序章 古き時代の始まり (2)
「よ、お二人さん。久しぶりだな、元気だったか?」
「あんたも相変わらずだな、ヴィルネイタ。嫁さんとはどうだ?」
焔のような赤い髪を持つ男、ヴィルネイタと俺は握手をする。
「んー? あぁ、ラブラブよ。お前達がじいさんばあさんになってもまだまだ愛し合ってると思うぜ、ハッハッ」
魔法使いのヴィルネイタは上機嫌である。予定の役所のリファレンス室で10分前に待つ予定だったが、向こうが時間を間違えてしまって既に来ていたとの事だった。年齢は俺よりも確実に上ではあるが、種族的な違いなのか育ちの影響なのかフィールが軽い。めでたい奴だが、憎めない性格をしている。
「……熱いな、いい事だが」
「なんだなんだよぉ、落ち着きがないってか? こうみえても俺は理知的に振舞おうと努力してるんだぜ?」
「そうなのか?」
俺は首を傾げる。
「心外だなぁ……ま、世間話は後々するとして、今回見つけてきたところを言おうか」
「分かった」
ヴィルネイタに相槌を打つと、ヴィルネイタが古い地図を取り出してくる。ペラペラしていて、強く折り曲げると破けそうだ。
「俺が探してきた……次にいくところは此処。ヒオウの遥か北にある魂見の塔だ」
「魂見の塔? 知らないな」
メイティアが首を傾げる。
「なんでも、色々文献を当たったところによると3200年前に異世界から悪魔が現れたとかいう曰く付きの塔だそうだ。近くに集落こそあったものの付近は荒廃して、塔自体には人っこ一つ寄り付かんらしい」
「……そんなところが、狙い目なのか? 財宝一つ無いんじゃないのか?」
俺はヴィルネイタに尋ねる。
「まぁよく聞けよ。その塔だが、どうやら前文明のものであるらしくてな。40階建てほどあるらしい」
「ほう、そうなのか」
「ーーそして今まで政府の連中が登れたところが、5階まで、だそうだ」
声を潜めながらもヴィルネイタの眼が、光る。なにやら重要な事を言いたいようだ。
「ーーモンスターでも、居るのか? それとも罠か?」
「……両方だそうだ。そして5階には、魔力による鍵が掛かっていたらしい」
「魔力鍵? 封印でもしていたのか?」
「いや、そうではない。むしろ内側から閉めていた、との事らしい」
ヴィルネイタが言う。
「引き篭もっていた……とか?」
「そうかも知れないな。ただ、その封印が最近、解けたそうだ。そして、それとほぼ同時にその塔の近くの村で殺人事件が多発し始めた。これが重要な話だ」
「成程、何かがいるって事かい」
「そういう事だ。モンスター退治をして売り払い、ついでに財宝を頂けば俺も爺さんに多少は認められるしな、メイティアも勲章を貰えるだろうし、長政も当分は働かずに済むだろ?」
「ーー美味い話だな。リスクはあるが」
「そういう事よ。流石に俺とてソロで行く気はねぇがよ、お前達二人なら信頼できるからな」
ヴィルネイタが頷く。
確かに、騎士、魔法使い、冒険者とくればバランスは取れるし、役割も持てる。
ヴィルネイタは多少の傷や骨折程度なら治せる魔法や飛行する敵に有効な火炎魔法は持っているし、メイティアもその辺のゴーレム程度なら10体を相手にしても捌ける身体能力はある。そして、俺も道具を使った壁登りや開錠能力、身軽さには自信がある。
「メイティア、どうする」
「その話、私は受けようと思うかな。勲章に興味がない訳ではないが、むしろ個人的にはいい武器があれば調達をしたいと考えているからね」
メイティアが即座に頷く。同時に俺もその決定に従う事とする。
こいつの意見は、俺の意見も同じだ。
「じゃ、決まりだな。今回もよろしく頼むぜ! こいつが成功すりゃ、一財産間違いなしだぜ!」
ヴィルネイタの話を受け、俺たちは手を取り合った。