序章 古き時代の始まり
序章 古き時代の始まり
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俺の名は、須賀谷 長政。元樵の、アイテムストライダーだ。年齢は自分でもよく分からないが、18はいってないと思う。
職業はいわゆる、自称探検家という奴になる。自虐すればダンジョンに潜る火事場泥棒と言ってもいい。親も兄弟もいない、捨て子という生まれだ。育ての親はいわゆる樵だったが、一昨年に死んでしまった。
今ではこの世界、アルヴァ・ヴァルアシアで生きる為にひたすら財宝を求めて孤高に、そして無様に流離う、根無し草だ。
ーーさて、そんな俺の生活についてだが、いわゆる世間的には無職という扱いで全て拾った財宝頼りの生活となる。幸いこの世界は一万年前から何度も過去に大戦が起きており、それらの結果世界のあちこちに廃城や洞窟、ダンジョンといったものが点在し、政府ですら所在を把握できていない。かつての人間の文明の遺産はモンスターの住処となったり、盗賊などが居たりして安全ではないのだ。
そういう訳で俺や同業者は半ば自己責任で洞窟などに潜り、その成果を売りさばくことで生きている。時には商売敵と揉めたり、怪物どもとやりあったりもする。まぁ俺は天涯孤独の身であったので、暫くソロで生きていたのだが……。
「長政!」
その時、聞こえる声が一つ。
「んー?」
「おかみさんが飯、出来たってさ! 早くしないと食べちゃうよ!」
メイティア=ヒビノの声だ。
メイティア=ヒビノ。あいつは女で、いわゆるナイトという奴になる。歳は俺と、そう変わらないように見える。……とはいっても、昨今の軍で有名になっている軽鎧の女騎士というタイプではなく、モンスター討伐の専門家であり、がっちがちのガーディアンだ。装備という奴も俺が基本的に防火繊維とレザーで動きやすい服装であるのに比べて、フル装備で120kgとかいうおかしな規模の鎧を持っている。
一度俺が深刻な栄養失調で飢え死にし掛けた時に乾燥パンと水をくれて助けてくれたというのが縁で、恩返しも兼ねて野草や食える魚などの知識を教えつつ、逆に戦闘知識などを貰っているという訳だ。
……コイツのお陰で、ひもじい思いもせずにやっていけている。
「長政! 早くしろよー!」
「おーう、すまんな。今行く!」
俺はいつか売り物にしようと考えていた自伝の手を止めると、自室の鍵を開けて宿屋の一階にある食堂にいるであろうメイティアの元へと向かった。
「お待たせ、すまんな」
「ほら、早くするんだ! 飯が冷める!」
食堂に着くとスプーンをカチャカチャ鳴らしているメイティアが、既に席についている。
「……他の宿泊者に田舎者に見られるだろうが」
「いいじゃないのか? 田舎者なのは事実だ」
メイティアは悪びれもなく言ってくる。こいつは飯に関しては現金だ。それだけに、自分が飢えた時に寄越してくれたという恩には報いざるを得ない。
朝食は、焼きたてのライ麦パンとシチューだった。こんな上等なものを食べるのは久しぶりだ。早速、二人はパンにかぶりついた。
生地もよく練られていて、相当にいい職人なのだろう。暫く食べたことのない充実感を感じながらも、食を進めていく。
「流石だ。美味いな」
「でしょ? 一足先にエントランスに降りた時、すっごい食堂からいい匂いがしてね。それで早くきなよって言ったんだよ」
「あー、待たせたのは悪かったから」
もう一度謝罪しつつも、シチューにもありつく。これもまた、よく煮込まれている。肉はシシだろうか。
「長政。イフリートが、今日依頼をとってくるってさ。飯が終わったら待ち合わせに行くよ」
「おう」
俺は頷いた。
イフリートというのは長命種の、男の魔法使いだ。本名、ヴィルネイタ=イフリート=イフリート。本来種族的には平均寿命500歳とかいう奴だが、奴自身の姿は人間と変わらず、それでいてあいつ自身は19歳とかいう種族的に見ては新米もいいところである。単に修行という事で世界各地を回らされているという訳だ。
しかし、もう既に故郷に嫁を持っているという、俺などよりとても立場がしっかりした奴なのだが。
ーー因みに魔法使いとは言ったが、大小適性があるものの、人間だれしも鍛えれば魔法というのは使えるらしい。それの適性の目安として携帯計測機器があるのだが、それで計ったところによると魔法を打てない一般的な人間の適性が1000。俺が1300、メイティアが1400、ヴィルネイタが28000との事だ。
一応話のオチとして奴の爺さんの話を聞いたところ、97万とかいうおかしな数値だと言われたが。流石は長命種とも言えるが、どうにも性能の差を感じた。
まぁ、その数値はいわゆるタンクの最大値のようなものでスタミナに近く、直接魔法の威力には関係ないとの事だが、気にするなと言われて気にしないように出来るものではなかった。
もっとも、アイテムストライダーである自分には、魔法の代わりに魔道具という物がある。古代の発掘品ではあるが、使用することで魔法を唱えられなくても擬似的に魔法を使えるというものだ。火を発生させたり、電気を起こしたり、物によっては使用者の魔力とやらを強制的に吸う物もあるらしいが、基本的に俺の持っているものにはそんなきつい副作用のあるものはない。
「……メイティア、待ち合わせの時間はどれくらいだっけか」
「あと半刻くらいだな、奴の事だから早めに動くと思うが」
メイティアが答えてくる。
「……そんじゃ、食べ終わったら支度してチェックアウトするか。大した荷物もないけどもな」
「そうだな。あー、久しぶりの野菜はいいな」
メイティアは頷きつつも、シチューに入っていたブロッコリーを美味しそうに食べていた。