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エピローグ



 やっぱり冬は嫌いだ。感傷的な出来事が多すぎる。

 生まれ変わって、松井智樹になっても、俺にはまだ彰寿だった頃の名残が残っている。

 けれども、どこかすっきりした気分だった。彰寿の未練のひとつであった、鈴森の家族について区切りをつけられたのだから。

 寿貞兄上は、きっと幸せだったのだろう。俺たちの死後、あの人に寄り添ってくれたのは、里津子さんや寿基を除けば俺の知らない鈴森家だ。

 あの家自体は今後も続いていくが、これ以上深く気にかけないようにしようと決めた。ただ、かつて縁のあった者として、時折近況が伝わってくれば嬉しい。

 まだ完全に清々しい気持ちにはなれないものの肩の荷が下りた――と言いたいところだが、嵐はやってくるものである。

「お兄ちゃん、映果さんに歩実さんの話したでしょ」

「へ?」

 家で勉強していると、いきなり芹花がノックもなしに入ってきた。

 不肖の妹は、眉間に散兵壕を作る。

「ぜひ協力させてほしいって。はあ、あの人健気だわ」

 健気――その二字熟語がこれほど似合わない人は他にいるまい。

「だから、彼女と俺は、断じてそういう関係にはなりえないんだって」

「はあ? 意味わからない」

 前世のことを話せたらどんなにいいだろう。

 しかし、こいつに話そうものならば、彰寿を侮辱する気かと罵るに決まっている。

 最萌えカプとやらの片割れの生まれ変わりが実の兄で、もう片方の生まれ変わりに片思いしている。その事実を受け入れられるとは到底思えない。

「そうそう、実は万葉子さんの家に『カクハナ』全巻あるんだって」

 前原から贈られたのだとか。あいつはどうして余計なことばかりするのだろう。万葉子ちゃんの反応が心配だが。

「だから映果さんも読んでて、わりと好きなんだって話なの。それで、お兄ちゃん、歩実さんのこと私のカクハナ仲間って紹介したでしょ?」

 腐女子うんたらかんたらは映果さんも知らないふりをしてくれたらしい。そこは感謝する。悲劇しか予想できないから。

「映果さん、『ぜひ語り合いたい! それで智樹さんとの仲取り持ちましょう!』って言ったんだよ」

「ああ、適当に流しておいて。あの人相手にする必要ないから」

 芹花の顔に一瞬だけ般若面が重なる。

「もう、何なの! とりあえず、腐要素抜きで歩実さんと会わせることにしたから」

 芹花は俺の胸倉を掴んで、ヤクザか何かのような表情になる。

「いい? 私たちがしっかりしっかりお膳立てしておくから、三ヶ月以内にケリつけて。わかった?」

 むかーし、桧山さんが言ってたような気がする。芹花の邦彰漫画は、ピュアで萌えるって。ピュアという言葉は、腐女子界では別の意味を持っているのだろうか。それとも、俺が死んで生まれ変わるまでの間におかしな意味でもつけくわえられたのだろうか。

 今さら調べるような単語でもないが、あとで辞書確認してみようかな。

「あと、私の恋路も応援すること」

「だったら、お前こそさっさと告白するなり何なりすればいいじゃん。自分のこと棚にあげるなよ」

 殴りかかってきたので、反射的にその手首を掴む。捻り上げようとしたところで我に返った。

「いったーい! お母さん、お兄ちゃんが家庭内暴力!」

「なんと! え、反抗期?」

「いや、母さん、違うんだ」

 駆けつけた母さんは芹花を撫でつつ、俺を見上げる。

「智くん、何か悩みでもあるの? お母さんに何でも相談していいからね」

「……いや、何もないって」

「智くんは何でも自分で解決しちゃうから、お母さんなんて必要ないかもしれないけど、あの、お母さん、智くんの味方だから! あ、でも芹ちゃんの味方でもありまして。その、兄妹喧嘩するのは」

 あー、もう。本当に、あの二人はトラブルばかり持ちこんでくる。

 ただ、今回俺の事情を最もよく理解し、側にいてくれた人たちでもある。複雑だが、これに関しては恩に感じている。二人ともかつての家族とはもう会えない立場だから余計に。

 そのとき、ポケットに突っ込んでいた携帯が震えた。映果さんからだった。

 芹花と一緒にサポートすることにしたから頑張れ、だとさ。女子高生らしい可愛い絵文字つきで。

 できれば、カクハナ以外の何かを使って接触してほしかった。もう、悪意しか感じない。絶対嫌がらせに違いない。

 前世の俺、彰寿の記憶から逃れるより先に、この因縁を片付けるべきか。つい先ほどまで感じていた恩義を忘却の彼方に捨てて、俺は本気で考えてしまった。



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