お兄ちゃん、あのね。
コンビニで雑誌を買う。
ティーン向けのファッション誌。昔は読んでいたけれど、今では少し子供っぽい。
これは資料だ。お兄ちゃんに「買うのが恥ずかしいから」と頼まれて代理購入している。もちろん経費で落ちるからレシートはとっておく。
レジに並ぶ。前の人はお弁当を温めている。
私は何気なく横を見た。お酒の棚がある。
私が二十歳だったら、二人分買って帰っているのだろうか。
お兄ちゃんの仕事場についたら、まずお昼。ピーマンを小さく刻む。
「お兄ちゃん、あのね」
「んー」
お腹が空いたのか、元気とやる気のない返事。
「委員長になった」
「初っ端から? どうせ押しつけられたんだろ」
「近いかも。でも、やりたい委員会とかなかったから、いいや」
「ダメだろ、嫌なことは嫌って言わないと」
「うん。言ってるつもり」
「いや、お前は無理しがち……」
お兄ちゃんは少しだけ言葉をにごす。
何にもわかっちゃいない。
私は無言で野菜を刻む。フライパンを温める。
「あー……そだ、本ありがと。参考にしたいから、あとで好みの服のページ折っといて」
「わかった。黒髪で眼鏡の小さな女の子に合う服だよね」
「限定はしない。むしろそこら辺は常に考えているからまったく問題がない」
「それじゃあ私が選ぶ意味ないよ」
そう言って、ふっと思いつく。チャーハンを炒めはじめた手が止まる。
「もしかして、また描いてくれるの?」
ーー私のこと。
「今度な」
お兄ちゃんの声は平坦だった。
また今度。いつ来るかわからない今度。前よりも反応の悪い今度。
振り返る。お兄ちゃんは私に背を向けている。
あの日から、一度も向かい合ってもらっていない。




