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メイドのお仕事②

途中にエグイ、ぐろい描写が入ります。ご注意ください。

朝食のお仕事が終わると、次は各部屋のシーツ回収です。


たいてい8時頃に回収します。騎士団は騎士団の宿舎があるので朝食の時ほどの数の暴力はありませんが、それでもお城ではたくさんの人が寝泊まりしています。


官吏の方々の部屋を回り、使われていない部屋は窓を開けて風を通し、部屋主の許可があれば掃除をします。


ちなみにこの城自体に王族は生活はしていません。ヘロン城とつながってはいますが、北側に宮殿があるのです。この宮殿こそ、王宮、すなわち王族の生活の場所です。


仕事は城でしているので、王様も毎日出勤している形ですね。

この王宮の東側に後宮があり、ここの第一王妃と第二王妃がいらっしゃいます。セイルーネの王は珍しく、妾はいらっしゃいません。代わりに前王の妾達が未だにたくさん住んでらっしゃいます。


王族が住む場所なので、メイドは働きを認められた者しか入ることはできません。なのでまだ私は入ることができないのです。


私は回収したシーツを雑用係に渡しました。


「お願いします」


「はい、承りました」


雑用係の仕事は主に洗濯や厩などの動物の世話です。


今日の洗濯当番は二人です。そのうちの一人に私はシーツを渡しました。


クレディさんに会う前まではこの雑用係としてここで働くつもりでした。というのも、私の身元を保証するものがなかったからです。


雑用係は本当に誰でもできるような、しかし重労働な仕事を受け持っています。ゆえに査定が厳しくないのです。基本的に望めば誰でもこの職に就くことができます。なので、城で働こうと思えば、私は雑用係として働くしかなかったのです。


しかし、弊害が一つありました。雑用係は査定が緩い代わりに王宮には絶対入れません。


身元が確かでない者を王族の住む場所に入れないのは当然のことです。ちなみに雑用係は厨房にも入れません。王族の口に入るものを扱う場所に、先ほどと同じ理由で入れるわけにはいかないからです。


そのときは忍び込もうと思っていたわけですが、推薦状をいただけたのは幸運でした。


こういうわけでメイドの仕事の負担が増えているわけですが、本来は逆ですね。


メイドがしなければならない仕事を雑用係の方々にやってもらっているのです(・・・・・・・)


ですが、それを勘違いされる方もいるわけです。


私は推薦状があったので免除されましたが、本来は働き始めのメイドは雑用係から仕事を始めます。


ということは雑用係の方たちの一部は雑用係を卒業したメイドにとって後輩にあたるのですが、それに笠に着るのは違うと思う私は、間違っているのでしょうか。


「ねぇ、私の部屋のシーツも洗ってよ」


「え、でもそれは自分で…」


「わかってるわよ。でも私達は忙しいの。わかるでしょ?」


「そうよ。これだけ洗濯物があるんだもの。3枚ぐらい紛れたって誰もわかりやしないわ」


一人の気弱そうな少女を捕まえて、メイド3人が取り囲んでいます。あの少女は洗濯担当のもう一人ですね。


「で、でも規則が…」


「うるさいわね!あんたはさっさと洗えばいいのよ!」


「…わかりました。や、やり「規則で自分のシーツは自分で洗うと決められていますよ。その子にさせるのは規則違反です」


私が近づくと、3人のメイドたちははっと顔をこちらに向けました。


「自分の部屋にシーツを取りに戻る暇があるなら早く仕事に戻ったらいかがですか?メイド長に報告してもいいんですよ」


「わ、わかったわよ」


そう言って彼女らは立ち去りました。あっさり終わりましたね。


「あ、あのありがとうございます」

「私からも、ありがとうございました。助かりました」


私がシーツを渡した少女も頭を下げました。


「いいえ、お気になさらずに。先日あの人たちがせっかく洗って干したシーツに泥を付けてまた洗わせていたのは知っていますから」


「あ…その…」


「そのこともこのことも誰にも言いません。悪化させるだけでしょうからね。…ですが一度引き受けてしまうとだんだん要求するものがエスカレートするのは世の常ですよ」


そういうと二人は困ったような顔をしました。


「まあ、おそらく彼女たちの矛先はあなた方から外れるでしょうから、安心してください」


「え?」


私はかすかに笑ってその場をあとにしました。


シーツ回収が終わると次は使用人室に集合です。ここまでの仕事はメイド達全員の仕事ですが、ここから先は毎日メイド長が割り振ります。






使用人室に入ると、それぞれ年功序列で4列に並びました。


「先日、料理長から厨房の仕事が疎かになっているという報告がありました。しばらく監視していましたが、事実ですね」


メイド長が厳しい顔でメイド達を見回します。


「無駄な仕事は与えていません。全部必要だからその仕事が存在しているのです。それを疎かにするとは何事ですか?!」


「「「…」」」


威厳も誇りも持っている彼女の一括はとても精神にくるものでした。その場は水を打ったように音がしません。


「厨房に入れるのは基礎中の基礎を卒業したものでしょう。この状態は下の者に示しがつかないとは思わないのですか?私たちメイドはこの城で働く方々が気持ちよく働ける環境を作るのが仕事です。そんな方々を不快にするとはどういうことなのでしょう」


メイド長はその場にいるメイドひとりひとりの顔をみます。


「メイドとしての誇りを持たぬ者は即刻この場から立ち去りなさい。堕落を先導する者は迷惑です」


誰一人、その場から動く人はいませんでした。それをみると、メイド長は手元の紙をみます。


「では今日の作業場所を発表します…」


私の次の仕事場は東廊下でした。そこでの仕事が終わると、やっと昼食です。使用人部屋に戻ると、昼食が置かれています。そこから各自勝手に取って食べるのですが、残りは一つだけで、私が最後だったようですね。


