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姫君の現状

 ソウキはイスに腰掛け、机に突っ伏していた。


『カグヤ…』


 頬を流れる涙を拭うこともせず、そのまま流し続ける。ソウキは自分に与えられた部屋で、この国にきて初めてみたネグリジェという夜着をきて、痛みを訴える足をそっと撫でた。

 

 この国に着いたとき、故郷を懐かしむものを全て取り上げられた。

 

 たとえば衣服。今まではゆったりとした上着と裳を帯で締めていた。しかしそれらの服は取り上げられて、今は苦しいコルセットによって締め付けられながらドレスを纏い、ヒールがあってすぐにこけてしまう靴をはかせられた。


 たとえば身に着けていた小物類。母の形見の簪すら持ち込むことは許されなかった。


 たとえば世話をする女官。そもそも、ソウキは異国になど嫁ぎたくなかった。それを、信頼する女官が一人ついてきてくれるなら、という条件で了承したのだ。皇帝である父は交渉して女官の同行を許可されたと言っていたが、彼女とも引き離されてしまった。


 彼女はいつだって自分を助けてくれる味方であり、家族でもあった。彼女がいればこんな目には遭っていないだろうと思うと、悲しくて寂しくてソウキは心身ともに衰弱していた。何より一番辛いのは、言葉が通じないことである。当然華国とセイルーネの言葉は違う。しかしソウキの傍には通訳の役割の果たせる者がいなかった。


 食事のときも箸は使わせてもらえない。


 ナイフとフォークというものを使って食べるようだが、それはマナーの授業のときに使い方を習っている。しかし、言葉がわからないまま習ったところで、すぐに習得できるはずがない。作法の教師はただ一方的に喋るだけで、内容はわからないがおそらくソウキに習得させる気はほぼないのだろう。ただ役割を果たしている、正確に言えば役割を演じている。


 他の女官たちもそうだった。たとえばソウキが靴擦れで足を痛めても、薬すら持ってこない。今彼女達を呼んでも現れることはないだろう。何度願っても婚約者である第一王子にも会えず、王との謁見もかなわない。外にも出されず、ただ最低限生かされているかのような日々。


 自分の扱われ方は冷静に考えておかしい。まるであえて閉じ込めているようだ。


 いくら華国が弱い国だとしても、一国の公主にこのような扱いをすれば、国際的に非難されるのは目にみえている。


それなのに、いったいなぜ…。


 そこまで考えて、ソウキは以前女官に言われた言葉を思い出した。


『苦難の中にあるときは、それを打開するために考えることをやめてはいけない。そうだったわね、カグヤお姉さま』


ソウキはそう呟いて顔をあげると、宙を睨む。今ある情報をまとめて、考えて、武器とするために。敵は誰なのかを知るために。


そして、言葉がわからないからと嘆いていても変わらない。言葉がわからなくとも通じるものはあるのだ。


そこから、自分は未来をこじ開ける。


ソウキは緩く波打つ長い髪を結いあげて、紙にペンを走らせはじめた。










東の姫君爽姫ソウキ様が登場しました。カグヤからではなく、彼女自身がカグヤにとって何なのかを匂わせはじめましたね。


まだ明言はしていませんが。まさかここまでこんな曖昧さが続くとは私も思っていませんでした。


さて、ソウキ様は臨戦態勢にはいったようですが、カグヤさんは物語に入る前から臨戦態勢だったことが、次回発覚する予定です。


早く主人公をだしてあげないとね。ついでにカグヤさんは言葉については何も問題にはしていませんでしたね。そこのなぞも…いずれ。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

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