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第三章 悪寒(5)

 ミミックの頭を撫でつつも不安感を抑えるために俺は少し、物思いに耽った。

 この塔には、少なくとも3200年以上の歴史がある。

 その中の事実を紐解く事は、今のところは出来ない。

 だが、悪魔と少女。ーーそしてあの奇妙な夢。

 先ほどのスライムといい、妙に気になる事が多い。

「何が、あるんだろうか。一体、何があったんだろうか」

 俺の技術では過去を紐解く事は出来ない。

 だが、興味というものは尽きやしない。

 ここの過去に、何があったのだろう。

 知りたいけど、分からない。

 ならば俺は、こいつらと共にその何かを探すだけだ。


「……流石に風呂は、ねぇかな」

 ヴィルネイタが探索途中、ぼそっと呟いた。

「結構走ったからな。軽装の俺はともかくメイティアやお前は辛いだろ」

 俺は言ってやる。

 ーーだが、こんな塔だ。電気設備どころか、ステンドグラスに採光を頼っているような場所で、風呂があるとは考えにくい。

「お前なら魔法で水くらい出せるんじゃねぇのか?」

 一応提案をしてみる。だが、

「湯加減とか俺は出来ないぞ。元からある氷を溶かすならまだしも、火力調節は苦手だ。溜める場所があればまぁいけるが……」

「……ドラム缶でもあればいいがな」

 遮るようにメイティアがちらりとこちらを見ながら言う。

「私の箱は駄目ですよ」

 そこにすぐさま突き刺さるミミックの言葉。

箱を奪おうとしてるとでも、思ったのだろうか。


「分かってるって。まぁでっかい水溜めがあればいいんだがな」

 ヴィルネイタが一先ずは話題をリセットしながら、ごちた。

「それにしても、魔法使いって出来る事が多そうでいいな」

 俺はそこで言ってやる。


「そうか?」

「やろうと思えば一人で食事も風呂も掃除も自給自足できるんだろ?」

「そうでもないぞ。魔法使いの魔力ってのは自動回復こそ出来るが効率が悪くてな。寝たり休憩したり食事を摂ったりで徐々に回復していくものだが、それを自力で衣食住として賄おうとすると、あっさり尽きてしまうんだよ」

「……そういうもんなのか」

「まぁ、俺自体が半端物だってのはあるんだけどよ。魔法も乱発すると役立たずになるから余力を考えてあんまり使いたくないってのは心の中にあるかな」

 ヴィルネイタは大げさに身振り手振りをしながらも言った。


「体調管理が大変なんだな」

「……あぁ。魔法って言ったって、万能なもんじゃないんだ。そんなものが自由に使えるんだったら、魔法使いの中に人間を統治しようとする奴も出てくるだろうしな。それに、魔法にはタイムラグがある以上接近戦では剣を極めたほうが強いし、戦うための手段でしかないんだ」

 素直な様子で言ってくる。



「へぇ」

「ところでお前達」

ヴィルネイタがそこで、妙に真面目な顔になる。

「なんだ?」

「過去を探すのはいいとして、未来ってのは考えた事はあるか?」

「未来?」

「あぁ。この塔を踏破した後とかそういうんじゃなく、10年後とか20年後だ」

「……俺は、ないな。メイティアは?」

「無いな。特に思う事は無い」

「そうか……。いや、な。自分の事を考えていて色々心配になったのさ。魔法使いとして生きるとすると、あちこちとのきな臭い話などに首を突っ込まなければならない。俺という人間は、その後にどうしていられるかとか思ってさ」

「へえ、珍しくナイーブじゃないか」

 俺は言う。

「まぁな」

「……それは、何百年も生きてられるからこその悩みなのだろうね」

 メイティアの言葉。

「現実は孤独なものだ。若い人間のうちから将来を悲観して転生を望む者がこの世では後を絶たないという。だからこそ、本来は今を生きる人間がその未来の形を変えていかねばならない、そう思うのだがよ」

 珍しく緊張した面持ちのヴィルネイタ。

「だろうな。俺のような孤児みたいなのを無くして貰えるよう、お前にゃ仕事が残ってる。こんなところで死んでもらっちゃ困るぜ」

 俺はヴィルネイタに向かって軽く肩を叩きつつも新たな何者かの気配を察知し、神経を尖らせた。


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