シチューの入った皿を取ると、中に石が入っていました。


「…」


しばらく固まっていると、後ろからくすくす笑う声が聞こえました。振り返ると、先ほど私が注意した3人のメイドが笑っていました。


「ふふふ」


思わず笑ってしまいます。怒りのためではなく、彼女たちが滑稽で。


「美味しい昼食をありがとう」


私は、笑う私を気味悪そうにみる彼女達にすれ違いざまそう言って使用人部屋から出ました。


ここからは少しのお昼休憩です。どこで食べようと自由なのです。


私は厨房に向かいつつ、笑いをこらえるのに必死でした。


あまりにも彼女たちが私が予想した通りに動いたからです。私にとって、石の入ったシチューなどなんの問題もなく食べられるものです。


なぜなら今までにもっと酷いものを食べたから。貧乏だったからではありません。私はかつて、華国で起こった戦争に放り込まれたことがあります。それもくだらない理由で。


長期戦になり兵糧が尽きて、戦場に立たされた私や兵たちが食べたものは、なんだと思いますか。なんでも食べました。草も土も食べました。蛆がわいた肉も食べました。最初は吐き気がして食べられませんでした。でも、それしか食べるものがなかったんです。


食べなければ死にます。


悲惨な戦場。私がいた場所はまだマシだったんですよ。私が女で子供だからと周りに気遣ってくださる方もいましたから。けれど、他のもっと悲惨な場所では死んだ仲間の兵の肉も、自分が殺した敵の肉も食べたそうです。


私は戦争が終わってそれを悔いる元兵の方々のお話を聞くしかできることがありませんでした。


そんな経験をした私からいえば、石の入ったシチューくらいごちそうの部類です。


ですが、今の私はそういうものを食べるわけにはいきません。もしこのシチューを食べたところを誰かにみられていたとしたら、それは私に対する印象が悪くなってしまいます。


私だけなら問題ありませんが、もし万が一私が華国出身者だと知られたとき、少しでも悪い印象を持っていたらソウキ様に迷惑がかかるかもしれません。


冷めたとはいえこのシチューは料理長が作ったものでしょうから、食べられないのはものすごく寂しいですが、処分するしかありません。



食べ物を粗末にする行為は許しがたいものです。



私は断腸の思いでシチューを捨てて、厨房に入りました。今はお昼時を少し過ぎているので食堂の客は比較的少ないみたいですね。



「おう、どうした?」


私を見つけた料理長が声をかけてくれました。


「あの、野菜のクズを私にくれませんか?」


「あ?かまわねぇけど。何に使うんだ?」


「いろいろです。いろいろ」


笑ってごまかすと、料理長は眉を寄せました。


「ま、深くはきかねぇけどよ。なんかあったら相談しろよ?」


そう言ってくださる料理長はとても輝いてみえました。人って、あたたかいですね。


「ありがとうございます」


私は礼をいうと野菜のクズをいただいて厨房を出ました。


そのあと私が向かった先は、迷いの森と呼ばれている森です。


この森は城から西の位置にあります。一度入ったら王族以外迷って出られない、といわれる森です。一度入ってみたいのですがね。


私がいるのは森の入口なのでまだ迷ったりはしません。そのあとは必要な大きさの石を集めて弧を描くように並べ、その半円の内側に木をくべて燃やすと、簡易かまどの出来上がりです。


私はいつも持ち歩いている袋から鍋とおたま、華国から持ってきた調味料を取り出し、野菜クズを炒めて、野菜炒めを作りました。


私の昼食のできあがりです。


私は野菜炒めを食べながら、考えてみました。


もともと私にはイジメられる要素がありました。


メイドとなると清潔感が大切なので、髪は三つ編みにしました。そしてメガネをかければ気弱そうなやぼったい少女の誕生です。なおかつ、私は雑用係を省いてメイドとなりました。


貴族でも商家でもなく平民である私が、いきなりメイドになったことで一部の人がよく思っていないのは知っていました。


そしてもともといじめられていた子を庇えば、一瞬でその矛先が私に向かうのは当然です。


今日の他にも、私は彼女達がしようとしていた悪事を妨害していましたしね。


この結果はなおさらですね。


私はこれから彼女たちにいじめられ(・・・・・)るわけですが、楽しみですね。私にどこまでできるのか。


人を傷つける所業はいくらでもできるものです。






さて、本格的にソウキ様を探さなくてはなりません。


現在は城の中にはソウキ様はいないこと、あと隠し通路を15個ほどみつけたくらいしか成果がでていません。


王宮を探すなら、今の私は忍び込むしかありませんね。まだ入る許可をいただいていませんから。


一度迷ったふりをして入ったことはありますが、追い出されました。


さてさて、どうしましょうかね。






なんだか暗い話になってきました。このままではいけませんね。おそらくすぐに明るくなるとは思いますが…。


あと、これからいじめの描写が入ります。カグヤちゃんだからこそいじめられることを楽しんでいますが、普通はこんなことはありません。カグヤちゃんも、楽しめる心の強さと実力を得るまでに辛い思いをしました。戦争の話もそうです。この戦争の話はカグヤのバックボーンに関係あります。いずれ、書きたいですね。


それとカグヤはドМではありません!


ここまで読んでいただきありがとうございました。

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