6⇒7⇒∞
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七度目の今日。
それは例えるならシミュレーション。
まるで現実味のない流れ作業。
直感と推測だけで全部成立してしまった。
世界の平和は人知れず守られた。
後輩は救えて、スーツ姿の男は捕まった。
大家さんはただのヒモ生活をだらだらと。
久しぶりの銭湯にうつつを抜かす
おっさんが転ぶ姿を久しぶりに目撃する。
商店で夕食を買って、家で食べて
どうでもいい日常が動き出す。
今日が終わる。明日が始まる。
目を覚ませば知らない明日がやってくる。
真夏の金曜の昼。
仕事は馬鹿みたいにだるい。
これが新しい日常だ。つまらない日々だ。
大型チェーンコンビニ。時給はそこそこ。クーラーがあるから自宅よりはマシな環境だ。
大した客はこないので今日はいい日に分類されるだろう。
「昨日はありがとうございました」
昼からシフトが入った彼女が頭を下げてそんな挨拶をしてきた。いつも死にそうな顔で仕事しているのに、と余計な皮肉のボディーブローをしない後輩へいつもの俺だったら不審がるだろうが救ったんだから当然の反応だろう。その後で「まあ、それだけです。後処理めんどくさいからって逃げるなんて最低でしたけど」と余計な一言もあったが彼女なりの照れ隠しだろう。
警察から事情聴取されるのが嫌でスーツ姿の男が持っていた拷問器具で身動きをとれないようにして警察に電話して家に帰った。事情聴取なんて面倒なもの受ける気はさらさらなかった。
後輩にチクられて警察に突き出されるかな、とビクビクもしていたが呼ばれることはなかった。
根は結構真面目だから、気を利かせてくれたのかもしれない。
「いらっしゃいませ」
覇気のない言葉で店にやってきた客に返す。そうして現れた老けてはいるが凛々しい男をみたとき。
奇妙な違和感――デジャブが襲う。
知っている。この感覚は知っている。
「デジャブ――!?」
あり得ない。疲れているだけだ。思わず口に出した言葉を全力で否定したい。
「今回は思い出すの早かったですね、先輩」
「今回は……だって?」
何を言っている。なんだその濁った目は。
ああ、こいつはおかしい。直感だ。
こいつはおかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。
「ええ。前回気付いたのはシフトが終わる直前でしたから。この説明も暗唱できるほどいった台詞ですけど先輩のループはこれからが本番です」
「ずっと知ってたのか?」声が震えている。
「いえ、わたしが巻き込まれたのは今日のループです。昨日のループに巻き込まれたのは先輩だけで私は感知できていません」
「このループを失敗するとどうなる」
ああ、聞きたくない。でも聞かなくてはならない。絶望の答えだとしてもこれだけは聞かなくてはならない。
「先輩は昨日のループに逆戻りです。以前そこまで記憶していた先輩がそう言っていました」
つまり、俺は忘れているだけで何度もあの今日を抜け出すことを繰り返しているわけだ。通りで達成感がないわけだ。
奇妙な確信、推測が当たりまくっていたのはなんてことない。ループの積み重ねの結果。
無意識に刷り込まれたループの残滓が俺に最短ルートを選ばせていただけ。
あのループはそんな結果から生まれて当然の正答。
「俺だけがランダム要素なのか」
ループを知覚する人間だけがこの既知では違う行動を取る。
「ええ。もう何回この今日を過ごしたか分かりません。今では先輩ぐらいしか未知を観測できませんね」
その言葉で思い出したことがある。そう、彼女への違和感。
「今度こそ終わりにしてやるよ、後輩。お前は俺の敵だ」
「……かなり思い出せたみたいですね。今日の先輩とは楽しく過ごせそうで嬉しいですよ」
同類だが、同族としてあれは受け入れたくないな。
俺と彼女の価値観は絶対に相容れない。
まずは逃げよう。以前のループで培った記憶を探りながらみっともなく年下の少女から俺は逃げる。
向かうはあそこだ。
――はやく、ループから抜け出したい。