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∞⇒1

 世界五分前仮説というものがある。

 その名の通り、世界は五分前に始まったのかもしれないという仮説のことだ。

 世界が積み重ねた過去というものは俺たちが生きる今現在と全く関連性などない、という中学二年生の少年少女なら惹かれること間違い無しの思想であろう。少なくとも、以前の俺ならそう、笑った。

 何も知らず今日を過ごしていた俺だったなら。


∞⇒1


 真夏の木曜の昼。

 世界は馬鹿みたいに暑い。

 コンクリートジャングルの名は伊達ではない。敷金礼金無しの家賃二万八千円の風呂無し六畳一間の格安賃貸物件は正に地獄だった。

 汗でねばついた肌にくっつく畳とやかましい蝉がうざったくて仕方がない。扇風機は熱風を体にぶつけるだけで逆効果だったので速やかに電源を切った。

 今日はバイトも大学もない。だが、彼女もおらず、遊ぶにも週末の給料が手元になければ無理だ。もっといえば外出する気力がない。俺が今唯一可能な娯楽といえば相棒、ノートパソコン。

 決まった今日のプラン。一日中、掲示板と動画サイトを巡廻して暇を潰すこと。

 完璧だ。

 大学生の夏休みにしては空しすぎる気もしたが貧乏と暇には勝てない。

 すぐさま、毎日どこかしらの暇人が集うネットの海にダイブ。アイコンをダブルクリックして開いたブラウザの脇にある履歴を漁る。

 毎日毎日ほぼ同じようにネットを見続けている依存症気味な自分に呆れつつもとある再生回数の多いアレンジサウンドトラック集の動画を流しながら過去ログを読み進めることを止めることはしない。

 ずらりと並んだやり取りに強烈なデジャブが襲うのは習慣過ぎてスレッド住民のパターンを覚えてしまったからであろう。いつものことだ。同じ人間が毎日集まり、同じ話を繰り返す。メンバーが固定化され排他的雰囲気が顕著なスレッドでは珍しくもない現象である。

 繰り返される読むに値しない文字の羅列を読み飛ばし最新の時刻のやり取りまで飛ばしていく。

 相も変わらずスレの主旨とは全く関係ない話で盛り上がっている最中だった。かくいう自分もそんな一人であり、並行して動画サイトを見たりネットサーフィンや課題をしてここによくどうでもいいことを書き連ねている。

 なんとなくだ。次にこんな文章が書かれるだろうなと予想してみた。

 こんなにデジャブるのだから当たるかもしれない、そんな軽い気持ちだったのだが俺の予測した文章が一語一句狂いなく画面に表示された。

 これをきっかけにして確信めいた予感が脳裏をよぎる。

 冷凍庫にしまったアイスバーで当たるかもしれない。そろそろ地震がくるかもしれない。このドラマの犯人はあの俳優かもしれない。大家さんが地震結構揺れたらしいよ、と地震速報を話のネタに珍しく世間話に来るかもしれない。銭湯でおっさんが転ぶかもしれない。

 予知能力者になったのかというぐらい、次々と的中していく。あまりにも当たり過ぎて銭湯の帰りにいつも夕食を買うのに寄る近所の商店で普段買わない宝くじを思わず買ってしまった。子供のように当たるといいなと、胸を膨らませた。

 鼻唄を辺りも気にせず歌いながら帰路に着き、深夜過ぎまでネットをして眠りについた。

 そしていつものように起きて、いつものようにテレビを点ける。

 画面に映りこんだものを見たとき、奇妙な違和感――デジャブが襲う。

 正体は、昨日のニュース番組が生放送で同じように放送されているという謎。

 曜日は木曜日。金曜日ではない。昨日が本来木曜のはずだ。

 それがターニングポイント。ループを初めて知覚した日。

 終わりの見えない一日が幕を開けた。

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