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メイドの鉄槌

 入ってきたのは小物臭のぷんぷんする男達でした。それにしてもみなさん体が大きいです。腕や足も太く、ぱっとみは強そうにみえます。



 典型的な柄の悪いおじさん方ですね。結婚祝い組の方々も大柄な方々ですが、みな気のいい人柄が顔からわかります。それに比べて彼らは下卑た笑みを浮かべながら店員の女性なめ回すようにみます。そして女性店員さんの一人が意を決して彼らの前に立ちました。

 

「申し訳ありません。今日は貸切でして…」

「はぁ?そんなわけねぇだろ?!何件まわったと思ってんだ、あぁん?」

「え、えっと…」


 女性店員さんは困ったように眉根を寄せました。


「まずいな…」

「どうしたんですか?」


 結婚祝い組の一人が顔をしかめて彼らをみていました。


「あいつらは問題ばかり起こす連中でよ、ここ最近は拍車がかかったように店の中で他の客に絡んで喧嘩したり、酒瓶を投げたりと派手になってきたんで、今日は貸切っていって追い返してたんだ。たぶん他の店でも言われたんだろうな」


 なるほど。どこの店でも貸切と言われて追い返されれば、その理由に気づくでしょう。


「せっかくの祝いの席だってのに、無粋な奴がきたなぁ」


 そばかすの彼はおろおろとしています。周りの人に比べて体が細い彼は、見た目通り気の弱い性格のようです。


「どうせ貸切なんて嘘なんだろ?!さっさと席に案内しろよ。それともこの店は客を入店拒否すんのか?」


柄の悪い男たちの中のリーダー格の男は、自分より背の低い女性に唾を飛ばしながら怒鳴りつけました。しかし女性もそれに負けていません。


「ああ、そうだよ。この店はあんた達がいなくてもやっていける。逆にあんた達みたいのを客にしたら他が寄り付かなくなるよ。迷惑なんだから、さっさと帰って!」

「んだとこのアマっ!」


 逆上した男は、近くの机に置いてあった空瓶をつかんで彼女に振りおろそうとしました。


やれやれ。


 私は内心ため息をつきながら立ち上がりました。


「そんなにお酒が飲みたいなら、協力していただけませんか?」


 そう口にしたとき、彼の振り下ろした空瓶は空を切りました。クレディさんが女性を引っ張ったおかげで回避できたのです。彼女は彼に抱き寄せられて頬を染めながら小さくお礼を言っていました。


「実は本当にこのお店は貸切だったんですよ。彼の結婚祝いだったので」


 男がそばかすの男性に目を向けたときにクレディさんをみると、彼は頷いて彼女を店の奥へ連れて行ってくれました。察しがよくて助かります。


ちなみに嘘も方便。


「ところが僕はそれを知らずに店に来たのですが、彼らは喜んで僕を仲間に入れてくれました。というわけで、あなた方も彼の結婚祝いに参加してください」

「はぁ?なんでオレたちがそんなことをしなきゃならねんだよ」

「話は最後まで聞いてください。僕は仲間に入れていただいたお礼にこの場を盛り上げたいのです。それであなた方に協力を申し入れたい。僕と勝負しませんか?」

「「「はぁ?」」」

「僕に勝ったら、一週間分の酒代を全て僕が払います。その代わり、僕が勝ったら僕の言うことを一つ聞いてもらいます。どうですか?」

「お、おい?!」


 その場が騒然となりました。大丈夫なのか?とか心配する声が聞こえます。ありがとうございます。


「へぇ、一週間分か。だがそれだけじゃたりねぇよな。な?」

「おう!」


後ろに控える男たちがにやりと笑いました。


「祝いなら盛大にやらねぇと」

「なるほど。それもそうですね。ならば、僕が負けたときは、僕を奴隷にしてもかまいませんよ」

「お、おい?!」


 心配そうに見上げる私のそばにいた彼に、安心させるように笑いました。


「そりゃいいなぁ。そんで、勝負の方法は?」

「腕相撲でいかがでしょう?」


 袖をまくりあげて細腕をみせながらいうと、彼らは舌なめずりします。完全に気持ち悪いですね。気持ち悪いのは顔だけにしてほしいものです。


「いいぜぇ、受けて立ってやるよ」


 取引が成立したということで、私はさっそく舞台を用意しました。といっても、机を動かすだけなので何の問題もありません。周囲は異様な緊迫感に包まれているので、少々困りました。そこまで心配していただかなくても大丈夫なんです。基本的に勝てる勝負しかしないので。


