水の精霊と花の神様
綺麗なお目目にキラキラ光る金髪。他の妖精達からもたくさん愛されて、とってもいい匂いがする。こんなにちっちゃくてかわいい神様がこの世界にいたんだなって、幼い私は、彼の側にいたいと心から思った。
人間の世界とは薄皮一枚隔てた世界にある妖精界。私はそこで暮らしている水の妖精で、花神様のお水係をしている。花神様は妖精界の王様。とっても綺麗で優しい、慈愛に満ち溢れた方。そんな方にお仕えできる私は本当に幸せ者だと思う。
「サシャ?サーシャ」
「…あっ。花神様!?」
妖精城の温室ですやすやお昼寝をしていた私は、蜂蜜みたいにとろける様な花神様の声に飛び起きた。
「ご、ごめんなさい。今日は仕事がなかったから、その、温室でゆっくりしようと思ってて!」
「なに謝ってるの。俺がサシャに会いたくて来ただけなのに」
ニコニコ笑いながら花神様は私の頭を撫でる。
「寝顔かわいかったよ」
「花神様ってば…」
恥ずかしくて顔が真っ赤になる。好きな人にこんなこと言われたら、嬉しいけど照れるよ…もう!
「サシャの水が欲しくなったんだ。ね、お願い。頂戴?」
「えっ?お水?いいけど…足りなくなったの?」
水は、花にとって大切なもの。お水係である私は花神様に自分の水を捧げて花神様をお助けしている。でも、普通なら一週間に一度くらいの頻度でも問題ないのに、最近花神様は毎日水を欲しがる。もしかして私の力が足りてないのかと、最近の私は不安だった。
「あの、花神様?私の力が足りていないのですか…?」
ドキドキと不安で心臓が壊れそう。もし足りていないのならば、他の水妖精の力を借りなければいけない。でも本当は力を借りたくない。この役目を狙ってる妖精は他にもたくさんいるんだから!!
「ああ、ごめんごめん。誤解させちゃったかな?力は十分足りてるよ」
「それなら、なぜ…?」
「サシャの水の味が好きなんだ」
サラッと言われた言葉に、少し赤みが引いた顔がまた真っ赤になってしまった。水の味が好きだなんて…私の力が心地よいと思われているのは嬉しいけれど、なんだか恥ずかしい。
黙って俯いた私の顔を、花神様が覗きこんでくる。お願い、とダメ押しされてしまったらもう逆らえない。元々拒否するつもりもなかったけれど。
「じゃあ目を閉じてくださいね」
素直に目を閉じた花神様。本当に綺麗だなぁと見惚れていると、急かされてしまった。こほん。
薄い唇に、私の唇を重ねる。触れ合っているところから力を流し込む。一生懸命力を送っていたら、ぐいっと腰を引かれた。
「サシャ、かわいい」
ちゅ、ちゅ、と唇以外にもキスが落ちて、唇を甘噛みされる。花神様の力が逆に流れてきて、クラクラした。
「サシャ、サシャ」
「は、ながみ、さまっ…んっ…」
「名前で呼んでよ、サシャ」
いつもとは違う情熱的な姿にクラクラする。最近の花神様は水を渡す時こんな風になるから、ドキドキしすぎて死んでしまいそう…。
「あ…ら、ライ、オネル…」
「うん。…ほんとにかわいいね」
大好きだよ、と囁いて唇が離れる。既に腰砕け状態の私だったけど、花神様がしっかり抱きかかえてくれているから地面に座り込んでしまうことはなかった。
「出会った頃からずっと好きだよ」
「…うん」
「サシャは?」
「私も…もう、いつも言ってるのに」
「何度でも聞きたくて」
ニコニコ笑う花神様。お水係として一生を彼に捧げる私は、今日も幸せ。
ちなみに水を渡すのにキスする必要はありません。小さい頃神様にキスがいいとおねだりされたからです。
ついでに神様も妖精と同じくらいの速さで年をとります。人間よりはながいです。