Part1
「・・・・・・!」
「・・・・・・ダイオウイカ」
「カツオ」
「お、お、お・・・・・・オニマキエイ」
「イソギンチャク」
「クジラ!」
「それ、もうお前言ったぜ」
「マジすか!? じゃあ・・・。えーっと、クロイルカ」
「いねーよ。そんな生物」
「いやいや、いますって。絶対います!」
「・・・・・・何を根拠にそこまで言い張れるんだよ」
「だってシロイルカがいるんですよ? 黒もいるに決まってますって!」
「だから、その根拠を聞いているんだよ」
「二色あった方が色々便利じゃないですか」
「・・・それはお前一個人の意見であって、大自然の意思とは食い違うと思うんだが・・・」
「なんすか、大自然の意思って。先輩無神論者じゃありませんでしたっけ?」
「別にそういう意味で言ったんじゃないよ。――――やっぱクロイルカはいねぇよ」
「ふふふ。先輩見苦しいっすよ。素直に負けを認めたらどうっすか?」
「どちらかと言えばお前が聞き苦しいんだよ。なんで頑なにクロイルカを推すんだよ。言っとくけどそれ、そんなに面白くないからな」
「・・・・・・だったら聞いてみたらどうっすか? それで決着付けましょうよ」
「・・・お前がそれで満足するなら別にいいが・・・」
「ほら、通信してみてくださいよ」
「どこから出てくるんだよ、その自信・・・」
クロイルカの存在を揺るぎなく信じる相棒の熱意に負けた俺は、手元にあった通信機の電源を入れる。なにぶん旧式なので繋がるかどうかにはムラがあるのだが今回はすんなり繋がったようだ。一瞬だけ鼓膜を震わせるような騒音が鳴り響いたが、すぐに人の声が聞こえた。
以前は本部に連絡するのにこまごまとした手続きが必要だったのだが、ある日を境に無くなってしまった。・・・面倒くさい暗号コードの復唱なんかがなくなっただけだから別にそんな不審に思うほどでもないが。大方別の部署の連中の苦情が上に通ったのだろう。
「こちらは対A国対策本部。最前線特殊監視部隊よりの交信を承った。用件を求む。どうぞ」
「いや・・・、大したことじゃないんですけど。クロイルカって実在するんすか?どうぞ。」
「・・・それは私に調べろということか。どうぞ」
「ええ、まあ。そうっすね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・結果が出たぞ。クロイルカは実在しない。どうぞ」
「あー、やっぱりそうっすか。ありがとうこざいまぁーす。どうぞ」
「最後にこちらからも一言いいか。どうぞ」
「どうぞ。どうぞ」
「もう少しましな理由で連絡して来い! オーバー !」
ブツンと、荒々しく電話を切ったような音がして通信が途絶えた。俺は通信機を隅に放ると相棒に向き直る。相棒は期待したような目でこちらを見つめている。
「で、本部はなんて言ってたっすか?」
「クロイルカはいないってさ」
「ウソだぁーっ!」
とたんに床に突っ伏して床を転がり始めた相棒。大の大人が本気で悔しがっているのもなんだかいたたまれないし、何より狭い場所でこんなに激しく動かれるとシンプルに邪魔だ。二人分の質量が横になっているだけで息苦しいのだ。