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4⇒5(α)

4⇒5


 また、木曜日が始まる。

 昨日あったゴミも、金も、日常も全部なかったことになった。

 こんな日常はあっちゃいけない。

 終わりにする。

 なんて、善良な一昔前の主人公が言いそうな台詞を思っても結局袋小路だ。

 やる気も才能もないクズ予備軍の俺に何が出来る。

 そもそもなんでこんなループを俺が背負わなきゃいけないんだ。

 三回ループしたら次の日とかならよかったのに、とありもしない仮定を持ち出して何かが変わるわけでもない。今日がまた訪れる。この恐怖は体験しなければ理解出来ないものだろう。

 明日が永遠にこなければいいのに、と願う人が世界から消え去らないのは明日が必ず訪れるからだ。人はないものねだりばかりする生き物なのだから。

 この無限からの抜け道が分からない。ずっと囚われたまま精神が磨耗して廃人になるとか怖くて想像したくない。

 何をしたらいいと思いネットでもするか、などと考える俺はきっとダメ人間だ。

 ダメ人間である俺がすっかり依存しきっている最終兵器インターネット。ここ数回の今日では出番がなかったがこいつに頼るしかないだろう。

 なんていったって、現代が誇る最強の武装であり人だって殺せるし国の情勢にだって影響を与える恐ろしいブツだ。

 どこまで使えるかは俺の手腕にかかっている。

 そんな俺がネットを駆使して行ったのは。

 未来予知をするという旨のタイトルでスレを立てること。

 ネットを見る同じように手掛かりを探す人物がいれば食いつくかもしれない。

 発案した自分で思う。馬鹿じゃないかと。

 最初はニュースの先読みやバラエティ番組のネタバレをずらずらと並べる。地方競馬場の覚えてる限りの一着の馬を書いたりした。

 コレに対する反応は分かっていた。誹謗中傷の荒しだ。そして、後から手の平を返すようになっていくことも当然、分かっていた。

 ネットは怖い。それはあくまでインターネットというものを詳しく知らない人間だけの話だ。

 使い方を誤れば恐ろしいのは包丁や車だって変わらない。

 正しく扱えばこんなものだ。この祭りを生み出したのは想定内だったがちょっと興奮する。

 ダメ押しに地震の情報を追加する。

 これだけ当てれば、誰も文句を言わない。言えば叩き潰されるのはそれを言った人間に他ならないのだから。

 世界が揺れる。

 しかし、数分後返ってきたのは全く予期していない反応だった。

 それは俺の予知は外れだ、というものだった。一部に揺れたというものがいたがそれは根拠がないとすぐに潰された。

 何故か。

 地震速報がどこにも出なかったからだ。それはあり得ない。

 現実に揺れをこれまでの今日で体験しているからだ。

 でも、これは地震ではない。

 そこでようやく事態を飲み込む。

「まさか」と独り言が漏れた。

 何も分からなかった手掛かりをようやく掴んだ。



 俺には行きたくない場所がある。

 まずは実家。次に仕事場。最後はここ。大家の部屋だ。

「すんませーん」

 ドアを叩く。インターホンなんてこのオンボロ物件にはない。

 待ち人は出ない。

「すんませーん」

 今度は二度叩く。待ち人は出ない。

「…………」

 無言で連打。待ち人は出ない。

「……ッ」

 リズムをつける。両手を使ってドアを打楽器のように扱う。

 サビに入ろうとした瞬間、「うるせえんだよっ」という言葉と共に打楽器の強襲に頭を痛め、無様に床に這いつくばった。

 態勢を整えながら地べたについた部分に付着した砂を払いながら「いるならさっさとでてくださいよ」

大家さんに親しげに話しかける。

「家賃の滞納は受け付けんぞ」

 まるで俺が家賃のこと以外で彼に話しかけたことがないかのような言い草だ。そんな俺の不満を読み取ったのか苦々しげに言葉を吐く。

「何度泣きつかれたと思ってやがる」

「まあ、家賃のことはどうでもいいんです」そう、どうでもいい。

「ああ?」

 この反応は当然だ。俺のような人間が気付くはずがない。

 そう彼も思うだろう。

 だから決定的な一言を告げた。

「地震」

 明らかに顔が変わった。当たりだ。

「大家さん。何を知っているんですか」

 世界に偶然なんてない。

 俺がループし続けた理由は確かに存在したのだ。

 思えば、おかしいことはあった。

 あの大家さんがわざわざ俺のところへ世間話をするはずがないのだ。

