1⇒2⇒3
1⇒2
すごくリアルな夢。
そう覚えている今日のことを解釈した。よく、二度寝して職場や学校にいったと思い込んだりする夢。それを鮮明に覚えていただけだろう、そう俺は思考停止した。
美人のアナウンサーが読み上げる簡略化された情勢が頭に入ってこない。まるで今が空想の出来事に思える。あの夢だった出来事に固執しているのだろうか。
そんなのは思春期のガキだけが悩んでればいいことだ。夢に固執していたら大人になってからの現実じゃ生きられない。
だが、俺は大人になりきれていないようで、夢だと認識した今日の出来事をなぞるように一日を過ごしてみようとしてしまった。
冷凍庫にしまってあったアイスバーで当たった。地震による揺れが起きた。再放送の二時間ドラマの犯人予想もあたった。大家さんが地震速報をネタに世間話にやってきた。
どれも全く同じように起きた。
あれは予知夢だったのだろうか?と思ったが興奮はさほどせず、途中から気味の悪くなった俺は銭湯にも商店にも行かず家に引き篭もった。
風呂に入らなくてもどうってことはないと開き直って、冷蔵庫の残りで適当に野菜炒めを作る。
デジャブというのは疲労から生まれるというのを何かで聞きかじった覚えがあったのでパソコンをいじくることもなく少し早めに寝ることにした。
目覚めると反射的にテレビの電源を点ける。このときほどニュース番組を見るのに自分の生涯で緊張したことはなっただろう。無常にも、既に二度見たニュース番組が放送されていた。
携帯の日付も変わらない。曜日は木曜日のまま。
一日が何度も繰り返されている。この奇妙な出来事を俺は信じたくなかった。
今日が終わらない事実は夏にも関わらず俺の体をやけに震えさせた。
2⇒3
ループ。
輪や輪の形をしたもののこと。始点と終点の一致する曲線、閉道。繰り返しの比喩。
インターネットにループがどういう意味か聞いてみた結果。
現実を振り返ろう。
三度目の今日を迎えた。
つまり、同じ一日を何度も体験している。
狂ってしまったかのようだが間違いない。
となれば、俺がしなければいけないことは――このループから抜け出す方法を模索することだ。
状況を整理しよう。
一、世界は一日単位でループしていてそのループを俺は知覚できている。
二、大家さん、テレビに映ったキャスター、芸能人はループを知覚していない。しかし、俺以外に知覚できている人間がいるかは不明。
三、ループの発動条件は俺が寝ること、もしくは寝ている間に何かが起きて巻き戻っている。
四、ループがどういう仕組みかは不明。何らかの原因で時間軸から切り離されて繰り返すというフィクション的タイムリープと俺を中心に世界が完成した世界五分前仮説を基点とした一日で完結する世界に迷い込んだという説が思い浮かんだものの確かめる術はない。
五、ループから外れる手段は手がかりすら思いつかない。
こういうものはしらみつぶしに条件を検証するしかない。
行うのは二と三の精査。四と五は現状では打つ手無しだ。
とりあえず今日は寝ないで外をブラブラしていよう。本日の方針を決めると、適当に見繕った軽装で最低限の身だしなみを整えると財布と鍵を持ってすぐに外へ向かう。
外見だけリフォームしたものの昭和の香りが隠せない根城を後に、相棒その二である赤のマウンテンバイクに跨り、駅前の人口密集地域へと目指す。
駅前まで徒歩で十分という触れ込みで入ったものの実際は自転車で七~八分というもので後で直線距離で徒歩十分の事実だったとき都会の不動産は怖いということを思い知った懐かしき過去に黄昏ながら住宅街から繁華街に変わっていく街並みを眺めていく。
商店やコンビニに行かず駅前に来た理由は軽いサイクリングで気分転換がしたかったと電車に乗って遠出をするのが主な理由だった。
行く場所はどこか。競馬場だ。
ギャンブル好きな親父に数度連れてこられたことがあったし地方競馬は確か平日昼間にやっていると耳にたこがつくぐらい聞いた。競輪や競艇を選ばなかったのは勝手が分からなかったというのもある。パチンコは、どれが当たり台か探すのが面倒で止めた。
株はよく分からないので選択肢から除外。
俺が選ぶ選択肢を消去法で削り取ったらそうなるのは至極当然だった。
行く理由はループによる誤差が起きるか。それでどうせなら確かめる手段で大金を手にしたものがいい、という浅ましい欲からだ。
今日は寝ないでいることが主なのだから空き時間は知らない事象の下見で潰す。現地にわざわざやってきたのは競馬場のような場所に同類がいないかを確認しにも行きたかったという理由も一応はある。
そうして競馬場にやってきた。
平日の昼間にも関わらず熱狂的な空気に包まれた異界に萎縮しながらも全レースをみて紙に書いてしっかり何度も復唱して暗記する。特に倍率の高いレースは入念に叩き込んだ。
この競馬場に残念ながら不自然な当たり方をするような人物が確認できなかったのが少し残念ではあった。
それが終わると周辺をフラフラとするだけで特に何もせず、地震が来る時刻がもう分かっているということ以外何もおかしなことは起きなかった。
帰宅ラッシュで混雑した時間をに人ごみを書き分け食料品売り場で安い缶コーヒーを箱で買う。
どうせループするのだから、と帰りは普段いかない高そうな店で舌鼓して満足感を得ながら家へと帰る。
銭湯は今日も入る気がしない。コーヒーをがぶ飲みした。ブラックにしたことをちょっぴり後悔しながらテレビを見て日付が変わるのを待つ。
〇時は簡単に過ぎて金曜日になった。日付変更はどうやらループ条件ではないらしい。思えば最初のループも二時過ぎまで普通に起きていた覚えがある。
寝ることがループのスイッチである可能性が濃厚になったが念のためまだ起きていたいと思い、まだ寝ることはしない。
テレビ番組がつまらないものばかりだったのでネットを見始めた。金曜は朝の九時からバイトなのだが
この分だと休むことになりそうだ。
後輩に後でネチネチといびられる自分が容易に想像できる。
だが出勤の時間がやってくる前に世界が白くなった。