キタシリス公爵の正体
クロードは綺麗に、そして優雅に頭を下げた少女をみつめた。カグヤと名乗った少女の黒髪がさらりと流れて頬にかかる。
彼女の王宮に務めたいという願いを安易に聞き入れてしまった自覚はある。
今王宮の中はいろんな意味で不審なものが漂っていた。まだそれが明確にされず、異国の姫を受け入れたこの時期に、不審な少女を我が家に迎え入れるようなことをしてしまった。なおかつ、彼女がたまたま入った酒場で貴族と会い、そして王宮勤めを申し出るというのは、都合が良すぎると考えることができる。
怪しい、ものすごく怪しいのだ。
実力は未知数だが、この少女ならクロードの正体を知りつつ近づいたのではないか、とも疑ってしまう。だが不思議と、この少女はおもしろいと感じてしまったのだ。なぜ腕相撲大会になったのか。彼女の思考はよくわからない。
キタシリス公爵家とは、実は名前だけの公爵家である。
王族が王族以外の名を名乗りたいときに使う偽名であった。つまり、クロードだけでなく王の血を引く者達は必要があれば、みなキタシリスの名を代々使っているのである。このことは貴族ですらあまり知られていない。
なぜならキタシリスという家は本当に存在しているからだ。王族専用の偽名にぬかりはないのである。そのからくりについては今は説明を省く。すなわちキタシリスの屋敷は存在しないのだが、その屋敷で働いてもいいとカマをかけてみたのだが、あっさりと返されてしまった。
彼女の目的がキタシリスを含む貴族が目的なのか、王宮に務めること自体が目的なのか。なんとなく後者な気がしないでもないが確信は得られなかった。
だが彼女の動向を見張るうえでも、この判断は完全な間違いではないだろう。あくまでもクロードにとって王宮とは、面倒な場所でありながらも我が家である。
自分の領域に入ってきた少女を見守るくらい、どうということはない。
そう、このときはそう思っていたのだ。だがカグヤという女はそんなに簡単な存在ではなかったと、のちにクロードは知ることになるのである。
はい、キタシリス公爵の正体は第一王子でした!タイトルですぐに察してしまえるところが難点ですが。
クロードという名が第一王子の名だと、覚えていてもらえればすぐわかってしまいますね。
さて、クレディの正体について推測した感想をくれた方がいらっしゃいました。答えはこのとおりです。感想ありがとうございました。
しかし、本当にヒロインが出てこない。東の姫君はこんな軽い扱いなんです。さて、カグヤはどうするのでしょうね。というかカグヤは主が誰なのか、まだ明言していない…