Part3
「こちらは対A国対策本部。最前線特殊監視部隊よりの交信を承った。用件を求む。どうぞ」
「カマキリって食べれるの?。どーぞ」
「・・・それは私に調べろということか。どうぞ」
「おう、いぇー。どーぞ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・結果が出たぞ。カマキリは美味しくない。どうぞ」
「サンキューベリマッチョ。どーぞ」
「最後にこちらからも一言いいか。どうぞ」
「ひーはー。どーぞ」
「もう少しましな理由で連絡して来い! オーバー !」
苦笑いしながら、再び通信機を放る。もはやただのガラクタと言っても過言ではないそれは、吸う回床でバウンドして、箪笥の下のわずかな隙間の下へと、その姿を消した。
機械的に実行される返答。
明らかにそれとわかる合成音声で作り上げられた会話には、感情やぬくもりなんてものは微塵も感じられなくなっていた。本部がこうなってしまったのは、いつからだろう。
パニックになって、大騒ぎして、しまいには気がふれるのではないかと考えていたが、実際直面すると大したことではなかった。大体、本部に生きた人間がいたときだって、俺たちには何もしてくれなかった。あんな集団、いてもいなくなっても何も変わりはしない。
正直なところを言うと、兆候だけなら前々からあったから、というのが落ち着きの理由だろうか。
毎日のように送られていた、近所の人からの励ましの便りが来なくなった。
週に一回は物資を届けてくれた、バイトのおばさん達が現れなくなった。
日々の情勢を伝える新聞も、どんどん劣化していき、しまいには来なくなった。
家族へ贈った手紙に返事が返ってくることも、もうなかった。
少しずつ、自分たち以外の何もかもが失われてきていることには気づいていた。
学があった、とは決して言えないような俺でも気が付いていたくらいだ。後輩だって察していただろう。それでも、俺たちはそれについてとやかく言うことはなかった。――――今日は来てないですね、――――そうだな。――――まるで馬鹿らしいほどのルーチンワーク。
目まぐるしく変わっていく外の世界に干渉することは、この隔絶された――最前線にして、最も戦乱から遠い、この国境線上の見張り台での、惰性のように続く仮初めの平穏を、崩すことと同義であったからなのかもしれない。