シーズン・ストーリー 秋の執事様
山々が赤く染まって、風にのってモミジとイチョウがやって来ます。少し寒いですが、日差しは暖かいです。
此処は秋の国。
小さな女の子ダナは春、冬の国にいる友達と遊んで帰って来たばかりでした。父親と手を繋ぎながら歩いていると、父親のタナハはダナに聞きました。
「ダナ。楽しかったかい?」
「うん、楽しかったよ」
にこにこと笑い、その喜びをタナハに伝えるため、何をしたかを話しました。
「一緒に追い掛けっこしたり、おままごとしたり、楽しかったよ!」
「そうか、そうか」
嬉しそうな娘にタナハも嬉しくなります。二人は大きな屋敷の門の前に来ると、ダナはじっと屋敷を見ます。
「大きいなぁ」
「だろう。何せ、昔の王国に仕えたと言われる国を治める貴族だからなぁ」
昔の伝説には、春、夏、秋、冬の国は一つの王国だったそうです。しかし、魔女によって四つの国に別れたと言われています。
魔女は王子様に呪いをかけ、執事は魔女のあとを追い掛けましたが、命が短くなる呪いをかけられて、若く亡くなりました。
呪いのせいで、執事の一族も呪われました。
此処の貴族はその執事の末裔にあたり、代々命が短くなる『短命』という運命を背負っていました。
「…確か、此処の貴族様の別名って『秋の執事』様だったよね?」
「そう、冬の国にと夏の国にの気候のせいで、『秋の執事』って呼ばれているんだよ。噂では秋を司るからとも言われているけど」
ダナは友達が『冬の王子』と『春の騎士』のお話をしたのを思いだし、ダナは少しだけ寂しさを感じ、羨ましいと思いました。
― ―そして、ダナは家に帰り、いつものようにご飯を食べ、母親と共にベッドにはいります。
「今日はいい夢を見れますように」
そう願い、ダナは夢の世界に旅立ちました…。
日が顔に当たります。
ダナは目を開けると、見知らぬ天井か見えました。きょとんとし、身を起こすと見知らぬ部屋にいました。
「…え?」
必要な物しか置いてない普通の部屋。
ダナは立ち上がって、手を握ったり開いたり、頬を叩きます。パチンと音がし、痛みを感じました。
「…痛い」
夢ではないと理解し、ヒリヒリとする頬を押さえていると、部屋に誰かが入ってきました。
「…さて、今日の買い出しはしましたか…ら…」
ダナと青年は目が合います。黒髪の眼鏡をした優しそうな青年。シャツとズボン、革靴をはいて、食料の入った紙袋を持っていました。しかし、紙袋を落とし、青年は戸惑いました。
「ちょっ…ええ!? 何で、此処に女の子がいるのですか!?」
「…えっと…その…」
ダナも戸惑い、何を言おうか困ります。青年は深呼吸をし、心を落ち着かせると静かにダナを見ました。
「…あなたの名前は?」
「…ダナ」
「ダナさん、ですか。私はフィリポです。…ところで」
フィリポはじっと怪しく見ます。ダナはビクッと震え、怯えます。
「あなた…どうやって、私の家に入ってこれたのですか?」
「わ、私にも…わからないです!」
フィリポの疑う目が怖いです。怯えているダナを見て、フィリポは息を吐き、安心させるため、優しく微笑みました。
「…すみません、怪しんでしまって。あなたのような可愛らしい方が怪しいことはしませんよね。このあと、お茶とおかしを用意します。食べながら、訳を聞きましょう」
――フィリポは紅茶とクッキーを用意しました。クッキーが宝石のように綺麗に見え、ダナは目を輝かせました。
「クッキーはシンプルなものと、チョコ、ジャム、抹茶の味がございます。紅茶はダージリンという茶葉を使いました」
「…お、美味しそう…」
「食べていいですよ」
「じゃ、じゃあ、いただきます!」
手を合わせ、ダナはクッキーを食べました。バターの風味と甘さが口の中に広がり、ダナは感動を表情に表します。
「美味しいですか?」
何度も首を横にふり、嬉しそうに笑います。
「そうですか。良かった」
「フィリポさん。此処は何処ですか?
