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私は妹  作者: 九時良
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なんであんたが優しいのよ。 下

「……フられた」


「やっぱりフられてんじゃねーか! 否定してんなよ!」


「貧乳だからフられたわけじゃないもん」



自分が貧乳であることは少しの悩みでもあるけれど、お兄ちゃんは可愛いって言ってくれた。不本意な名誉と言えるか。だから、そこは細かくつっこませていただきたい。


……あ、ダメ、また思い出し涙が。


あの時、可愛いって言ってくれたのに。好きだって言ってくれたのに。すごく嬉しかったのに。


名前を呼んで、ぎゅとして、求めてもらいたい。せめてもう一度だけでいいから、お兄ちゃんに好きって言ってもらいたい。


そんなの無理だけど。いけないことだけど。



「なんだよ、喋るたびに泣くなよ……もうどうしたらいいかわかんねーし」


「私も、どうしたらいいかわかんない……」



こんな気持ち、どうやって処理しろって言うのよ。


認めたくない。


お兄ちゃんが口先だけの『好き』を私に言ったこと。愛なんかない欲望をぶつけてきたこと。


だって、そういうことになってしまう。お兄ちゃんはただの変態だって。


男の人は女の人と性に対する考え方が違うことも、一応漫画を読んだり感想を読んだりしながら理解した。だからってお兄ちゃんが私にそんな衝動をぶつけていいわけはなくて。


でも、好きならしょうがないんだって。


お兄ちゃん、漫画に書いてた。


どんな障害があっても、好きっていう気持ちがあるなら、二人が結ばれるのは仕方のないことだって。二人以外からしたら間違いのことでも、二人にとって正解なことは、正しいんだって。


なによ全部嘘じゃない。口先、いや、ペン先だけ立派なこと言っておきながら、お兄ちゃんなんかただの変態じゃない!


……だからといって、お兄ちゃんのことを恨みきれないし、やっぱり嫌いになれない。どうしても、好きなのだ。


まだ、涙は止まりそうもない。


全部相馬君のせいだ。変なタイミングで声をかけてくるから。いつもいつも、私の邪魔をして。相馬君はいつも邪魔だから、こういう時に目の敵にされたってしょうがない。


ふと、頭に暖かさを感じた。この感覚ーー



「今は辛いかもしれないけど、時間が経ちゃコロっと忘れるよ。まぁ、世の中にゃ男なんぞいくらでもいるんだから、他の貧乳嗜好を探しゃいいだろ」



どこか素っ気ないまとめるような言い方。なのに、手のひらは落ち着く暖かさ。頭の撫で方も優しくて、女の子の扱いに慣れているのか、それとも、真心のある人なのか、わからなくなる。


そんな、お兄ちゃんみたいなことはやめて。余計に悲しくなるから。



「……そだ、お前、向上月と仲いいだろ。向上月なんかどうだ?」



さも思いついたように相馬君は言った。しかし、演技は下手だった。言おうと思っててずっと言いだせなかったものを、時効になってから告げるような印象だ。



「このあいだ、フった」


「マジかよ。フった理由にフられたのか?」


「うん……」


「向上月もつくづくついてないやつだな。今告白されたら付き合うだろ?」


「わかんないよ、そんなの……。でも、付き合うとしたら、フる理由がないから、だと思う」


「きっつい話だな……」



相馬君は苦笑すらできなかったようだ。ひたすら苦い顔だった。



「……向上月君と仲いいの?」



ん、鼻がつまってうまく話せない……。



「なんで?」



極めてしかめっ面な聞き返し。……これはちょっと怖い。



「聞き返されても……だって、向上月君の態度が相馬君にはちょっと違う感じだし、今、向上月君の名前が出てくるのって不思議……」


「二人とも最近すげー話してるじゃん」


「私はそんなに相馬君を見かけていないのに。向上月君じゃないとしたら、私のことが気になっているの?」


「自惚れんなよ、貧乳珠美ちゃん」



やっぱりヤなやつ。この見下した目が腹立つんだよね。



「嫌なら話さなくていい。私も話さないし、おあいこよね」


「……まぁ、友情みたいなもん。そんだけだ。以上」



おい。話さなくてもいいって言った直後ってなにそれ?


いきなり不機嫌そうになって、むっつりと口を閉ざす相馬君。もしかすると照れ隠しだったりするのだろうか?


なんだ、可愛いところあるじゃない。ちょっとお兄ちゃんに似ていて……。


……悲しいけどなんとなく落ち着いた。涙は、なんとか気力で止めることができた。



「……なんか、涙止まったかも」


「そか。よかったな」


「……ありがとう」



礼儀は礼儀。これだけは言わないと。



「別に。泣いてる中学生ほっとけるほど冷たくねーだけ」



相馬君はバカにしたように笑った。……この格好は一定の需要があるんだ、別に変じゃないはず。



「ま、ムカつくけど嫌いじゃないからな」



サラリと吐き出された言葉。


いかんいかん、ムカつくし嫌いなんて、私がそんなことを言ったら色々と台無しだ。黙。



「……」



相馬君がじっと私のことを見てきた。何? と、思って、首を傾げる。


三つ編み引っ張られた。



「痛い!」


「あ、ウケる」



調子乗ってグイグイ引っ張られてしまう。抜けてないけど毛根が皮ごと取れるような気がしてきた。



「……やめろ!」



いい加減我慢ならなかったので、脛に蹴りをお見舞いしてやる。



「痛っ」


「やっぱり嫌い! バイバイ!」



一瞬怯んだ相馬君に向けて舌を出し、そのまま距離をとって走り出す。


どうにもがさつで苦手。根が悪いわけじゃないみたいだけど。

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