「お前、何言ってるんだ」

「全部話してください。あなたがあの地震に関わっていることは分かってるんです」

 彼は地震速報をネタに世間話に来た。

 それはおかしい。

 だって、地震速報なんてものはなかったのだから。

「変な宗教団体にでも入ったか?」

 哀れむように俺を見るな。止めてくれ。くそ、負けるか。

「明日の朝、始めるのは四時半」これでダメならもはや追求は不可能だ。

「!……チッ、そこまで知ってんのか。どこで知ったんだよ、おまえ」

 望んだ反応が来てほっとする。

「いったって信じられないと思いますよ」

 まさか、ループしてるなんて思いもしないだろう。そんなバカなこと言い出してきたら俺は病院にいくことを薦める。絶対。

 こういうことは勝手に人という生き物は解釈してくれる。現に「だろうな」といって渋々納得してくれた。どういう解釈をしているかは怖くて聞く気も起きない。

「で、そこまで知ってるなら何をしに来た。俺が末端だってのは分かってんだろ」

 よし、新情報ゲットだ。この交渉に失敗しても次があるし、強気でいこう。

 決裂したらまたやり直せばいい。

「いったじゃないですか。全部話してください」

 例えるならサスペンスドラマ終盤で自供する犯人だろうか。

 これでもか、というぐらい大家さんは喋ってくれた。

 簡潔にまとめると、明日東京は滅びる。人工地震、というものを発生させるらしい。

 大家さんは有事の際の特殊工作員の末端の末端で今回の作戦で非常事態が起きたときの連絡班の一人。

 とてもカッコイイ設定だった。親のすねかじりでここの大家をしているのは擬態だったのか、と聞いたがそちらは本当らしい。ガッカリした。

 今日の地震はその予行練習。だから、関東以外の区域には何も報道されない。

 オーバーリアクションで驚いてやりたかったがあまりにも真剣に話すので黙っていることにした。

 さすがに彼もどういう理屈でこのようなことをするのか、までは知らないらしいがおおよその予想は出来る、とのことだった。

 一極集中型の首都が壊滅すれば当然、国としての機能は麻痺する。

 これは疑似餌なのだと。日本という餌を狙う国を誘い出す罠。

 戦争の引き金を引く為に明日、大勢の人間の命を奪うのだと。

 だが、解せない。

「それだけですか?」

「なんだと?」

 その程度のことで俺はループする羽目になったのか?

 いいや違うはずだ。 

 もっと、恐ろしい事がおきたから、こうして俺はここにいるはずだ。

「俺は言ったはずだ。全部話してくれって」

「……お前が何を知っているかは知らんが俺が知ってるのはそれだけだ」

「本当ですか」

「嘘はついてねえ」

 そういって一瞬、時計を見た。

「なんで、今時計を見たんですか?」

「もうすぐ見てるドラマの再放送が始まるんだよっ」

「今から夜九時までドラマなんて一本もないですよ」

 唯一あった再放送のドラマはとっくの昔に犯人は捕まってエンドロールだ。

「……」

「連絡班の一人って言ってましたよね」

 俺はまさに計画にあってはならないイレギュラー。こんな不審人物を見つけたらどうするか。

 連絡するに決まってる。

 恐らく、逃げ切れない。

「俺はどうなるんですかねぇ」

 ここまで大事になるとは。

 もう笑いたくなってきた。

「すぐ死にはしねえよ」力なく笑う俺を哀れむように告げた。

「俺が死ぬのは確定ですか」

「明日になれば大勢死ぬ」

 その通り。俺は現に見捨てられていた。

「一人くらい行方不明になったり不審な死に方をしたって気にも留めないでしょうね」

 返事はない。ただ一言「時間だ」と確認するように言葉を漏らしただけ。

 大家さんのみる方角にかうワゴン車が外に停まっていた。スーツ姿の公務員と髭を生やしたおっさんが降りてきた。

 なんだ、工作員ってのは案外みんな普通の人なんだな。

 そう思いながら俺は流れに身を任せることにした。

 無作為に暴力なんて振るうことなく、馬鹿丁寧に車に乗車させられるのが返って恐怖を倍増させる。不安を取り払うように彼らに「どこへ行くんですか」と尋ねた。

 助手席の大家さんには無視された。

 運転しているおっさんも無視した。

 隣に座ったスーツ姿の男に顔を向ける。

「地獄だ」

「なるほど」

 どうやら、かなりひどい目に遭うようだ。

 

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