私は秋の国に居たんです」
「秋の国? …そんな国に聞いたことありませんね」
「えっ」
聞いたことない。ダナはそれを聞き、呆然としてフィリポにたずねました。
「…聞いたことないのですか?」
「ええ」
ダナは焦り、話しました。
「私はお母さんと一緒に寝ていたら、いつの間にか、此処に来ていて…」
ダナの話に、フィリポは段々と目を見開き、驚きを見せました。
「…いつの間にか、此処に来ていたのですか?」
うんと頷くとフィリポは考えました。
「秋の国…聞いたことない国ですね。でも、そこから来ているとなると誘拐…ですよね? ですけど…それだったら」
しばらく考え、意を決意したかのようにダナを見ました。
「…此処に来た原因がわからないのでは、しばらく私のそばにいますか?」
「…え?」
驚くとフィリポは苦笑しました。
「お恥ずかしながら、実はとある事件があって、仕事をやめたばかりなのです。それで、暇をもてあましていて…」
「…」
ダナはきょとんとすると、フィリポは優しく笑いました。
「大丈夫です。私があなたを家に帰します」
優しい言葉にダナは目に涙をためて、何度も首を縦にふりました。
――突然、フィリポの家に来たダナはフィリポと共に、暮らすことになりました。フィリポはダナの服を用意し、二人で向き合って話し合います。
「では、まず、此処に住むためには、家事を少し手伝って貰います。出来ることをしてもらいます」
「出来る事……あっ…お掃除ですか?」
「…そうですね。床を拭くぐらいはできますよね?」
「はい!」
「後、買い物も手伝ってもらいますが…構いませんか?」
「お料理とかは…」
「私がやりますよ。ダナさんは少々、手伝ってくれればいいです」
二人は住むための決まりを決めました。
翌日、二人は町に行き、買い物をしに行きました。
青い空に白い雲。暖かい明るい陽射しがダナに当たり、思わず笑いました。
「暖か~い!」
「今の季節は春ですからね」
フィリポはバックを持ち、ダナはそばを離れずに町をキョロキョロと見回しました。二人は野菜売り場を見て、買い物をしていると店主のおじさんはフィリポに声をかけました。
「お、フィリポ!」
おじさんはフィリポのそばにいるダナににこにこと笑いました。
「お、嬢ちゃん。可愛いねぇ。フィリポの妹かい?」
「親戚みたいなものです。訳ありで、一緒に住むことになったのです」
「そっか、大変だな。じゃあ、おまけにニンジンをやろう!」
「わぁ、ありがとうございます!」
「どうもいたしまして」
買い物をしてながら、わかったことがあります。ダナは大人しく礼儀正しい。お店の人にお礼を言い、見知らぬ町の人に挨拶をします。フィリポはダナを誉めました。
「ダナさんは良い子ですよね」
「えっ、良い子…?」
「ええ、良い子ですよ。ダナさんは」
フィリポは優しく頭を撫でた。ダナは照れて、微笑みます。
「フィリポさんは何をしていた人なのですか?」
「執事です」
「ひつじ?」
「それはモコモコした動物です。執事です。し、つ、じ」
「し、つ、じ?」
「はい、身分の高い人の家の事務や家事などを取りあつかう人の事。簡単に言えば、お世話係さんです」
「しつじ…って…っあ! 『秋の執事』様!」
「『秋の執事』?」
「うん! 王子様に仕えてた執事様のお話。フィリポさんは知ってますよね?」
「いえ、知りません」
「…そうなのですか? 秋の国では有名なのですが…」
しょげるとフィリポは微笑みました。
「じゃあ、いつか、あなたの秋の国のお話を教えてください」
するとダナは顔をあげ、明るい顔をしました。
「はい!」
――ある日、ダナは前と同じようにフィリポと一緒に寝ていれば、家に帰れるかと期待をしていれば、フィリポの家に居ただけでした。
「…」
「…どうしました?」
フィリポは起きて、ダナを見ました。一緒に寝ていても、家に帰れなかった。そんな都合の良いことは起きません。
帰れるのだろうかとダナは不安になりました。
「…帰れるかな」
「大丈夫です。私があなたを帰します」
