本当に嫌なやつ。
「あれ? 珠美ちゃんじゃね?」
駅の近くに来た頃だった。
嫌な声……今日の帰りにも聞いた。耳が覚えている。
「あ、やっぱり珠美ちゃん」
「えー、家近くなの?」
「つーか急いでたんだっけ? 用事終わった?」
口々に問いかけては私の周りを囲むように集まってくる。
足を止めたら負けだ。気にしたら終わりだ。
「ていうか顔赤い? 泣いた?」
「なになに?」
「急いでるってもしかして彼氏だったり?」
「フられちゃったんじゃね? かわいそー」
……なんかイライラしてきた。
「うるさい」
呟くと、私の右手側にいた相馬君がプッと吹きだすように鼻で笑った。
「やっぱり彼氏にフられたのか。うわー、かわいそーな珠美ちゃん。俺らが慰めてあげようか?」
そこでドッと笑う連中。何が面白いのかイマイチわからないあたりムカつく。
「お陰様で悲しい気持ちが吹き飛びました。ありがとう。だけど邪魔だからまとわりつかないで」
「なんだよ連れねーな、委員長さん」
今度はクラス委員だ。
「……先生にいいつけといたから。文句あるなら先生を通して言って」
先生もいい迷惑かもしれないけど。お金もらって仕事しているんだしね、これくらいはいいでしょう。こういう措置を覚えるのも勉強だ。
しかし、なぜか笑われてしまった。だから笑いのポイントがわからないってば。しかも沸点低いな。
「珠美ちゃんマジうけるわー」
相馬君が私の肩を叩いてくる。
「触わらないで、気持ち悪い」
手を払い落とす。
ボディタッチとか軽々しくされると腹が立つ。名前を呼ばれるだけでも神経がチクチクするっていうのに。
「なんだよ」
ちょっとムッとした声。イケメンだからこんな反応されたの初めてなのかもね。
「あんたたち本当邪魔ね。それじゃ」
逃げる。駆け足。さすがに街中で走る女を追う男はいないだろう。
案の定、後ろからけたたましい笑い声がした。相馬君の声は含まれていない。ムスッとしてるのかも。