 ですが今日初めて会った他の方がそれを知るはずもなく、宴を盛り上げる名目でやっているのでこの静寂は少し困りました。


「おい、サウロス。司会者やってくれ」

「はぁ?なんでオレが」


店の奥から出てきたクレディさんが、頬に傷のある大男さんに話しかけました。彼はサウロスさんという名なのですね。


「この雰囲気は盛り上がるどころじゃない。お前の出番だ」

「ピエロになれってのか?オレだってこんなんでやるのやだよ」

「いつだってお前はピエロだろ。お前しかできないんだ」


 その後もクレディさんの説得は続いていました。そして準備が整った頃、なぜかサウロスさんの手にはマイクが。


「レディースエンドジェントルメーン!さて始まりました、夏の夜の腕相撲大会!司会はみんなの三番星、サウロスが務めさせていただきまーす」


ノリノリじゃないですか。


 思わず吹き出してしまいました。三番星ってなんですか。


「さて、ルールを説明したい!この腕相撲大会は、1対5で行われます!5人組からひとりずつ選出して少年と戦い、少年が負けた時点で大会終了となーる!つまり、5人のうち一人でも少年に勝てば、ソチ組の勝ちだー」


 パチパチと拍手が起きました。サウロスさんのおかげでだいぶん雰囲気が和みます。ちなみに、あのリーダー格の男がソチという名前のようですね。


「というわけで、位置について…レディー…」


 審判はクレディさんにお願いして、私と一人目の挑戦者は机に肘をついて手を握ります。相手は私の手を握ると、興奮の混じった気持ちの悪い笑みを浮かべました。背筋に悪寒が走ります。そもそも今の私は男ですので、そっちの趣味でもあるのでしょうか。


「ゴー!」


 サウロスさんの掛け声で一気に力が入ります。誰もが私の手の甲が机につくと思われた瞬間、その一瞬ののちにあったのは、手を押えてうずくまる相手と、少しへこんだ机でした。


「勝者はこっちだな」

「しょ、勝者は…少年!」


 クレディさんの判定に、サウロスさんが声をあげました。


「お、おおおお!」

「いま、何が起こったんだ?」


 周りが興奮した様子で騒ぎ始めました。少し力を入れすぎたようですね。あまりにも早く動かせばみえないので、盛り上がりませんし。


「さて、お次は?」


 おそらく筋を痛めているであろう一人目の挑戦者にはご退場願いました。手当も軽くしましたが。その後の3人はいい勝負をしている、というふうに見せかけました。おかげで周囲は盛り上がってくれたので私も満足です。まあ全て勝ちましたけど。


「さぁ、次は最後の挑戦者だぁ!挑戦者…ソチぃ!」


 私達は向き合って座りながら、位置につきます。彼の眼光は鋭く、私を睨みつけています。


「位置についてぇ、レディーゴー!」


 がんばれ、とか応援する声が意識から遠のきました。今までは均衡上程を保ったりしていましたが、私は自然に力を込め、彼に勝ちました。別に彼が力を入れていなかったわけではありません。彼以上の力で、傍目には彼が力を入れていなかったとみえるようなほどの力で彼の腕を机に打ちつけたんです。


