Part4
「――――先輩、この戦争って何ではじまったんでしたっけ?」
「前も言わなかったけか? いわゆるあれだ、単純な国土争いだろ? ――お前、俺たちの庭に入ってきてね? ――そこは元々俺んとこの庭だったんですけど何か? ――――みたいな。」
「そこまでして広げたいもんなんすかね?」
訳が分からないとでもいう風ように首をかしげる相棒を見てなんだかほほえましくなる。当たり前と言えば当たり前だ、おそらく彼が物心ついたころには、この戦争はすでに始まっていて、何だかわからないうちに兵士になってしまっていたのだろう。おまけにいきなり配属されたのが、こんなへんてこりんな場所での見張りと来たもんだ。
俺ですら、生まれた時にはもう戦争が始まっていたのだ。彼のように生まれて日も浅い者に分かるはずがなかろう。
「なんでも、所有権が曖昧な島があったらしい。で、そこの近くで石油が取れただか何だかってニュースが発表されて。――――あとはご想像通り。最初は言い合いだったけど、最終的には手が出て、あれよあれよという間に開戦。今に至るってわけだ。世界史か何で習わなかったのか?」
「――――すいません、俺、学校行ってないっすよ」
思わぬところで、地雷を踏んでしまった。
何と言っていいのか分からなくなった不甲斐ない俺のせいで沈黙が生まれる。気を使ってくれたのか、相棒の方から話を続けてくれた。
「――――でも、どっちかが諦めたらそれで済むんじゃないっすか? そこまで――百年近くも続けてまで勝ちたい戦争なんて、お互いしんどいだけっすよ」
「さっきもお前、言ってただろう?」
「さっきって、いつのことっすか?」
「しりとり終わって、俺が次の対戦断った時だよ。『誰だって、何だって負けたら悔しいに決まってるんすよ!』――要するにそれだよ。負けるのが悔しいんだよ」
意地の張り合いみたいなもんかな、最後にそう呟いてコーヒーをすする。相棒も納得したのかどうかわからない、複雑な顔をしながらコーヒーに口をつけた、が、むせて吐き出す。
苦しそうにせき込む彼に、テーブルの端に折りたたんで置いてあったタオルを投げてよこす。口元を押さえながら咳き込み続ける彼を横目に、カップを手に取ったまま、また窓辺へと向かう。
白いラインは、とうにぼやけて元の形をとどめてはいなかった。
自分が空ばかり見ていたことに気がつき、今度は視線を下におろす。
この見張り台は、雰囲気だけで言うならば一階が資材置き場で二階が居住スペース、といったところか。これだけの設備がきっちりと、一ミリもはみ出ることなく国境上に設営されている。その弊害としてウソみたいに狭くなっているのだが。
そして、国境の真上だからこそ、俺たちはどこからも攻撃を受けずに、こうして生きていることができるのだ。
この窓から見るとよくわかる。国境沿いに作られた塀には所々穴があいている。小さい子供なら――――なんて表現をこういう時にはよく見かけるのだが、実際は大の大人でも、もしくは親子が肩車したり、手をつないでいたって通れるくらいの穴が普通にあいている。