委員長、機械女。
黒板にズラッと委員会の名前が並んだ。国語の先生らしい文字。
「まずはクラス委員を決めます。まぁ、委員長ってやつだな。男子と女子、一人ずつなんだけど、誰かやりたい人」
先生の問いかけに答える者はいない。そりゃそうだろうね。
しばしの沈黙を諦めたように受け入れる先生。
「だよね。推薦とかあるか」
推薦なんかしたら恨まれるだろう。
本当はやりたくてウズウズしている人とか、乗せられやすい人とか、そういうのじゃなければ、絶対に後で恨み事をぼやくに違いない。
「はーい」
男子が手を上げた。昨日、私の名前を教えたやつだ。
面白がるような、ふざけた、ヘラヘラした声。
嫌な予感が心臓を掠めた。
「女子の委員長は珠美ちゃんがいいと思いまーす」
やっぱりそう来たか。
「珠美ちゃん……?」
「誰?」
まだクラスメイトの名前を覚えきれていないのか(私もそうだけど)教室がザワザワとする。
隣の席の子が「綾瀬さんだよね?」と、心配そうな顔で質問してきた。
「珠美ちゃん……綾瀬さんのことか」
出席簿も見ず、先生はその男子に確認をとった。やけに覚えの早い先生だ。すごい。
「ありがとう、手を下げろ。……綾瀬さんは、嫌なら嫌って言っていいんだよ」
先生は気遣うように優しく言った。
なんとも言えない、負の雰囲気がクラスから感じ取れた。女の子だと思う。私の目立ち方が異性にチヤホヤされているように見えるのかもしれない。
「……いえ、別に。特に考えていなかったので」
私は努めて素っ気なく言った。下手に愛想を売ったり弱いようなところを見せると、女子が怖いかもしれない。
「さっすが珠美ちゃん、偉い! そこにシビれるアコガれるぅ!!」
複数の男子が囃し立てる。ここに来てようやく表現し難い悪意に気が付いた人は鈍感だと思う。
「黙れ!」
先生は大きな声で鋭く一喝。それから、コホンと咳払いをする。
「あー……委員長は綾瀬さんに決まった。ありがとう。次は男子の委員長を決める」
先生は難しい顔で私を見た。心中が察せられるのは望ましくない。無表情で通す。
「えーと……綾瀬さんに司会進行やってもらいたいんだけど、お願いしても大丈夫かな?」
「問題ありません」
私は静かに椅子を引き、立つ。一部の視線が屈折して刺さってくる。
会議は滞りなく終了した。終始無表情で淡々と司会をする私のことを、一部は「機械女」と呼称した。