ダナの悲しそうな顔にフィリポは優しく抱きしめ、頭を撫で慰めました。家に帰りたくて、泣いているときはいつもフィリポが慰めてくれました。
「ありが…とう」
ダナが眠りに入る前に、感謝の言葉を言いました。フィリポは頭を優しく撫でて、眠ろうとした時、急にがくっと体が重くなるのを感じました。
「……今のは…一体…」
フィリポはしばらく起きていましたが、何もおこらなかったので、気のせいでと思い、寝ました。
――今日はダナの気分転換のため、買い物にいきました。ダナは頭をペコリと下げます。
「いつも有り難うございます」
「良いのですよ。ダナさん。困っている人は助けるべきなのですから」
手を繋ぎながら、二人は町で食事の買い物をしています。
「今日の晩御飯はシチューです」
「シチューですか。楽しみです!」
晩御飯を言うとダナは嬉しそうに喜びました。 頬っぺたを押さえて幸せそうな笑顔を浮かべました。
「フィリポさんのご飯は美味しいので、ついに食べ過ぎてしまうのです」
「それは嬉しいですね。作りがいがあります」
フィリポが足を一歩踏み出すと、目の前の風景がまわっているように見え、こけそうになります。執事を止めてから、頭が痛くなったり、体調を崩すのが多くなったのでです。
「フィリポさん。大丈夫ですか!?」
「え、ええ…」
心配をかけてしまった。フィリポはダナに心配をかけさせまいと、笑いました。
「大丈夫です。少しドジをしただけです」
それを聞き安心はしますが、ダナはフィリポのバックを持ちました。
「私が荷物持ちをやります!」
「え」
「私は今まで、少ししか手伝っていません。私にも荷物持ちをはできます!」
フィリポは驚くとダナは自分にもできるんだという事を見せ、自信満々な表情です。その表情を見て、思わず笑いました。
「じゃあ、お願いしましょうか」
あまり重い物を買っていないので、ダナでも持てる重さでした。
「そうです。晩御飯の後に『秋の執事』の話を聞いてもいいですか?」
「喜んで!」
フィリポは今までダナの住んでいた国を探していましたが、それらしい場所はありませんでした。『秋の執事』の話を聞けばどんな国なのかわかるかと思ったから聞いたのです。 フィリポとダナは手を繋ぎながら、家に帰りました。
――そして、晩御飯を食べたあと、フィリポは『秋の執事』の話を聞きます。
「……えっ?」
聞いたあとのフィリポはただ呆然としていました。ダナは不思議そうにフィリポの顔をうかがいました。
「フィリポさん。どうしたの?」
「…あっ…いや、何でもありません」
「…そうなのですか?」
「ええ、それに面白い話でしたから、また、聞かせてください。…私は食器を洗いますので、ダナさんは机を拭いてください」
「はい!」
ダナはふきんを持って、机を拭いていきました。台所にたち食器を泡立てながら、フィリポは手を止めます。
魔女を追いかけた執事は『短命』と言う呪いをかけた。
フィリポは『秋の執事』の話を聞き、自分自身を指しているように思えました。
フィリポは――王国の王子に仕えていた執事なのです。
魔女がかけた呪いが何かを知りませんでしたが、ダナの話により『短命』の呪いである事を確信しました。
そもそも、なんでダナは『秋の執事』の話を知っているのかと疑問に思いました。
「フィリポさん。終わりましたよ」
「えっ…あっ、ダナさん」
「どうしたんですか?」
「…いや…なんでも…――あっ、そうだ。ダナさんは秋の国に住んでいるといってましたが、どんな国になのですか?」
誤魔化すため、ダナに質問をすると故郷の事を聞かれて嬉しいのか、話し出しました。
「私の国は一年中、季節が秋です。『秋の執事』様と言われる貴族の一族様が治めているんです」
「…確か、王子様に仕えてた執事の末裔でしたよね?」
「はい、『冬の王子』様に仕えてた執事様らしいんですけど」
「冬の…王子様…?」
思わず口に出し、フィリポは仕えてた王子の姿を思い出します。ダナはそんなフィリポを知らずに、話続けました。
「私の友達が言うには、雪のように綺麗な王子様って…」
「……えっ」
