メイドの就活
五人組については女将さんに任せれば問題ないと思いました。それというのも、彼女はこの歓楽街のまとめ役らしく、リストがあったのもそのためだったようです。女将さんは困ったことがあればいつでも来てくれと言ってくれました。ありがたいことです。
そして今私は朝日をみながら外を歩いています。この時間にようやく歓楽街は眠りを迎えるので、ほとんどの店が閉まっています。昨夜のお祭り騒ぎの中で、そばかすの彼は新妻が心配するからと早めに抜け出していました。今は他の方々は店で寝こけているでしょう。その頃になって、私も店を出たのです。
「やはり、宿をとらなかったのは正解でしたね…」
「なんだ、宿に帰るんじゃないのか」
急に響いた声に驚きました。振り返るとクレディさんが歩いています。
「女の一人歩きは危ないから送ろうと思ったんだがな。どこにいくんだ?送るぞ?」
「おや、バレていたんですね」
「隠す気あったのか?」
「あまり……」
髪を括っただけですしね。彼の苦笑に苦笑を返しました。
「あなたのほうこそ、長く家をあけていいんですか?貴族のお勤めとか、使用人たちが困る……でしょう?」
この国の貴族の生活習慣はまだよく知らないので確実ではありませんが。
「ほう……、俺が貴族だって気づいてたのか?」
「あなたが着てらっしゃるのは確かに平民の服のデザインですけど、布地が高級なのが分かります。そんなの貴族様の道楽でしかありえませんよ」
だからこそ、貴族の女性にモテるだろうな、と思ったのですから。
「俺が商人だっていう可能性は?」
「昨夜のケンカの時、いつとめようか機会を伺っていらっしゃいましたね?状況判断の仕方が軍人ぽかったんです。あと、その手の剣だこ。どう考えても商人よりは貴族や騎士様のほうが可能性が高いと思います」
「なるほどな。次は生地にも気をつけよう。お前、ただものじゃないな」
「そこではい、と答える人はあまりいないと思いますが、あえて頷かせてください」
「どうしてだ?」
「私を王宮で働かせてほしいのです」
「…。理由を聞いても?」
「私は故郷に帰りたいんです。しかし帰るためにはいろいろと揃えなければいけないものや、準備が必要なんです。となると仕事をしなければ帰れないどころか、もはや今の生活すら危うい状態なのです」
「ん?金は持っているんじゃないのか?」
昨夜の一週間分の酒代のことを言っているのでしょう。
「あんなのははったりです。勝てる自信はありましたし、もし負けても逃げる自信もありました」
「ははっ、なるほどな」
「試験や面接は自分で受けます。ただ事情があって身元を保証するものがないのです。なので、私の身元保証人になっていただけませんか?」
働くにはどこの国でも履歴書は必要なのです。
「それか推薦状でも構いません」
「俺の屋敷で働いてもいいんだぜ?なんで王宮なんだ。そもそも、働き口なら他にもあるだろう?」
「ありがたいお誘いではありますが、そこまでご迷惑をおかけしたくはありません。いずれ故郷へ帰るつもりですので。それにメイドの経験が少しあるのです。あとはお給料がいいから……ですね」
私はクレディさんの顔色を窺いました。王宮で働けなければ意味がないのですが、それを悟られるのはあまりよくありません。
「会って一日も経っていないのに身勝手なお願いだと思いますが、どうかよろしくお願いします」
私が頭を下げると、彼はため息をつきました。
「わかった。推薦状を書いてやる。俺はクラウディオ・キタシリス公爵だ。お前、名は?」
少し驚きました。まさか公爵様だったとは。
「カグヤ、と申します」
私は最大の礼儀をもって満面の笑みで、頭を下げました。
やっと主人公の名前が出ました!まさかの日本名ですね(笑)
しかし、クラディさんとはいったい何者なのか。ただの公爵様ではありません。しかし、ヒロインが出てこないなー…