第三章 悪寒(2)
何時間か調査を続けると、日が遂に暮れてきた。
ーー総括をすると一日目の戦果は時計と本が数冊とメイスだけである。
だが、この3人と1体のモンスターの中で、その戦果に対し誰も不服に思うものは居なかった。
むしろ、俺が見つけた謎の写真への考察で、部屋をさらに漁る事となったのだ。
……しかし残念なことではあるが、写真についての考察で得られるものはその日の戦果としては少なかった。
この部屋の持ち主があの写真の人物であるという断定出来る資料は得られず、この部屋に住んでいた人間が菓子が好きであるという情報と、謎の少女の写真が他にも数枚得られただけであった。それも、不気味な写真ではなく普通の楽しんでいる様子であり、特に考察は出来そうなものではなかった。
「何らかの事件があって、生首を持つ事態になったという事か」
ヴィルネイタはそう想像したのだろう。真面目な顔で言ってくる。
「だが、態々写真など撮るものか? 普通、当時の治安がどうだったかは分からんが、どんな神経をしていたらそんな事が出来るというんだ」
俺はそれに対し言い返す。
「当時のメンタリティや風習を推察してみなければならんな。だが、どうすればそんなものが分かるというのか。せめて日記でもあれば色々と情報が補完できるのだがなぁ……長政、分からんか?」
「知らんなァ。俺も探してはいたんだがよ、これ以上は探しても無理そうだ、少なくともこの部屋はな」
「……それでは他の部屋を幾つか見た後に、上の階を明日探すことにしようか」
その時、メイティアが提案してきた。
「依存は無いな」
ヴィルネイタも頷いた為、俺も従う。
「とりあえず飯にするか」
ヴィルネイタが言いながらも、干し魚を出して配ってくる。
「そうだな」
メイティアも乾燥パンを取り出してきたので、俺も大豆とドライフルーツを取り出して皆に配り始めた。
「……ポソポソしてるが、しかたねぇな」
食事中のヴィルネイタの文句は最もだが、しょうがない。
「水分補給が出来ればいいんだけどね」
そう言うメイティア。
「雨さえ降ってくれれば飲料水の分離は出来るんだがな」
俺はそう言いつつも、さっさと適当な食事をしつつ、スカーフをつけて多少綺麗にした床に寝転がる。
ーー虫が居ないのが、幸いだ。
「そうだ、ミミックも食え」
「うー、ありがとう」
ミミックは光合成も出来るのであまり食事が必要がないらしいが、可哀想なので少し食事を分けてあげた。
いざとなって夜に引きずり込まれでもしたら怖いというのもあるし、一応人型をしている以上は情けをかけたくもなる。
「それではお休みだ。外には罠が張ってあるんだろ? それなら安心だ」
「そうだな。長政はトラップの解除係として明日は力を注がなくてはならないだろう。一足先に休め」
「あ、私のベッド使います?」
とそこでミミックが言ってくる。
「遠慮させてもらおう、蓋が閉じでもしたら酸欠になりそうだ」
俺は冗談気味に言うと、そのままリュックを枕にして目を閉じた。
ーー信頼するには微妙な距離感である。敵意は持っていないが、どうにも無防備な姿はみせたくはなかった。
ーーこの場には二人もいるし、お先に失礼をしよう。
そのまま、眠りに付いた。
思いのほか疲れが手足に溜まっていたので、すぐに眠りに付くことは出来た。
「ーーなんだ、これは!」
翌朝、恐らくは早朝だろう。メイティアの声で起こされる。
「……おはよう、どうしたんだ?」
「なーんだよ、夜中につまみ食いでもしたのか?」
俺達は目を擦りながらも起き上がる。
「クラスター弾が、破壊されている!」
メイティアが皆を呼びつけたので、ミミックも含めて廊下に出る。
すると、メイティアが設置したという市販のオートクラスター弾が、バラバラになっていた。
「……廊下を、何者かが通ったという事か!」
ヴィルネイタが口を開く。
「でも、私は少なくとも通路に何かの気配は感じませんでしたよ」
しかし、それに反論するはミミックの言葉。
「何者かがいたのは確かだろうな。だが、ミミックには同意も出来る。クラスター弾トラップの射程は遮蔽物なしで10m、だからそれくらい近寄れば発動時に爆音も出るので私だって気付くはずだ」
メイティアも頷く。
「じゃあなんだってんだよ、亡霊ってか?」
俺はいまいち信用ならんという様子で、クラスター弾を調べる。
……信管は破壊されてないようだが、ギミックがごっそり吹き飛んでいる。故障品をメイティアが置いて誤作動させたとは考えがたい。
「ならば……」
「あぁ、この通路を昨夜何者かが通った、という事だ」
メイティアが言うと同時にヴィルネイタの顔が青白くなり、俺も背筋が冷たくなる覚えを得る。
「……下手したら殺されていたな」
メイティアの言葉が身に刺さる。
「だが、なんでこちらの寝込みを襲わなかったのだろう、その何者かは」
「同業者かも知れんぞ? 人間だからクラスターの罠が反応しなかったのかもしれない」
「では、わざわざ人の部屋の前で解除だけして襲わなかった理由でもあるというのか」
「そりゃ……あれだろ、メイティアちゃんの身体目当てとか。それで俺たちがいたから手出しできなかったとか」
「真面目に言え」
……視線が怖い。
「……ミミックが怖かったとか?」
「そんな~、他のミミックがどうかは知りませんが私は凶暴じゃないです! 私は平和に生活してただけですよ!」
ミミックの不服気な声が耳に入る。
「どちらにしても、此処から先は油断ならんな。のんびり宝探しもしたいが、モンスターが生息しているという事も考えなければならない」
メイティアはその言葉を流しながら言うと、出立準備をしようと告げてきた。
「分かった、ちょっと後始末だけしてからな」
俺は自分のリュックの埃を払いながら同意した。