フィリポは非常に驚き、ダナに聞きました。
「ダナさん。『冬の王子』様の話を詳しく話をしてくれませんか…?」
「えっ…私にもわからないよ…。ヘスティアちゃんの村に伝わる代々の伝説だって言っていましたから」
話を聞き、フィリポは考えた末、ある可能性が思い当たりました。
ダナは恐らく――未来から来た。
誘拐ではなく、何かしらの理由で。
「ダナさん。有難う御座いました。しばし、休んでいてください」
「…はい」
ダナは不思議に思いながらも台所から去ります。ダナが居なくなった後、フィリポは深い溜め息を吐きました。
「――…何でですか。
何で、私に掛かった呪いが『短命』なのですか…!」
怒りで身を震わせ、大声で叫びたいのを抑えました。ダナが何事かと心配して、来てしまうからです。
「…ダナさんをどうやって帰せば……」
ドックンと心臓が激しく動き、胸を押さえました。
「…!」
思わず、膝をつきそうになりました。今までに起きた不調は命を縮める合図だと、今やっと、フィリポは気付いたのです。笑顔のダナを思い浮かべ、歯を噛み締め苦しそうです。
ダナを帰す前に、問題がありました。
フィリポの残された時間です。
話によると『秋の執事』は若くして亡くなりました。自分に残された生きる時間を知りたいと思いました。でなければ、帰す前にフィリポが亡くなってしまえば、ダナが悲しむから。
「…早く…早くしなければ」
雨の日、出掛けることは出来ませんので二人は家でゆっくりしていました。ダナは趣味で絵を描き、フィリポは本を読んで帰る方法を探していました。
「……」
フィリポは伝承と魔法の本を読んでいました。先週に友人の魔法使い宛に手紙を送りました。内容はダナを未来に帰す方法が有るかどうか。返事は無いと言うはっきりとしたものでした。そもそも、何故、此処にダナが来たのか不思議に思いました。
「…っ」
フィリポはわからないように心臓を押さえました。ダナはフィリポを見て、尋ねました。
「フィリポさん。どうしました?」
「いや、何でも…ダナさんは何を描いているのですか?」
「これです!」
嬉しいそうに見せたのは絵でした。フィリポとダナが二人で料理をしている絵です。まだ、上手くはありませんが、温かみのある絵でした。
「これは…私とダナさん?」
「はい!」
笑顔で頷き、顔を真っ赤にさせ、フィリポに渡しました。
「これをフィリポさんに」
「え、私に?」
「はい」
首をふって、フィリポは受け取ります。ダナは恥ずかしがりながらも、フィリポを見て、思いを伝えます。
「フィリポさんにはいつもお世話になっています。…お礼として私に出来ることはこんな事しか、思い浮かべられませんでしたから」
こちらがお礼をしたいぐらいでした。なんとも言えない思いに溢れ、絵を見ました。
「これは…私とダナさんが手を繋いでいるのですね」
「はい! フィリポさんと買い物している時が一番の楽しみです!」
その言葉を聞き、帰したくないと思いはじめます。しかし、その思いを捨てました。
フィリポには時間があまりないのですから。
――ある日の朝、ダナは起きて、居間に行きました。
「おはよう。フィリポさん」
「おはようございます。ダナさん」
朝の挨拶をしますが、フィリポの様子がおかしいことに気付きました。顔色が悪く、何かフィリポのまとう雰囲気が違います。
「フィリポさん。どうしました?」
「いいえ、何でもありませんよ」
「…そうですか?」
おかしいと思いながら、ダナは顔を洗って歯を磨き、フィリポの手伝いをしようとします。手伝う事は既に習慣になっていましたが。
「ダナさん、大丈夫です。私一人でやりますから」
ダナは驚きました。手伝いをしても、そんなことを言いませんでした。「ありがとうございます」と感謝され、「申し訳ありません」と謝りながらも「ありがとうございます」と言います。突き放すような言い方はしませんでした。
ダナは鈍くはありません。
「フィリポさん。本当にどうしました?」
「何もありませんが」
「嘘です!」
今度はフィリポが驚き、直ぐに表情を戻しました。
「嘘をついてませんよ」
