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1話・帰郷

夏と秋の境目、彼岸の時期に一人の少女が行方不明になった。

その日、少女は双子の弟と近くの公園で遊んでいた。

だが帰るとき、突如として彼女は姿を消した。

当時は「神社の巫女が消えた」とかなり騒がれたが、十年経った今はそんなに騒いではいない。

姉弟の生まれた家は地元の村では1つしかない神社で、姉は見習い巫女として、弟は神官見習いとして家の手伝いをしていた。

彼岸の時期になると家の近くの森の中にある小さな草原では彼岸花が一面に咲き誇る。

その森は地元では『冥界の森』と呼ばれていて、草原には幼児と女を拐って喰らう(あやかし)が暮らしていると言う噺がある。

拐われる子供と女の特徴は『必ず紅い紐を首輪のように頸に付けている』らしいが、見えるのは霊感の強い者だけだった。






―――幼い双子は、彼岸花が両端で咲き誇る石階段を上っていくと少女がこんなことを言った。

「ねぇ。冥界の彼岸花の毒は蒼色なんだよ」

「?」

「蒼は死の色。生ける者の世界の彼岸花の毒は紅いけど、冥界の彼岸花の毒は蒼色なの」

少年は何を言っているのか分からないといった表情になる。

「彼岸花の毒に色はないはずだよおねぇ…ちゃん?」

そう言い彼は振り返ると、少女は姿を消していた。

その後、双子の両親は息子も妖に拐われると思ったのだろう、親戚の家がある都会の小学校に転校させた。


そして、十数年になった彼岸の時期。

少年・蒼羽(そらう)は母親の葬式の為に都会から故郷の村、恂戎(しゅんじゅう)村に戻ってきた。

電車は一日に二・三本、バスは五時間に一本といった具合の田舎村なので、都会に十数年住んでいた蒼羽は幾らか不便を感じた。

「おっ、東輝ん家の息子じゃねぇか」

バス停留所にあるベンチに座っていると、父親の友人である相川と会った。

「相川さん、お久し振りです」

「見ねぇうちに随分とべっぴんさんになったじゃねぇか」

「…俺は男です」

冷めた目で睨むと相川はわざとらしく肩を竦める。

「おーおー怖い怖い。今のお前を見たら水穂のヤツ、喜んでいただろうな」

「…やっぱり瀬蘭(せら)姉さん、見つからないんだ…」

「ああ。ついに水穂は病気になって死んじまった。末期の肺癌だったらしい」

相川は悲しげに語った。

蒼羽は小さく俯いた後、空を見上げた。

真っ青に澄みきった空は何事もないかのように雲と風を運んでいる。

そんなようすに蒼羽は羨ましさを覚えていると、白い軽自動車が目の前に停まった。

見覚えのない車から降りてきたのは父親である東輝だった。

「蒼羽!」

「ただいま父さん」

笑顔を見せる息子に対し、東輝は辛そうな表情を見せた。

「すまないな。こっちの勝手で転校させてしまって…」

「いいよ、そんなの。まぁ、都会の方が何かと便利だったけど…」

「ははっ、そうか。梓達に礼を言っとかないとな」

疲れきった父の笑顔に蒼羽はやるせない気持ちになったが、すぐに彼も笑顔になった。

東輝の車に乗り込み、蒼羽は産まれた家に向かった。

その間、彼は父に様々な事を離していた。

「…へぇ、ひとりかくれんぼという降霊術か…都会ではいろんなものがあるんだな。他にも、その都市伝説とやらはあるのか?」

「うん。後は、クトゥルフ神話生物が存在したって話もあるんだ」

「クトゥルフ神話?」

なんだそれと言ったようにキョトンとする東輝に蒼羽は頷く。

「かなり有名なんだよ。神話生物を実際に見たとか、猟奇的殺人事件が起こったとか、結構ニュースになっているんだ」

「へぇ…こっちはあまりテレビが繋がらないから、知らないな」

ははっ、と楽しげに笑う父の姿に蒼羽は改めてこの村がかなり世間に疎い事を実感した。


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