Part2
溜息をつきながら、奇声を発しながら悶え続ける相棒を強引に抑え込む。
「そこまで悔しがることはないんじゃないか。たかがしりとりなんだし」
俺の言葉を聞くや否や、奇声を上げるのを止め、俺の方をキッと睨む。
「〈たかが〉って。〈たかが〉ってどういうことですか! それが言えるのは先輩が勝っているからですからね! 誰だって、何だって負けたら悔しいに決まってるんすよ!」
「分かった分かった。じゃあ次はお前の得意なゲームで勝負してやるよ。まだ時間はあるだろ?」
「いや、いいっす。さっきからテーマは変えてますけどずっとしりとりしてるんで今日はもう――――いいっす」
「なんだよ、それ。俺ちょっと乗り気だったのに」
確かに、さっきから大の大人が二人そろってしりとりばかりしている。今までやっていたのは『海の生き物』縛り。その前は『食べられる物』縛り。その前は『飛ぶもの』縛り――――。あげていったらきりがない。
「大体しりとりって、本当にやることが無くなったときくらいしかしないっすよね」
「やることなくてもやらないよな」
「何がすごいって、ここまでで1600文字近いんですけど、未だにしりとりの話題で引っ張っているというね。そろそろ本題に入りましょうよ。物語を進めましょうよ」
「物語を進めるって言ったって・・・・・・。実際俺らは今、スタッフロールが流れ終わっているのに、名残惜しくて席を立てずにいるようなもんだからなぁ・・・」
俺はブツブツ言いながら窓にかけられている、擦り切れてボロボロになったカーテンをそっと開く。あちこちにひびが入り、かろうじて窓としての役割を果たしているガラスの向こうには荒れ果てた――――災害や風化によるようなものではなく、それは――人為的な荒廃だった。
「で、終わったんすか? 今日の分の戦闘は?」
「いや、もうすぐだな。――――5、4、3、2、1 ――」
カウントダウンが終わるか終らないかのうちに、遠くから小さな音が聞こえてきた。それは例えるなら、ロケット花火。しかし実際は、紛れもないミサイルだ。それもとびっきりの破壊力を秘めた必殺の兵器。その、殺意の塊が、俺たちの頭上を通過していく。
すこしすると、先ほどのミサイルとは逆方向から別のミサイル。最初に飛んできたのが敵国からの攻撃であるので、今度のは自国からの攻撃のようだ。
窓から空を見ると、そこには二本の白いラインが真っ直ぐ並行に流れていた。消して交わることなく、真っ直ぐに、地平の果てへと。
コトリと。突然聞こえた小さな音に振り返ると、相棒がコーヒーを沸かして、テーブルに置いてくれていた。インスタントの安っぽい、どこの豆かもわからないようなものだが、静かに部屋に満ちるその香りは、優しく、温かい。
自分用のコーヒーをすすりながら面倒臭そうに呟く相棒。
「すっかり見慣れましたね、あれ。最初はいちいち地下に潜りこんでいたじゃないですか。音がするたびに退避ぃーって。先輩マジで必死でしたよね、あの頃」
「油断したら普通に死ぬからな。街の状況とか毎日連絡きていたけど――――ひどかっただろ?」
「よくわかんないっすね。あまりにも現実味が無くて。――――なんか違う国の話みたいでした。――――この戦争が終わったら本部に殴りこみに行きますよ」
「その本部が、今じゃもうこのザマだけどな」
部屋の隅に投げ出された通信機を拾い上げると、再び電源を入れる。先ほどと同じように、ほんの少し待つだけで本部へとつながる。