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第二章  空への道

 6階、7階と登ると、罠が一つずつ見え始めてくる。

壁から飛んでくる矢、落とし穴、振り子刃など。一つ一つは当たらない限り大したことがないが配置として計算がされてあり、確実に侵入者を拒む目的で設置されているとは感じさせられた。


「しかし、宝が無いわねぇ……誰かが持ち出しちゃったのかね」

 8階あたりまできただろうか。メイティアが疲れたといった顔をしつつも、そう文句を言ってきた。

 もう飽きてしまったのだろうか。


「ま、同じ事を考えた奴が過去に居たんじゃないのか?」

 俺は呆れつつもそう言ってやる。

 この塔自体はまだまだ先がある。それに、自分が塔を作り宝物庫を設置するなら中途半端な位置には置きはしないと考える。財宝の位置を探すなら、まずダンジョンを設置した人間の気持ちになって何処に隠すかを考えるのが重要だ。

「あ、あれは……」

 その時、先を歩いていたヴィルネイタが何か声を上げた。

「何だ、モンスターでも見つけたのか?」

「いや、宝箱だ!」

「えっ?」

 ヴィルネイタが言った瞬間、メイティアが眼を輝かせる。

 よく前を見ると、100mほど離れたところの壁際に、錠前のついた箱があった。オレンジ色で、多少埃を被っているところをみると結構な時間放置されたようだ。

「長政、開けてくれ」

「分かったよ。空でも文句は言うなよ」

 ヴィルネイタに言われ俺は器具を取り出すと、周囲の安全を確認してから早速ピッキングに入る。たまに宝箱に触ろうとして毒ガスが噴出するような仕組みがあったりする事もあるので、用心に越したことは無い。


 幸い錠前には魔法は掛かっていないようで、鍵はあけられそうだ……そう思いつつも箱に手をかけようとした時、突然蓋が開くと、何かが中から腕を掴んできた。




「罠!?」

 まずいと思った瞬間、宝箱の蓋が開き、同時に引きずり込もうとしてくる。

 凄い力だ、このままでは引きずり込まれる!




「させないわよ!」

 だが盾の開口部にシールドがつっかえ棒のように挟まれる。

それと同時に、メイティアが飛び出し、俺の横から宝箱の中に徐に手を突っ込んだ。

「んにゃ!?」

 箱の中身から奇声が上がる。

「これはミミックね、出てきなさい!」

「や、やだー!」

「ヴィルネイタ! 外から炙りなさい! このままじゃ長政が食われるわよ!」

 瞬時に指示が飛び、裏返った声にびっくりしながらもヴィルネイタが動いた。

「応! バニティバーナー!」

 ヴィルネイタは遠慮なく火炎を宝箱に見舞う。

「あちちちちち!」



 暫く箱の側面から火炎を照射し続けると箱の蓋が開き、二人を突き飛ばしながら女の子が出てきた。

「あん?」

「私を殺す気ですか!?」


 箱の中から出てきたその子の眼はオッドアイで、ーー人間離れをしていた。というか実際に、猫のように頭の上に耳がついていたのだ。哺乳類には見えるが、人間ではない。

「あんたが長政を殺そうとしたんでしょうが。あんたがミミックね? このダンジョンを案内して貰うわよ。それと、この塔について知っている事を言ってもらえる?」

 メイティアが不満げな顔で恫喝する。

「い、嫌です!」

「あら、箱ごとレイピアで串刺しにされたい? それか、箱ごとこの塔の下に投げ落とすわよ」

「……は、はい、分かりました……」

 脅しが効いたのか女の子は狼狽をする。

「……これがミミックか、初めて見たな。それとメイティア、ありがとう。助かった」

 俺は呟く。

「あんた見たこと無かったの? 長政」

「あぁ」

「ミミックってのはああ見えてそこそこの力持ちでね。こうやって女の姿をして油断させておいて人間、特に馬鹿な男を箱のところへ誘い込んで、引きずり込んで怪力で食べるのよ。私やヴィルネイタが居て良かったわね、ソロじゃ死ぬところだったわよ」

 メイティアが少し怒った口調で言う。

「うぅ……」

 申し分けなさそうにミミックが身をすくめる。

「でもお前よりはこの女は腕力は無さそうだな」

「当たり前よ。私鍛えてるから引きずり込んだら内側から二度と出られないようにしてやるわ」

 そう言いながら、シールドを引っこ抜いて再び装備した。

「で、どうする? 此処でバラバラになる? 慈悲で神経を一発で貫いてあげるけど」

「い、いえ。従います」

 ミミックはそう言いながら自分の宝箱を背負うと、案内しますといいながら先導し始めた。

 メイティアの恫喝が効いたのだろう。

 ミミックは終止低姿勢だった。


 ミミックの話によると、彼女自体も生まれてから此処十数年しかいない新参者らしい。さらに、自分も移動するにしても10数階までしか動かず、小動物だと思って俺を掴んできたという事。少なくとも自分の居たフロアには人の存在は無かったという事だ。

 塔の存在理由に関しては彼女も知らず、また、過去の大戦においても知らなかったとの事である。

「あんた、親は?」

「分かりません」

 ミミックが言う。

「そもそもミミックというモンスターの生態系ってどうなってるんだ? 親から箱ごと生まれるのか?」

 ヴィルネイタが横で首をかしげた。

「中身が独立していて、ヤドカリみたいな感じじゃないのか?」

 俺はそう言ってやる。

「ヤドカリ? なんですそれは」

 ミミックは言葉の意味が理解できないようで言ってくる。

「お前、此処から出た事がないのか?」

「あぁ、はい。そうです」

 ミミックは頷いてきた。


「この塔を登っていけばお前の親も見付かるかも知れんな」

 俺はミミックに言うと少し昔の事を思い出し、僅かに寂しい気分になった。


 哀れだとかいう同情の気持ちではない、自分の人生の知っている範囲の狭さに空しくなっただけだ。

それと同様に自分自身の視野の狭さにも、悲しくなる。

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