お兄ちゃんのエロ漫画。 上
向上月君はまた少し学校を休んだ。
その分、私は図書当番をやった。別に図書委員でもなければ、図書室が好きなわけでもないけれど。
友達が「偉いねー。彼氏思いだねー」とか言うためだけに寄り道してから部活に行ったりした。
クラス委員もなぜか来た。視線だけ威嚇的で気まずそうに、そして何も言わずに東野圭吾を借りて帰っていった。
相馬君も来た。
「図書委員いねーのか」
「先生すら消える幽霊委員会だから」
「縁起でもない……」
苦そうに口を閉ざす相馬君。
たしかに、幽霊になりそうな子がいるから……。
「……向上月君がいないと寂しいかも」
と、私は呟いてみた。本心だ。いつもあるものがないのは寂しいし、灰汁が強ければ尚そう思う。一年仲良くした友達とはそういうものだ。
「見舞いに行ってやれよ、彼女だろ」
「彼女になる前も行こうと思ったけど、嫌なんだって」
「……だよな。そっか、逆に安心したよ」
へ。と、相馬君は吐き出すような苦笑をした。
未だかつて向上月君のお見舞いに成功したクラスメイト及びもろもろはいないらしい。向上月君の意思で拒否られているのだ。私や相馬君さえも。病院に行っても、家に行っても、疲れたような向上月君のお母さんに平謝りをされて帰ることになる。
「お前さぁ、向上月から手紙来た?」
手紙?
そんなものは記憶にない。
「来てないけど。相馬君には来てたの?」
「んー……まぁ……気にするな」
「気にする内容? っていうか、それで図書室なんかに来たの?」
「別にそれだけじゃねーし」
ニヤッと相馬君が笑う。
そして鞄から本を取り出した。大型コミックサイズ。丁寧にカバーがかけられている。
「これ、土橋が見つけたんだけど」
土橋……さっき来たクラス委員だ。どうせなら相馬君と一緒に行動すればいいのに。バイトか何かで忙しいのか?
「悪意はねーぞ。ビビんなよー」
嫌な感じでニヤニヤしている相馬君。
本でこんなにリアクションを期待してくるなんて……エッチな本なのかしら。それくらいじゃあビビらない。あと、普通の女の子にそれをやったら全力でキモがられるだけだと思うけど、相馬君は何を考えて私にそんなものを見せようとしているのだろうか……。
とりあえずカバーをめくって表紙を見てみる。
ペラ……。
おおおおお
お兄ちゃんのエロ漫画だーーーー!!!!