「じゃあ、なんで手伝わせてくれないんですか? なんで、今まで、体調が悪いのを隠そうとするんですか?」
フィリポは黙り、ダナは言い続けます。
「なんで、私に隠していることを話さないのですか!?」
ありったけの思いをぶつけました。フィリポは隠しきれない事を悟り、話だそうとしました。
「…それは………っ!!」
フィリポは胸をおさえ、強くつかみます。膝をつき、息を荒立て沢山の汗をかきました。ダナは驚き、フィリポに駆け寄ります。
「フィリポさん!?」
「…うっ!」
ダナは焦り、どうすればいいのかと周りを見回すと窓に人が歩いているのが見えました。直ぐに外を出て歩いている人に助けを求めました。
「すみません! 助けてください!」
「…ん? その声は…嬢ちゃん?」
野菜売り場のおじさんでした。慌てているので、視線を合わせ、尋ねました。
「何があったんだい?」
「フィ…フィリポさんが…!」
ダナの様子からただ事ではないと気付き、おじさんはフィリポの家に向かっていきました。
――フィリポはベッドの上に寝かされ、お医者さんはフィリポを見ていました。
「呪い…でしょう」
「呪い…?」
お医者さんから言われた言葉により、ダナは呆然としました。お医者さんは頷き、おじさんを見ます。
「病状の原因がありません。考える限り、呪いと言えましょう」
「呪いって事は…王子に呪いを掛けたあの魔女か!」
「ええ、見る限り、魔女のかけた呪いは命を削る呪い…または寿命を縮める呪いでしょう」
ダナは呪いと聞き『秋の執事』を思い浮かべました。フィリポを見るとダナから視線をそらしました。
――フィリポは絶対安静にしろと言う指示が出てました。お医者さんが帰る頃、おじさんはダナの肩に手を置きます。
「大丈夫だ。何か遭ったら、おじさんたちが助けになるよ」
その言葉が嬉しくダナは涙を流すのを堪えました。おじさんが帰り、ダナはベッドで寝ているフィリポの元に向かいました。フィリポは黙ったまま、ダナは尋ねました。
「フィリポさん。…どうして、呪いの事を黙っていたんですか?」
沈黙が続くと深い溜め息を吐く音だけが聞こえました。
「……悲しませたくないからです」
そう答え、ダナを見ました。
「あなたは家族同然の存在です。…もし、私が目の前で亡くなったら…」
「…それは悲しいです。辛いです」
「だから、黙っていたのですが…意味がありませんね」
フィリポは身を起こし、ダナを見ました。
「ダナさん。私の話すことはあり得ない事です。…それでも聞いてください」
―――フィリポはダナが未来から来たこと、帰れる方法は無いに等しい事を言いました。そして、自分が『秋の執事』であることを明かします。ダナは驚きますが、フィリポを見て答えました。
「帰れる方法が無いんでしたら、私はフィリポさんといます。此処に残ります!」
「残るって…!」
驚愕するとダナは首を大きく縦にふりました。 ダナにはやめろといっても無理でしょう。フィリポは溜め息を吐きますが、折れるしかないかと微笑みました。
「わかりました。ダナさん。私の負けです」
フィリポを蝕む呪いは日に日に悪くなっていきます。現在のフィリポは立つ事も出来なくなりました。ですが、悪いことばかりではありません。町の人々はフィリポの支援をしてくれました。 ダナと野菜売り場のおじさんのおかげです。
「ありがたいです。町の皆様にも、ダナさんにも」
車椅子を使って移動をします。車椅子は町の人々がフィリポに送ったものでした。ダナは笑いました。
「フィリポさんの家族にも来てもらいましたからね」
「…あなたのお願いで、ここまで、支援してくれる人がいるのはすごいですけどね」
「それは、フィリポさんが町の皆から慕われているからですよ。おじさんから聞きましたよ。フィリポさんはこの町に沢山良いことをしたって」
ダナはフィリポの車椅子を押しながら、言いました。フィリポは首を横にふりました。
「いいえ、全ては王子の命令です。治安を整え、町の商業団体に支援をして。貧しい民が困っている時は、自分の持つ全ての装飾品をお金にかえて、民に分けていましたからいました。だから、私がすごい訳ではないのです」
