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私は妹  作者: 九時良
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あんたなんなのよ。

突然、後頭部を叩かれた。


前しか気にかけないで廊下を歩いていた私は飛び跳ねるほど驚いた。思わずあげてしまった悲鳴に、通りがかりの生徒が何人か振り返った。



「こないだセクハラされたそうだな」



こんなことをしてくるのは相馬君くらいのものである。今回も例に洩れず威圧的なニヤニヤ笑いの彼だった。



「先生のことなんでもかんでもセクハラって言うのはよくないわ」


「あいつがやることはなんでもかんでもセクハラくせーのが悪いんだよ」


「私には理解できないわ。そういう冗談は感性の近いお友達と話してくれない? ちょっと不快よ」



相馬君にはお似合いのお友達が沢山いるのだ。わざわざ私に絡んでこなくてもいいらいに人気者の癖をして。



「おい。お前のこと嫌いだけど、一つだけ感謝する。ありがとな」


「なにが?」


「別に。じゃ」


「待ちなさいよっ」



シャツを掴んで引き止める。裾はズボンにしまいなさいな。


向上月君は規定通りきちんとインしているけど野暮ったくないし清潔な感じがするでしょうに。小汚い不良め。



「んだよ、貧乳の珠美ちゃん。そんなに俺が恋しいか」


「貧乳は甘受するけど恋しくはない。今の感謝って、向上月君とのこと?」


「話す義理ねーし」


「感謝されたのに義理がないって意味わかんない」


「こないだの仲介でおあいこだろ」


「あんた自分がいいことしたとでも思ってたの? 結果的に向上月君の望む形になったかもしれないけれど、私は特に頼んだりしてないの」


「……」



むっつりと相馬君は口を結んだ。三白眼が冷たくやる気なく私を見下ろしてくる。


おもむろに右手が伸びてきたかと思えば、頬を引っ張られた。



「いひゃい……」



ぷ、と相馬君が嫌味っぽく笑う。



「俺と向上月は中学一緒だった。向上月は相変わらずで、今より嫌味に突っ張ってたな。虐められてたよ。死にそうなやつにすることじゃねーよな。だから虐めてたのぶん殴ったワケ。そしたら向上月なんて言ったと思う? 『不良がヒーロー気取り?』って、鼻で笑いやがった。思わず横っ面に一発叩き込んだわ」



その時のことを思い出したのか、相馬君はちょっとだけおかしそうに口元を歪めた。



「んで、まあ、なんか、仲良くなさそうだけど、わりと仲良くなった。ダラダラ連むんじゃなくて、たまに嫌味言い合ったりする友達な。スタンスの違うライバルかもしれん。まぁ、友達だ」



私の頬を掴む手が遊び出した。ふにふにふにふに……止めろ。そろそろキレそうだけど、話を遮ったらやめてしまいそうだ。



「だけど、二年の終わりくらいかな。向上月が近所の中学の連中に人質で拉致られて、助けに行ったらマジヤバくて、ケンカは友達に任せて俺は向上月を病院に担いで運んだ。二日三日で具合はよくなったよ。でも、俺らのせいでこんなことになったんだよなー、って思ったら、なぁ。それからずっと距離置いたよ、巻き込みたくないし、あんなの二度と御免だ」



彼もまた向上月君と同じで思い詰めた表情をしない人だった。あくまで軽快な表情。解決したこと、だからかもしれない。



「でもさ、喧嘩したままじゃやっぱ気持ち晴れないわ。で、今に至る」



自分から聞いておきながら、私は「そう……」としか言えなかった。



臆病みたいだから、相馬君は喋りたくなかったのか。


情けないから、向上月君は喋りたくなかったのか。


男の子のプライドって、あんまりよくわからない。でも、それを口に出すのはあまりよくないと思った。



「これで全部だ。満足か?」



照れ隠しか、相馬君はおどけるように威嚇してきた。



「……仲直りできて、よかったね」



とりあえず、これだけは、素直にそう思った。たった今事情を知った完全なる部外者だけど。



「……」



相馬君はじっと私を見てきた。


と、思ったら、デコピンされた。



「いぅっ」


「ブース」



額を押さえる私に、相馬君は唇を尖らせて子供っぽい口調で吐き捨てた。


そして、そのまま背中を向けて、スィーッと静かに廊下を歩いていってしまう。



「なんなのよ……」



誰も答えてくれない。


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