 静かに勝負がきまりました。


「「「…」」」


 しばしの沈黙が場を包みます。そして事態に気づいたソチさんはだんだんと顔を赤くして立ち上がりました。


「この、野郎―っ」


 私を殴ろうとしてきたので、私は近くに置かれていた酒瓶を振り上げて彼の目の前で止めました。


「さきほど、あなたが女性にしたことはこういうことですよ。怖いでしょう?」


 殴ろうとしたのは彼が先です。しかし彼が拳を繰り出す前につきつけられた酒瓶に、彼の怒りに赤かった顔は一気に青ざめました。


「少し想像すればわかることなんです。こういうことをするから、どんどん自分を貶めていくのですよ。入店拒否がその結果です」


 すっと酒瓶をおろすと彼は座り込んでしまいました。


「さて、僕の勝ちですよね?」

「ああ、おまえの勝ちだな」


クレディさんはにやりと笑って判定を下しました。


「勝者、少年―!」

「おおおおおお!すっげー」

「やるなー!」


その場にいたお客たちに頭をぐりぐりと撫でまわされながら、そこからお祭り騒ぎが始まりました。


「さて、僕が勝ったら一つ言うことを聞いてくれるんですよね?」


酔っ払いたちにより縄でぐるぐる巻きに縛られている5人組詰め寄ると、彼らは気まずそうにしました。


「その内容ですが、今すぐ今まで迷惑をかけたお店に謝罪、弁償してください」

「は?」

「悪いことをしたらごめんなさいは当然のことでしょう?」


私は筋を痛めて冷やしている彼の手を一撫でします。すると彼は驚いたように手を動かしました。おそらく治っているはずです。それがまた私に対する恐怖を呼ぶとわかっていてやりました。


「だけど、俺たちどの店で暴れたなんか覚えてな…」


「ここにそのリストがあるよ」


店の奥から出てきたのは腰を押さえた恰幅の良い女性だした。そのそばには先ほどクレディさんが連れ出した女性店員が彼女を支えています。


「腰を痛めてなきゃあたしがあんたらをぶちのめしたんだけどねぇ。間が悪いよ。私がもっと元気な時に飲みに来ればいいのに」


どうやら彼女はこの店の女将さんのようですね。肝っ玉かあちゃん、という感じで、彼女が元気な時に暴れていたら、確実に男たちは言葉通りぶちのめされていたでしょう。


「あんたが出たら洒落にならねぇな」

「クレディ。あんたがいたからあたしは寝てたんだがね」

「俺以外に穏便に済ませようとした奴がいたら、俺が出る必要はないだろ?」


 クレディさんは私をちらりとみました。もしや私は余計なことをしたのでしょうか。


「そのようだね。ありがとう。礼を言うよ」

「いえいえ、結局白けさせてしまったような…」

「そんなことないさ。ここのムサイ連中の声が二階まで聞こえてたよ。それで、この歓楽街の被害は全部あたしのとこに報告が上がってる。ほら、これがリストだよ」


 そういって手渡された紙をみると、細かい字でびっしりと日時、場所、被害総額が三枚分書かれていました。裏にも書かれているので実質六枚分ですね。


 私はそれを彼らにつきつけました。


「一か月以内に全ての店に謝罪をし、そのあとは何日かかってもいいので全て弁償してください。もし、まじめにしていなかったそのときは…」


 私は空瓶を握りしめ握力だけで彼らの頭上で割りました。パラパラと落ちる破片は彼らに降りかかります。にっこり笑うと、彼らはコクコクと頷きました。破片は危ないのですぐに片付けました。


「机をへこませてしまってすみません」


 私が頭を下げると、女将さんは気にするなと言ってくれました。



 その後もしばらくお祭り騒ぎが続きました。今度はお遊びで腕相撲大会が開かれたので、参加したりしました。


「俺とも勝負しないか?」


クレディさんが誘ってくれましたが、私は断りました。


「いいえ、僕は基本的に勝てる勝負しかしないので」








気付けば未だに主人公の名前が出ていません!次こそは…次こそは出したい!


それと、酒瓶を割って誰かに振りかけるのは危険ですので、まさかとは思いますがマネしないでください。ちなみに主人公の腕相撲も普通ではありえない握力もタネも仕掛けもあるのであしからず。

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