王子の話を聞き、ダナは驚愕しました。
「王子様…すごいですね」
「ええ、すごいお方なんです。あの方は民に愛され、民を愛していましたから…」
フィリポは表情を暗くした。ダナは友達が話した『冬の王子』の話を思い出し、フィリポに伝えました。
「あの…フィリポさん」
「…はい?」
「フィリポさんの仕えていた王子様は未来では『冬の王子』様って言われてて…友達が会ったことがあると言ってました」
「…え?」
目を丸くするとダナは話し続けました。
「詳しいことは知らないのですが…友達は『冬の王子』様のこと、大好きなんです。きっと、王子様も…」
「待ってください。それ以上は言わなくていいです」
ダナは口を押さえると、フィリポは笑いました。
「…未来であの方が幸せとわかるだけで、良いんです」
そう言い、嬉しそうなフィリポの顔を見て、ダナも嬉しくなりました。
二人は町の外に出ました。ピクニックをするからです。きれいな丘でレジャーシートを引いて、二人はサンドイッチを食べます。
ダナが作ったサンドイッチ。不格好ですが、美味しいです。
「美味しいですね。ダナさん、また、腕をあげましたね」
「ありがとうございます! …ですが、フィリポさんにいつも手伝って貰っていますが…中々、フィリポさんのように上手くはいきませんです…」
フィリポが立てなくなってからはダナが料理を作っています。フィリポの手伝いがあるものの、中々の上達ぶりです。
「料理は努力で出来るものですからね」
二人は仲良くサンドイッチを食べ終え、ダナはスケッチブックを出して、色鉛筆で絵を描き始めます。
スケッチブックと色鉛筆はフィリポがプレゼントしたものでした。
丘から見える風景を描いているのです。フィリポはダナを見て、問い掛けました。
「ダナさん。長く此処にいますが、寂しくないのですか?」
ダナが過去に来てから、大分日にちが過ぎました。家族が恋しくないのかと思ったからです。
「最初は寂しかったです」
丘から見える風景を描き終え、別の絵を描きます。ダナは微笑み、フィリポに振り向きました。
「でも、今はフィリポさんがいます。寂しくありません」
「…そうですか」
フィリポは微笑むと、ダナに聞きました。
「ダナさん。あなたを『ダナ』と呼んでも良いですか?」
「へっ?」
急に呼び捨てになったことに驚きますが、ダナは笑って首を縦にふりした。
「良いですけど……その代わり、フィリポさんを描かせてください!」
スケッチブックと色鉛筆を片手にダナは絵を描き始めました。必死に絵を描くようすにフィリポは思わず笑い、ゆっくりとダナと共に時間を過ごしました。
おじさんがフィリポをベッドに移動させるのを手伝いました。ダナは頭をさげました。
「おじさん。いつもありがとうございます」
「良いって! それにフィリポ。変な気を起こすなよ」
「起こしませんよ。むしろ、今の私に起こせますか?」
冗談を跳ね返し、おじさんは笑いながら、帰っていきました。ダナはパジャマに着替え、スケッチブックを持ってフィリポのベッドに入ります。
「沢山、描きましたね」
「はい!」
スケッチブックのページを開いていくと沢山の紙に絵が描かれました。
「ダナは前より、絵が上手くなりましたね! 私は丘の風景が好きです」
「私は…」
ダナはフィリポの笑顔の絵を見せました。フィリポはじっと見て、微笑みました。
「…私は良い顔で笑ってました?」
首を縦にふると、フィリポはダナを抱き締めました。包まれた暖かさにダナは目をつぶり、鼓動を聞きました。
ドックン、ドックンと規則正しく心臓が動いています。ダナは短い命とは思えませんでした。
「…あのね、ダナ」
フィリポは話し始めました。
「私はもっと生きたいです」
ダナは顔をあげると、フィリポは笑っていました。
「でも、短命ですから呪いをとくにも間に合わないでしょう。でも、今は不思議と死ぬのが怖くないのです」
「怖くないんですか?」
聞くとフィリポは「はい」と笑って答えました。
