表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/22

第六章 塔の果て

「何だね、君は」

 部屋に入るとしわがれた、声が聞こえた。老人のようだ。

「……唯のアイテムストライダーだ。あんたがこの塔の悪魔を作った人間、とやらか?」



 声の方向に俺は尋ねる。

「ほほぉ、うちの子の追跡を避けてここまできた、というのか」

 声の主の顔をよく見れば、確かに老人だ。

 ローブを着て身体の6割近くを機械に変えていて、残った生身の部分もしわしわである。これまで短い人生であったが、そのなかで見たどの人間よりも歳を召して見えた。

「骨は折れたけどな。……さて、あんたは何をするというんだ?」




「何も、望まんよ」

 老人は言った。

「何?」

 俺は耳を疑う。

「私は長らく生きてきた。君が生まれるずっと前、君の父親よりも、そのまた父親よりもずっと前からだ。その頃の私は世界に閉塞感を感じ、ずっと新しいものを探そうとしていた」

「下の子供の言っている話と同じだな」

「あぁ、そうだ。あの子もそう思っている」

「そうか」



「だが私は此処数年前から、新たに感じることがあった。普通の人間の生を越え、いわゆるデッド=ジンと呼ばれる彼らを生み出し、世界の扉を開こうと試みてはや四千年。気付けば自分も、こんな無様な老人だ」

「……」


「あんたはこれから生まれ変わろうと、でも?」

「いいや。科学技術には限界という物がある。私はもう充分に生きて、罰が当たるレベルだ。私は私自身の延命治療をしたが、もう長くないというのが分かる。……自分の、体だからね」

 老人は自分の腹を義手で触りながら言う。

「そうか」

「だが、君には色々と託すものがある。それはーー」

「それは?」




「ーーまず下にいる私の子を、殺して欲しい。彼女は大昔から私の片腕でな。あと1ヶ月しか、寿命がない」

「どういう事だ?」


「私が死ねば、彼女は路頭に迷う。そしてデッド=ジンの彼女の栄養は、魔力でもある。彼女は生まれながらに、魔力の枯渇と戦っているんだ。そして、彼女達は死期が近くなると、強烈な魔力枯渇衝動を増させる事になる。塔の外の町はまず間違いなく破壊をされるだろう」

 そう、告げてくる。


「馬鹿を言え、俺のような常人があんなビーム撃つ人間に勝てるか」

 第一、下のメイティアやオルクスでさえ倒しきれないというのに。……そこまで言って、気付く。

「あんた、もしかして義手の理由は……」

 あの子に、与えたとでも、いうのか。


「私には、人を殺せとなど命令は出来ん」

 老人は悲しそうな目で、言った。

「……分かったよ。あの子を、愛していたんだな」

 俺は告げる。

「……報酬は?」

「この塔にあるものは全てやる。それに、彼女の発展型の子もいる」

「何?」

「デッド=ジンタイプの新型だ。新しい世界を見てくれる子として作ったが……どうやら私はその子の親にはなれないらしい」

 老人がそう言った瞬間、塔の床が抜け、デッド=ジンの少女が現れる。

「貴様……!」

「父様の邪魔をするな!」

 少女は俺の眼前に突っ込んできて、拳を振り上げる。

「待て!」

 老人が言うが、少女は止まりはしない。

 悲しいことだが、此処で手加減などできない。俺は俺の出来る全てをするだけだ。

「引導を……渡してやる!」

 俺は白銀の懐中時計を握りカウンター気味に拳を繰り出し、腕に少ない魔力を込めた。

 その瞬間、時計が紫に光り、時が急激に加速した……。


「と……父様!」

 少女が声をあげる。

 少女の身体が一瞬でぱりぱりと、皮ばっていく。俺に刺さる拳は、既に威力を伴っていない。

ほんの柔らかな、拳だった。

「私……!」

 ーーそんな少女の様子を見て、俺は魔力を除去させる。見れば自分の腕すらも、ある程度加齢して見える。

「爺さん」

 俺は老人の方を見る。



「ーーすまないな、名も知らない旅人」

 老人は言いながらこちらに寄ると、かつて少女だったものを抱き寄せる。

 その老人はそれから、二度と目を覚まさなかったーー。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