第三章 悪寒(3)
ーー同じ階の他のフロアを見たが、何もない。
壊れたキッチンと似たような荒れた書斎があったが、古ぼけた世界地図や触ったら爆発しそうな缶詰くらいしか収穫は無く、何者かが踏み荒らした痕跡というか足跡のようなものすら、感じられなかった。……勿論、缶詰は危ないので放置しておいたが。
「そういえばミミック、お前に特技はあるのか?」
広い部屋に出るとヴィルネイタが唐突に、そう言った。なんの意図があるのか。
「特技? んー、そりゃ上には上はいるのですが、擬態には自信ありますよ。気配を消すこともかなり自信があります」
「まぁ宝箱に化けられるからな」
俺は納得しながら頷く。
思えば、自分も結構樵の仕事で鍛えてはいるはずなのだが、身の回りのメイティアやミミックをみると非力に感じられてしょうがない。
「後はー、軽く腕力には自信がありますよ」
そういった意味では、魔法使いのヴィルネイタはともかく自分が一番PTの足を引っ張っている気がしないでもない。
「あ、また鍵ですよ」
唐突に声を掛けられ、前を向く。
開けた部屋の奥までくると次の階へいく為の階段を塞ぐ扉だろう。そこが鉄の扉で塞がれていて、錠前がついていた。
「長政」
「……あぁ」
俺は一歩前に出て、鍵を触った。だが、その瞬間に気配を悟った。
ーーこの扉の向こうに、何かがいる。
「ーーっ!」
慌てて飛びのくとほぼ同時に、扉が向こうから破られる。ーーいや、扉が変形して襲い掛かってきた!
「ーー! 何者っ!?」
メイティアがすぐにレイピアを構え、俺を背後に移動させる。
ーー奴は、扉に擬態していたモンスターのようだった。
全身がメタル色の、3体の怪物。
「ゼイロック……!」
ヴィルネイタも本を構えつつ詠唱準備に入る。
「何だよそれは!」
「魔術によって意思を持つようになった金属って奴よ、弱点は溶かすか切り刻んで小さくするかになるわね」
メイティアが言う。
「グルァァァァァア!」
ゼイロック達が飛び掛ってくる。その先は、ヴィルネイタだ。
「うっへ! こっちくんじゃねぇ! マジックシールドッ!」
慌ててヴィルネイタは半透明のシールドを空間に展開するとゼイロックを弾き飛ばし、さらに本を左手に抱えつつも右手にパワーを込める。
「フレアーハウリング! こいつで溶けろよ!」
さらに体勢を崩したゼイロック達に対して火炎を放ち、そのまま放射した。
「ギィィィィ!」
だがゼイロックは身体が溶けつつあるものの、まだ無事なようだ。
今度はメイティアに標的を変え、突っ込んでくる。
「心外だな、私を弱いと見たか」
メイティアは言いながらもレイピアを構えると、一呼吸置く。
「ーー死ぬがいい。ゲイルテンペスト!」
そして間合いに入った瞬間神速の突きを繰り出し、ゼイロックをバラバラにしてみせた。
「……どうやったんだ? まさか魔法か?」
俺は感心しつつもメイティアに尋ねる。
「そんな大層なものではない。私がやったのは奴と奴の体を繋ぎとめている部位に、剣の衝撃波で真空を作っただけだ。ヴィルネイタが火炎で柔らかくしてくれたからやりやすかったぞ」
メイティアはそう説明する。
「なんだかんだで魔法並みに凄い技術じゃないのか、それ」
「知らんよ、それよりもヴィルネイタでも長政でもいいが、念のためにこいつは燃やしておけ。再生されるかもしれない」
「わーってるよ、後ろからこられちゃ困るからな」
俺が動く前にヴィルネイタが頷きながらも火炎を放ち、ゼイロックを溶かす。
「そんじゃいくかい、長政。しかし、こいつが俺達のキャンプしてたクラスター弾を壊したのだろうかねぇ?」
一通り終えた後そう話しかけてきたが、俺には分からない。
「どうだろうか……ミミックはどう思う?」
「多分……違うと思います」
ミミックが首を振ったのをみて、俺はまたこれから気を引き締めようと決心した。