「短命と知ったときは、最初は嘘だと思いましたね。その後に怒りが沸き起こりました。何で、短命という呪いなんだと…。
…次に大切な人と別れたくないという思いが溢れました。ダナと別れたくないと思ってもいました。この時期が苦しくて、悲しかったです。いつ死ぬのか、分からなくて、死にたくなくて。
でも、今は…」
ダナをぎゅっと強く抱き締め、これ以上無いと言うくらい笑いました。
「あなたと暮らす日々が言葉で表せないくらい、幸せです」
抱き締められ、ダナは目から沢山の雫を流しました。フィリポに伝えたいことが沢山あるのに、泣いて上手く伝わりません。
フィリポは頭を撫でました。
「…伝えたい事は明日に伝えます。でも、今はこれだけ言いたいので言います」
フィリポは段々と瞼を下ろしていきます。眠そうです。それでも、伝えたいのか、口を動かしました。
「私の幸せは…あなたです。………ありがとう、ダナ」
ダナは見上げるとすぅすぅとフィリポは寝息を立てていました。ダナも眠くなり、フィリポの顔を見て、伝えました。
「私もです。ありがとう。フィリポさん」
ゆっくりと瞼を閉じて、明日、何を伝えるのか楽しみにしました。心地よい眠りに入って、段々と小さくなるフィリポの鼓動を聞きながら…。
…ダ……ダ…ナ…ダナ。
ダナ、起きなさい。
ダナは目を開けると見慣れた天井が目に入りました。目の前には母のルナがいました。ダナはベッドから、身を起こすといつもの自分の家でした。
「…あ…れ?」
「やっと、起きたわね。寝坊助さん」
「え…えっ?」
母の顔を見て、ダナは口を開きました。
「お母さん?」
「ええ…まったく、長い夢を見てたのね。着替えて顔を洗ってきなさい」
ルナが去ると、ダナは呆然としました。
「夢…」
あの人と過ごした日々が夢だったのでしょうか。ルナの言う通り服を着替え、顔を洗ったら、三人で朝食を取りました。
「お父さん。『秋の執事』様のお話ってなんだっけ?」
「若く亡くなったっていう話だろう?」
「ううん、もっと細かく」
娘の言うことにタナハは困っている。ルナが笑いました。
「まったく、ダナと同じであなたも物語に興味がないのね。じゃあ、私が話してあげるわ」
ルナは話し始めました。
――昔々、ある町に王国の王子に仕えた執事がいました。執事は王子に呪いを掛けた魔女を捕まえようと追いかけたしたが、執事にも呪いが掛けられました。
執事は自身に掛かった呪いの影響を王子に現れることを恐れ、王宮を出ました。
王宮を出て、しばらくたったことでした。
執事の家に一人の少女がいました。
少女は、何故、此処にいるのかわからないようでした。
執事は少女を故郷に帰すため、少女の見えないところで色々と調べていました。しかし、少女の故郷らしき場所はありませんでした。
そんなある日、少女は此処には居ない遠い所から来た人だと気付きました。更に、体調を崩していたのは呪いのせいで、己の呪いが『短命』だと知りましたのです執事はどうしようもない気持ちになり、怒りが沸き起こりました。
しかし、少女の事を思うと少女が哀れに思え、自身の呪い事と此処の人ではない事を隠しました。
ですが、呪いは日に日に強くなり、少女に呪いのことがばれてしまいました。呪いが掛かっていたとしても、少女は執事の傍に居ることを言います。
執事は少女と共に余生を過ごしました。
町の人々に助けられながら、家族に心配されながら。
少女は絵を描くのが好きでした。執事から貰ったスケッチブックと色鉛筆で色々な絵を描き、執事を楽しませました。
ピクニックをした日、執事と少女は一緒に寝ました。少女の描いたスケッチブックの絵を見ながら、お話をしました。執事は少女に今までの感謝の気持ちを伝えました。
そして、本当に伝えたい事は翌日に…。
――そして、翌朝、ベッドには少女の姿はありませんでした。いたのはスケッチブックを抱いて静かに眠る執事だけでした…。
――執事は覚めない眠りにつきました。少女に伝えていない事があるのに、永遠の夢を見ています。
…さて、執事が少女に伝えたかったことはなんでしょう?
