にはそのアーティーの『平和で平凡が一番』の生活を護るために、本人の知らないところで多くの命や世界の事象に私が関わった事もあるのだけどね・・・。


アーティの村の周囲に出る野党や魔物

普通に全員ぶち殺していますがなにか?いまじゃこの辺りは世界で一番の平和な地域ですよ。


邪竜の襲来

アーティーや村の人が気づく前にプチっときました。


隣国との戦争勃発

お互いの国の主戦派を幾人か潰して講和に持ち込みましたよ。国ごと潰すと生活が荒れるからね。


地震・台風

被害?なにもないけど。晴れ過ぎず雨も降りすぎずない、いつものいい天候ですよ。


神々の試練

わたしすら認識できない自称神様(笑)達の迷惑ないたずら企画、本当に迷惑なだけなので全員この世界から退場して白紙撤回させていただきました。


他にはでかい彗星が降ってきたり、どこからか宇宙人が侵略してきたり、急に異世界の扉が開いたりと、うわぁ、平和って何気に守るのが大変なんだなーとは思ったものの、それなりに楽しめたよ。


そんなこんなあった朝重幽子とアーティー・オリエンの人生だが、お互い人としてはかなりの高齢で、アーティーも今はもうベッドの住人だ。

もうすぐ、この生も終わると思うと感慨深い。

はたしてアーティーが死ねば私も同じく死ねるのか?

はたまた転生でもするのか?

それはまだわからない。

もしアーティーが死んで私が残るなら、この世界か私かのどちらかを破壊するのもいいかもしれない。

そして、もしかしたらばアーティーは死んだ後で私と同じような存在となって私を認識してくれるのかもしれないのではとも少し期待している。

そう、いずれにしてもこの果てないと感じた孤独は終わるのだ。


今生を失う事について少し悲しくもあり、未来が怖くもあり、そして楽しみでもある。



ネタバレ注意!


朝重 幽子 

もはやとり憑いていると言った方がよい背後霊の枠を超えた存在となった主人公。誰にも知られずに究極に孤独を味わった転生者。あるいはその力を自分の存在を示す為に使えば孤独にはならなかったのかもしれないが、そう考える事は無かった。


アーティー・オリエン 

ただの村娘としてその一生を終えた。自分も周囲も認識していない部分で無自覚にこの世界に多大きな影響を与えた人物。


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