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「うわー古典的だ」

 今どきあるんだね。俺ビックリしちゃったよ、とおどけずにはいられない。

「結構、有効なんだぜ、これ」

 そういって楽しそうにスーツ姿の男が取り出したのは様々な形状の刃物。

 いわゆる拷問器具とかいう代物だろう。

 どこか人気のない倉庫で男三人に囲まれて身動き取れないようにされて拷問。

 助けなんて呼べないし来ることもない。

「だろうね。実体験なんてしたくないから聞きたいことあったらなんでもいうよ」あんなもんで体を弄られるならさっさと死んだ方がマシだ。

「なんだ、やる前から吐いちゃうのか。君で作業の最中で呼び出された鬱憤晴らそうと思ってたのに」

 残念そうに尋ねるスーツ姿の男。

 なんだこいつ。一番まともそうな風貌してるくせに一番おっかない。

「ただ、一つ条件がある」慄き震えてるチキンハートを表に出さずはっきりと口にした。

「この状況でそんなこといえるとはな」

 髭のおっさんが不敵に口の端を吊り上げる。

 究極手段、ループによる巻き戻しがある故の自信でもある。ただ、死んでしまったらどうなるかは分からないので時間稼ぎをしたいというのもある。

「必死なんでね」そういうと、大家さんは僅かに顔を伏せた。社会的にはダメダメだがこの面子では一番良識があるみたいだ。

「条件は一つだけ。首謀者と話がしたい。それが出来るならなんでも正直に話す」

 失笑と息を呑む音が漏れた。それぞれの出所は顔を見ずとも分かる。

「それで何の得がある。盗聴器の類がお前についてないのは既にチェック済みだ。聞いたところで誰にも伝えることも出来ずに無意味に死ぬだけだぞ」

 髭のおっさんは諭すように宣告した。

 どうせ死ぬ。そんな抵抗は無駄だ。普通ならそうだがあいにく俺は普通じゃない。

「冥土の土産になんでこんなことをするのか聞きたいってだけだよ。何も知らずに死ぬってのも嫌だし」

 覚悟決めてもう諦めてますよムードを出す。客観的にみれば俺はどう考えても終わりだ。自棄になってせめて真相だけは知りたいだけだ。

 そんな人間に同情票ぐらいはくれたって構わないだろう。という風に思わせてやりたい。

「そのぐらい許してやればいい」

 思ってたより人のいい大家さんに効果は抜群だったようだ。スーツ姿の男はどうでもよさそうに「いいんじゃないの?」と怪しげな器具を弄りながら同調してきた。

「ま、それで済むならいいか。野郎の悲鳴なんて聞きたくもねえからな」

 リーダー格らしき髭のおっさんがそういうと携帯電話を取り出しどこかに電話をかけた。

「もしもし。……ええ……私です。……いや、例の男は捕まえたんですが。……それがですね、首謀者の一人と話をさせてくれるなら全部話すと言い張っていて。情報量の少ない我々ではどこまでが誤情報であるかの判別がつきませんので上の判断を仰ぎたくてですね。……ええ。分かりました」

 おっさんは社会的地位が確実に上であろう人物にへりくだって会話をしていた。その姿をみていると普段はけっこうまともな社会人として生きているのだろうか、という想像がよぎる。

 相手の言葉に了解すると耳元から電話を話して俺の近くまで歩み寄ってくる。

 さすがに拘束を外すなんてことはされず「ほら、希望通り機会を作ってやったぞ」と耳元に電話を押し付けられた。

「あんたが首謀者か」

『そうだな。一応、君の希望通りの男だ。首謀者の中の一人、という但し書きはつくがな』

 なるほど、偉そうな感じが電話越しでも伝わる。

「大家さん――ああ、そちらの工作員の人から大方のことは聞いたんだけどさ、ちょっと腑に落ちないんだよね」

『多くの人間を犠牲にすることがか? 青いな』

 何か勘違いしているようだ。俺はあんたたちが何をどう思ってこんなことをしでかそうとしてるのは知らない。だけど、

「そんなことじゃない。あんたら、本当に人工地震とやらを起こすの」

『なぜ、そう思った』首謀者の言葉に僅かな負の感情が混じったような気がする。電話越しにいる相手の感情を声音だけで判断するなんて高等技術を身につけているわけではないので、それが正しいものかは分からない。

「おかしいんだよ。一般人の俺ですら簡単に人工地震という真相に辿り着けるぐらいのものが用意されていた」

 そもそもが狂っていた。例えば、大家さんのような末端の人間がべらべらと憶測を交えてあのように簡単に白状するだろうか。ループとこんな非日常的なことで感覚が麻痺していたがこんなあっさりとこうして「首謀者らしき男」と会話ができてしまうなんてあり得ない。

 緻密な計算も策略を考える頭も、大した人脈も金もない、俺ごときが、だ。

「偶然気が付いた人間が一日のほとんどをかければ辿り着く程度の道筋があった」多分、それは無数に存在している。俺はその中の一つにまんまと引っかかっただけ。

『つまり?』

「人工地震という真相はそんな辿り着いてしまった人間のために用意されていたフェイク。あんたらがやるのはそこまでしてでも隠し通したいもっとでかいことだ」

『東京が滅ぶことより大きなことか』

「あんたらがしたいのは人類を滅ぼすことだろ」

 きっと、これが答え。それぐらいのことをしでかす。あの白い光景は恐らく、原爆のような大量破壊兵器じみた何かによるものだ。それも東京どころじゃない。地球という存在を脅かすほどの脅威。