それは執事にしかわからないことです。しかし、分かることはあります。
執事が少女に伝えたかったこと。
それは大事な想いです ――…。
ルナが話し終えるとダナは涙を流していました。
「ダナ?」
家族の呼び掛けに答えず、ダナは涙を流し続けました。
フィリポといた日々は夢ではありませんでした。
しかし、あの後にフィリポが亡くなったことを知り、ダナはたくさん泣きました。
声が天に響くまで泣きました。
――ダナは丘に行きました。
そこはフィリポと一緒にピクニックをした思い出の場所でした。
ダナはスケッチブックと色鉛筆を持って、絵を描き始めました。
しばらくすると――丘でピクニックをするフィリポとダナの絵が出来ました。
ニコニコと笑う二人の絵。
ダナの手は止まらずにたくさんの絵を描きます。
丘の風景の絵。
フィリポの家の絵。
町の野菜売り場の絵。
買い物をしているフィリポとダナの絵。
にこやかに笑う――フィリポの似顔絵。
スケッチブックに描いた分を、描けなかった分を、絵にしました。
描く手を止めて、ダナはスケッチブックを握りしめて、決めました。
スケッチブックに描いた分、フィリポと過ごした日々を、これからの日々をスケッチブックに描いていこうと。
――時が過ぎ、ダナは大きくなり18の娘になっていました。秋の国の紅葉は一年中見れなくなり、普通の四季が来る国になりました。
ダナは画家になり、思い出の丘で絵を描いていました。
水彩画で描かれた絵は丘の風景。
描き終えて、一息吐くとダナはスケッチブックを見ました。
『秋の執事』が描かれた絵。
――そして、翌朝、ベッドには少女の姿はありませんでした。いたのはスケッチブックを抱いて静かに眠る執事だけでした…。
執事の話を思い出し、真っ白な紙に絵を描きました。『秋の執事』のお話の絵です。
「――執事は覚めない眠りにつきました。少女に伝えていない事があるのに、永遠の夢を見ています。
…さて、執事が少女に伝えたかったことはなんでしょう?
それは執事にしかわからないことです。しかし、分かることはあります。
執事が少女に伝えたかったこと。
それは大事な想いです――…。
伝えたかった思い――それは大事な想い」
ダナは続きを話を考え、口に出しました。フィリポと過ごした日々を思い出すたび、愛しさが溢れます。
「――少女も同じ気持ちです。執事が伝えたかった想いそれは」
『大好きです』
「えっ…?」
二つの声が重なり、ダナは思わず振りかえります。そこには古びたスケッチブックを持った貴族がいました。
「ある日、執事は覚めない永遠の夢から解放され、秋の国を治める貴族の家に生まれました。執事が生まれた日、なんと、奇跡が起きて一族の背負っていた『短命』の呪いがとたのです」
貴族はダナの目の前に来てました。 ダナは思わず立ち上がりました。
「数年たち…執事は小説を書くため、とある画家に挿し絵の依頼を頼むのです」
手を差しのべ、在りし日の『秋の執事』はダナに微笑みました。
「フィリポ・オータム。貴女に『秋の執事』の挿し絵を頼みに来ました」
ダナは驚愕するとフィリポは懐から、小さな箱を出しました。
「勿論、それだけの為に再会したわけではありませんよ」
箱を開けると小さな指輪が。ダナは即座にその意味を理解し、涙を流しました。フィリポは薬指に指輪を通しました。
「ダナ」
フィリポの優しい瞳を見つめました。
「私と人生を共に歩んでください」
――ダナは涙を拭い、首を縦にふって笑いました。
「喜んで」
――昔々、『秋の執事』と呼ばれた青年がいました。『秋の執事』は昔々に出会った大切な人と再会し、末永く幸せに暮らすのでした……。
第三弾シーズン・ストーリーを読んで頂き、誠に有り難う御座います。今回は、秋の執事。冬の王子と深く関係がある人物です。そもそも童話なのかな…と思い、頭をはにわでぶつけたい気持ちです。
ちょっと解説。
ダナはお絵描きが好きです。あまり絵を描く場面がなかったかなと思いましたが、彼女は絵を描く事が大好きです。勿論、上手ですよ。大きくなったダナは有名な画家になりますから。
フィリポは王子様と騎士様の友人です。フィリポがいた時代は、ダナはがいた時代より約千年前の時代です。
しかし、『秋の執事』の一族が何故、秋の国を治める事になったのか。秋の執事は町の人々に慕われていました。亡くなった後、町の人々は悲しみ、哀れに思ったフィリポの一族が町の人々のために秋の国を作り、国として治めました。一年中、秋なのは秋の力を司れるから…もありますが、冬の国と夏の気候のせいです。
以上、解説でした。シーズン・ストーリーはとうとう最後の季節に来ました。どんな題名なのか予想しつつ、お話を待っていてください。少々(?)不備があったため、投稿しなおしました。
…此処までながったらしいあとがきを読んでくれてありがとうございました。