不思議な夢。
ぼんやり暖かい。
クリアなのに輪郭の掴みきれない曖昧さは、夢だから。
「コノヨノナゴリ、ヨモナゴリ……」
私は向上月君と図書室にいた。仕事はしていなくて、なんとなく楽しい気分で、並んで椅子に座っている。人はいるけど気配と姿だけ。風景のように存在している。
「綾瀬さん、好きです」
「ありがとう」
「綾瀬さんは僕のこと好き?」
「好きだよ」
「本当?」
「多分」
「本当はそうでもないよね」
向上月君は無表情で、淡々としていた。人形みたいな子だと思う。
彼に嘘をついてもしょうがない。でも、しゃべりたくない。私は黙って、察してくれることを待っていた。
「うん、どうせこーなるってわかってた。悲しいけど、求めるとこうなるのが現実だ。虚しいよ。自分の葬式がよく見える……」
向上月君は遠くを見ていた。寂しそうに。だけど、悟ったように。どこか投げやりでもあった。
「がんばったがんばった。みんなありがとう。もうすぐ辛いのは終ります。楽しさは心残りだけど、そんなもん」
言葉には気持ちがこもっているのかわからない。記憶の中にある向上月君の皮肉な調子がまったくないから、本当にこれが向上月君なのかもわからない。
「ね。だから綾瀬さん、同情して欲しいなぁ。僕が可哀想だって」
「うん」
だって向上月君は間違いなく可哀想だ。ドラマチックに不幸だ。
二、と、向上月君の口元が引きつった。
この瞬間だけは妙にリアル。向上月君らしいから、かもしれない。
「じゃあ」
目が覚めたら朝だった。
もさもさになった髪をぐしゃりと指で掴み、ひっぱる。毛先がプチプチ言う。
……なんか夢見てたらけど、なんだったっけ? 向上月君だったよね。
つまらないことに、記憶はすっかりと抜け落ちていた。健康な人間の夢なんてこんなものだろう。