『スケールの大きな話だな。突拍子もないが』

「今の情報社会。物事を完全に隠し通すことはほぼ無理だ」ネットは怖い。

「だから、あえて分かりやすい偽の真相に行き着く道筋を作ることにしたんだ。それで無駄に時間を浪費させてあんたらの真の目的を阻止するだけの準備をさせないようにしたかった」

 そこまで臆病になったのは分からない。だからこうして、彼らが何者かも知らない俺はそれらしい全体像を推測して断定系で喋り相手がボロを出すのを待っている。

『……君の推理には重大な欠陥がある。我々の目的を断定しているがそれは本当に正しいかの確証がない』

「言うと思ったよ」それを突かれたところで痛くも痒くもない。

「確証がなきゃ俺は今ここにはいない」

『なるほど……しかしどうする。今の君に逆転の一手は残されているのか』

 試すように男は俺に問いかける。認めたのか俺のホラ話に乗ったように見せかけているのか。

 どちらにしろ、こいつは気に食わない男だというのがよく分かった。

「今の俺にはない。だが、あんたらの目的は阻止して見せるさ。俺自身の為にも」

『……そうか。では、君に通話させている相手に一度代わらせてくれ』

 こちらももう何も言うことはない。いや、言えない。結局、人工地震というフェイクに隠された本命が何であるかは分からずじまい。少し頭の良くて危機感のある人間ならワンチャンスで辿り着けた場所に周回遅れでようやく到着だ。それでも焦る事はない。

「おっさん、代われってよ」まだ俺にはやり直しがある。

「……ああ」

 浮かない表情で電話を俺の側から話すと首謀者の男と会話をし始めた。

「代わりました。ええ……そうですか。一つ聞きたいのですが、どういうことですか。我々が聞いていた話と随分かけ離れていた会話をしていたようですが。……いえ、出すぎた真似でした。はい……はい。分かりました」

 お決まりの了承の台詞で会話を切り、携帯をポケットにおっさんはしまった。

「今の話は本当なのか」

 まず、大家さんが尋ねた。

「何をどうするかは全く分かりませんけどね。どんなに低く見積もっても日本壊滅、最高で地球壊滅レベルのなにかをやろうとしてるのは間違いないかと」といってもあくまで憶測だ。的外れの可能性も十分にある。

 しかし、今はあるという仮定を肯定した方が建設的だ。

「家賃下げるから何とかなんねえか」

「俺が卒業するまで無料、とか言われても無理ですね」個人の力でなんとかなるものだって限界があるもだから。

 すると大家さんは身を乗り出して「お前、『あんたらの目的は阻止して見せるさ。俺自身の為にも』とかいうカッコイイ台詞言ってたじゃねえかっ」と怒り出した。

 だから大家さんは面倒なんだ。もちろん、沸点が低いから。

 暇なときはからかうのにちょうどいい人なんだが、なんていうと大家さんがひどいことになるので自重はするが。

「その場のノリってやつですよ、大家さん」

「ふざけろっ」

「いたって真面目ですよ」

「お前のそういうところが大ッ嫌いだ」

 まあ、今喋るくらいしか出来なくて暇なので、と言い訳をしながら大家さんで遊ぶ。

「漫才はいい。俺たちは捨て駒ということか」即興アドリブ漫才はおっさんには不評だった。「でしょうね」

 スーツ姿の男はまるで興味を持たず器具を弄るだけだ。本当に危ない人間だな、と思わずにはいられない。社会不適合者とは彼のような人間のことを言うのだろう。

「しかし、そんな大規模なことをすれば彼らだって……」

「さあ。俺はまずあんたらがどういう団体か把握してるわけじゃないからそこまでは。みんなで集団自殺願望があるのかシェルターみたいな安全な場所があるのかってところだろうけど」

 封殺するように適当にでっちあげた意見をスラスラと述べる。きっと、俺の眼は死んでいるのだろう。大家さんが俺の顔をみて怯んだ。

「どちらにしろ、俺たちは助からないということか」少なくともそれには同意だ。「でしょうね」

 沈黙が場を支配する……いや、スーツ姿の男が弄る刃物の音がやけに響く。

 そこで、空気を和ますために俺がしゃしゃり出た。

「どうせ、助からないのなら家でパーッと酒でも飲みませんか」

 スーツ姿の男は話を聞いていない。

 髭のおっさんは無視している。

 大家さんは一言。「お前バカなのか?」

「みんなひどいな」

 結局、大家さんの驕りで自棄酒をこの後、倉庫の外で楽しむことになった。

 スーツ姿の男はどこかにいつの間にかきえた。

 おっさんはビールを飲み、大家さんは発泡酒を飲み、俺は炭酸飲料を飲み、寂しく夜空を肴に男三人がぽつんといた。

 世界が終わる時間。

 光の柱が空から落ちて、世界は白になる。


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