お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん
それでも私は、先生に隠していたことがいっぱいあった。
お兄ちゃんの婚約。
お兄ちゃんの職業、"カンドウ"の理由。
お兄ちゃんと……したこと。
あれは、お兄ちゃんが商業誌での連載が決まった時の話だ。
オフ会のメンバーと浴びるほどお酒を飲んだようで、その日はベロンベロンになって帰ってきた。お兄ちゃん、お酒弱いのに。
商業誌のことが嬉しかった私は、お母さんに前もって連絡をして、お兄ちゃんの家で待っていた。泊まるつもりだった。押しかけて泊まるくらいは許してくれるはずだ。
お兄ちゃんは上機嫌で「いいぞー」と間延びした声で言ってくれた。
私はお布団を敷いて、お泊り会の気分でいた。
「ねーねー、一緒に寝ていい?」
「んー、来い来い」
「行くー」
お風呂あがってホクホクで、ぼんやり眠くて、とても気持ちのいい状態だった。
お兄ちゃんのお布団はあったかくていい匂い……かはわからないけど、お兄ちゃんの匂い。お兄ちゃんはお酒の臭い。
「お兄ちゃん、連載おめでとう。頑張ってね」
「おぉ、ありがとう」
向かい合わせになった私は、お兄ちゃんにくっついた。胸板に額を押し付けて、グリグリする。なんとなく落ち着く。
「たまちゃんは本当にかわいいな」
お兄ちゃんも、私のことをギュッとしてくれた。
普段はもう少し距離があるけど、酔っ払ってるせいかな? いつもより触ってくれる。普段は頭を撫でるのも時々躊躇しているのに。
ドキドキする。たまらなく幸せな感覚。頭のてっぺんから爪先まで、今を満喫している。
と、思っていたら、つむじにキスされた。
「わ、わわ」
ドキッとした。心臓が飛び跳ねた。
「嫌?」
呂律が回り切ってないお兄ちゃんの口調。
「嫌……じゃ、ない。嬉しい……」
私は急に恥ずかしくなって、モゴモゴ答えた。
「かわいいなぁ……」
お兄ちゃんはため息混じりに呟いて、私の髪の毛をいじった。こそばゆい。
「お兄ちゃん、すごく酔っぱらい」
お酒臭さは伊達じゃない。
「うん、そー。酔っぱらい。だから何しちゃうかわかんない」
「な、何って……」
「こういうの」
お兄ちゃんの体が軽く離れたと思ったら、顔があった。上の方に。私は下。目があった。酔っぱらいの目をしている。
近づいて来たから思わず目を瞑る。キス。額とか頬じゃなくて、唇。これが初めてのキス。思っていたのとは全然違くて、唇をぶつけるだけじゃないんだと妙なカルチャーショックを受けた。
角度を変えて落ちてくる唇は柔らかくて、熱い。ちゅ、と音が立つのがやたらと猥雑で、私は身をよじった。
「んっ……」
舌が……舌が。前歯を突っついている。ええと漫画だと……口開いてた? 思考している間に、舌は私の舌を絡め取った。
唾液が混ざり合って、柔らかくて、熱くて、時々声が聞こえて、なんだかもう、頭の中がお兄ちゃんだけになる感覚。胸がぎゅうっとして、甘ったるい感じがして、すごく気持ちがいい。
お兄ちゃんの手のひらが私の頭を撫でたり、寝巻きの下から入って来て脇腹や胸を撫でたりする。やり場がなくて、私はシーツを握り締める。
一度、唇が離れた。名残惜しい。
「たまちゃん、好きだ」
……あの時、お兄ちゃんは確かにそう言った。
私もお兄ちゃんに言った。
「お兄ちゃん、大好きっ」
って。
なのに……
翌日になって、お兄ちゃんは土下座をした。真っ青な顔で泣きそうだった。
「すまん! 許してくれ! この通りだ! 誰にも言わないでくれ!」
すごく嬉しかったのに、すごく傷付いた。なんで謝られているのかを理解したくない。
「お兄ちゃんの馬鹿! 死んじゃえ!」
私は初めてお兄ちゃんを蹴った。泣きながら蹴りまくった。親指の横の甲みたいなところがお兄ちゃんの脇腹に食い込んだ。でも気分は晴れるわけがない。
まだ、謝ったことについての謝罪をもらっていない。それに、このことはなかったみたいな扱いになっているし、付き合い辛そうに扱われている。




